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    sena_11go

    @sena_11go

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    sena_11go

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    ◆オディハへ向かう船の中で、ライナーが思い出を語る話。
    ◆山奥組

    干し肉今夜にはオディハに着くだろうというオニャンコポンの指摘を受け、船内の食糧庫を急いで開けたのは、ジャンとコニー、そしてライナーだった。
    軍港での死闘から海に出てからは不気味なほど穏やかで、ついさっきまで疲弊していた身体をベットに投げたまま動けずにいた3人だったが、意を決して起き上がってはエネルギー補給に向かう。
    「到着した先で、また何が起こるか」
    「全くだ。とにかく食える時に食っとかないと」
    「・・・これは」
    街から持ってきた食糧を十分に積み込むことは叶わなかったが、幸いにも船の方に3人が目を見張る位のものが樽に入っていた。
    パンとワイン,それから干し肉。
    3人の喉がごくりと鳴る。
    「ひとまずワインは回避しような。何が入ってるかわからねえし、酔っ払ってる暇もねえし」
    「バカか、当たり前だ。しっかし、この肉いくらあるんだ?ナイフで切れるか、ライナー?」
    「あぁ、まかせろ!」
    表面はホコリまみれだが、ナイフを持って腕っ節の力で削り取れば、すぐに深紅の色をした獣の肉が見えてきた。
    3人はいよいよたまらず、地面や樽に座り、その硬い肉をかじった。
    辛うじて歯で噛みちぎれる位の弾力。
    いつから転がっていたのかはわからないが、胡椒と塩がしっかり肉になじんでいて、保存状態も良い。
    特にライナーには、その味に思い当たるものがあり夢中で食べた。
    こんな味のある料理を食べたのは、もう随分と前のような気がする。
    (ガキの時以来か・・・?)
    硬いパンと一緒に何度も咀嚼すれば、より味わいは思い出と共に口の中に広がっていく。
    「・・・どうした?」
    「・・・・・・」
    「・・・・・・」
    一方気がつけば、ジャンとコニーの手は止まっていた。
    ライナーは慌てて唇を拭き自分も食べるのをやめるが、2人はうつろな目を肉から離さずにいた。
    「仲間を殺した後に食う肉か・・・」
    「・・・俺が巨人になって、人を食ってるみてえ」
    コニーの手の震えを見て状況を察した。
    軍港でのイェーガー派との死闘。
    それは2人にとっては長年の同胞を裏切り、切り捨てる行為だった。
    自分もその罪の重さに立場を錯乱させた身だから、ライナーには彼らの心中が痛いほどわかる。
    ただ・・・と、肉をもうひとかじりして話し出した。
    「だったら、食わなきゃならないんじゃないか」
    「ライナー」
    「食うのが、俺達の義務だ。昔から、そう思う」


    『お前は、戦士候補生だろ』

    浮かび上がった、子ども時代の記憶。
    ベルトルトの胸ぐらを掴み、激しく説教する自分がいた。

    「島でも肉は貴重だったが、レベリオでもそれは同じだった。人を食うお前らの姿が重なると言ってマーレ人は、肉やその他のたんぱく源も全てせしめ、収容区のエルディア人の体つきは総じて薄かった。しかし戦士と戦士候補生は違った」
    祖国を守る者達は、強靱な肉体を築きあげなければならない。
    ライナーもまた候補生になったばかりの真新しい腕章をつけ、軍部の配給をベルトルトと一緒に受けたことがある。
    子どもが入れる位の大きな麻袋に、干し肉や野菜,チーズ等が惜しげも無く入れられていく。
    まるで夢のような光景に、2人は赤くなる頬を隠しきれなかった。
    『しっかり食って祖国のために働くんだ、いいな!』
    『はっ!』
    引きずるほどの荷物を受け取っては互いに無言で歩き、そして本部を出た途端に喜びを爆発させた。
    『すっげえな、おい!見たことあるか、こんなでっけえ』
    『ライナー、静かにしなきゃ、他の人が聞いたら』
    『とはいえ、お前もさっきから口元緩みっぱなし!』
    『ええ~』
    『ハハハ!』
    食べること―それが2人の最初の任務だった。
    ライナーの母・カリナは配給された食材で栄養価の高い食事を作り、毎日息子に与えていく。
    『こうすることが、候補生を持つ親の務めなんだよ』
    彼女はいつも言っていた。
    そしてこの受け売りをライナーもまた使うことになる。

    『どういうことだ、ベルトルト!!』

    戦士候補生として大分立った頃。
    ライナーはベルトルトの肩を思いっきり押し、収容区の壁へとぶつけた。
    『おい、やめろって!』
    傍で見ていたマルセルが、地面に倒れ込むベルトルトを擁護しにかかる。
    『ベルトルトの親父さんは寝たきりなんだ。子どもに満足に食わせてやれない時だってあるだろ』
    『それを何とかして食わすのが、候補生を持つ親としての勤めだろ!俺達は戦士になるんだぞ!?俺は鎧、お前は超大型をこれから継承するんだ、そんな奴が、突き飛ばされて軽く吹っ飛ぶような身体でどうすんだ!!』
    『・・・・・・』
    食事と訓練を経て候補生達の体つきは大分変わってきたが、いつまで経ってもベルトルトだけが、一本のつくしのように細い身体でいた。
    それを不審に思ってライナーが問いただせば、あまり食べてないという返事。
    祖国への忠義心に固まった心が、一気に火を噴いた。


    ジャンが一口水を飲む。
    「お前って、昔からどうしようもねえ奴だったんだな」
    「ああ、そうだ」
    「で、ベルトルトは何て」
    「さらに白状した」

    ベルトルトはライナーを連れて塗装の剥がれた建物へと立ち寄った。
    そして勝手口でタバコを吸っていたマーレ人に干し肉を差し出し、代わりに何か小さな袋をもらう。
    『父さんの薬』
    『・・・・・・は?』
    『すごく高くて・・・でも、これを飲めば、ぐっすり眠れる位に痛みが取れるんだって・・・だから・・・』
    『・・・・・・』
    『ごめん』
    ベルトルトは泣きそうな顔で、小さい声でそう言った。
    無論、軍部が知れば候補生の資格を剥奪される。いや、それどころか、
    『お前・・・楽園送りにされたいのか?』
    『・・・ごめん・・・でも・・・父さんが辛そうにしているのを見たく無くて』
    『いや、なんでそれを俺に言ったんだ・・・』
    『ごめん・・・ごめんね・・・』
    めそめそと泣き出す親友に、ライナーはいよいよ頭を抱えた。
    規律違反を知った以上は、隊に報告しなければならない。
    でないと、自分も家族も隠蔽した罪を負うことになってしまう。
    ただ、細々とした身体を折り曲げしゃがみこんだこの少年に、自分は何度も助けられてきた。
    ライナーは迷っていた心の針を振り切った。
    『いいから。とにかく肉を薬に変えていたことは言うなよ』
    乱暴に涙に濡れた腕を取り、自分の家へと連れて行く。
    そしてカリナに、ベルトルトの親が十分に食事を提供できないことだけを伝えれば、彼女はその裏事情を知ってか知らずか「はじめから言ってくれればいいのに」と笑い、もう1人の戦士候補生にも温かいスープを差し出したのだった。
    こうしてベルトルトはライナーの家で、定期的に食事をとったり、分け与えてもらったりしながら、島に渡るまでの時を過ごした。
    はじめて口にした肉をベルトルトは素直に「美味しい」と言って、周りが驚く位沢山食べた時もあった。
    おかげで彼の身体つきも次第によくなり、それに伴って顔色もまた明るくなっていく。
    時にはパンに肉を挟んだだけのものを屋根裏部屋に運んで、2人でかじったこともあった。
    窓から夜空が見え、そこに来たる始祖奪還作戦で島に上陸する自分達を夢見る。
    『いよいよだね』
    『ああ。・・・ベルトルト』
    『うん?』
    『今はしっかり食って任務に備えよう。全てが終われば、きっと肉を薬に変えなくても良いようになるから』
    『・・・わかった、食べるよ。それが世界を救う、僕達の義務だからね』


    気がついたら口元が笑っていた。
    コニーに指摘され、慌てて表情を締めるライナー。
    「すまない、何の話だ」
    「お前が勝手に長々と」
    「・・・すまない。上手かった」
    ライナーは皿代わりに敷いていた布を畳む。
    さらに、その上にジャンとコニーもまた4つ折りにした自分達の布を乗せてきた。
    彼らもいつの間に食べたのだろう、全て無くなっていた。
    「あれ、3人で!」
    そこへ開いていた食糧庫の扉からアルミンが顔を覗かせる。
    彼もまた腹を空かせていたようで、ライナーがさらに肉を切ってパンと一緒に渡してやった。
    逆に食べ終わったコニーとジャンは倉庫を出て行く。
    「さあ、義務を果たしにいくか・・・」
    「ああ、お前の友のためにもな」
    「は・・・」
    ジャンがふとライナーを振り返り、少しだけ口元に笑みを浮かべた。

    「今度一発殴れよ、俺を」
    「なぐ・・・」
    「お前みたいにすぐに治りはしねえから、一発だけな」

    さらなる説明はなく、扉が閉まってしまう。
    ライナーは言葉の意味にしばらく考えを巡らせていたが、ふと華やいだ隣の声に意識が移った。
    「美味しい・・・!」
    アルミンがパンに肉を挟んで、夢中で食べている。
    もくもくと咀嚼しては、時折噛みしめた味にうっとりする。
    その表情は、まるで戦場には似つかわしくない笑顔だった。

    「ああ、懐かしい味だ」

    Fin
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