You Belong With Me「はぁ〜〜〜ッッ...」
いつものハードデックに呼び出されて、カウンターに近付くと大きな溜息をついて携帯をバーカウンターに押し付けそうになっている彼が居た。
「わっ...ちょっと、ハングマン!危ないよ!」
僕は後ろから近づいて彼の携帯を間一髪の所で取り上げた。
本当に危ない、危うく彼の半月分位の給与がたった一つのこのミスで吹き飛ぶ所だった。
ペニーはバーカウンターの奥から「ナイス」といった表情でこちらを見てクスクス笑っている。
彼女とのこのやりとりも僕にとってはすっかり慣れた光景になっていた。
「お、やっときたかぁ...随分待ったぞ、まぁ座ってくれよ」
急に非番の僕を呼びつけた当のハングマンはたった今僕が半月分の給与を救ったというのに、礼も言わずに自分の隣の席をぽんぽんと叩いて僕の着座を促した。
先程取り上げた携帯の表示画面を見ると、着信が5件ほど溜まっていた。それを彼に返しながら僕は大人しく隣に座る。
「ハングマン、君の携帯...」
「あー、着信だろ?良いんだよ。ちょっと逃げたくてここに来た。帰るまでほっとこうと思って」
「いいの?そんな事して...?」
「だから、いいんだよ。とにかく、今日はもうこのままお前と飲みたい気分なんだ」
少し最後の方は彼の口調が「もういいだろ」と訴えかけていたので、僕もこれ以上は聞かないでおこうと口を閉じて、ペニーにレモネードを注文した。
手早くサーブされたレモネードを受け取ると、隣から「やっぱ、お子ちゃまだな」と軽い声が聞こえる。不機嫌な顔を直して彼はにかり、と笑った。
大概彼が僕をここに呼び出す時は決まっている。
彼の携帯の着信主の事についてだ。
いつからだろう。1年ほど前、例の特殊軍事作戦が終わってから全員の色んなわだかまりも溶けて、連日ハードデックに集まっては騒ぐ様になってからだったような気がする。
ある時ハングマンが僕をバーカウンターの方から手招きするので「また余計な軽口でも言われるのだろう」と覚悟して近付くと、肩をがしりと捕まえて彼は僕の顔を神妙な面持ちで見つめて小声で問いた。
「なぁ、ボブ。お前口堅そうだよな?」
「は?ぇ?はぁ...」
僕は予想もしていなかった言葉にすっかり目を丸くして間抜けな言葉が出たのは覚えている。そこからハングマンは再度同じ質問を投げかけた。
「だから、お前口堅いだろ?なぁ」
「く、口が堅いって...まぁ、確かにフェニックスとは残念ながら基地も違うし、僕はリモワでも固定のフライトパートナーは居ないからそんなに毎日話す人はいないけど...」
そこまで言うと、ハングマンは安堵したような表情を一瞬見せると「そっか!やっぱりな!俺の見立て通りだ!」とあの特徴的な笑顔でははは!と笑いながら僕の背中をぱしぱしと叩いた。
急になんなんだ?そもそも喋る相手が身近に居ない事を嬉しがるのは失礼な気がする。
僕だってそりゃ友達...とちゃんと僕から言えるかは分からないけれど、こうやって皆んなとハードデックに来てお酒の場でも溶け込む努力はしている。話だってちゃんと聞くし、返事も僕なりに頑張ってしている。
頭の中で日頃の自分の行いを思い出してぐるぐると思考を回していると、目の前のハングマンが口を開いた。
「なぁ、口が堅そうなお前だけに聞いて貰いたい話があるんだよ、いいだろ?」
「それって何か犯罪でも一緒にやろうってお誘い?僕そういうのは断ってて...」
「バカ、違う!だから...その、率直に言うと、俺の秘密の話し相手になって欲しい」
皮肉で返した僕の答えに妙に真剣なトーンで彼が返した返事が余りにも僕に対する物に相応しくなかったので、僕は狼狽えたのを覚えている。
「君との話し相手??いや 待って、おかしいよ。何で僕?そもそもフェニックスやルースターや、何より君にはコヨーテがいるじゃないか」
慌てた僕の真っ当な返事を受けてハングマンは手を振って無理無理、といった反応をする。
「まず、フェニックス、あいつはダメ。正しく鳥の羽並に口が軽すぎる。
次にルースター、候補だけど多分よっぽど思い詰めて何かあったらマーヴェリックに話すだろ?流石に彼にバレるのは俺的にも色々ややこしくなりそうだし、余計な詮索されるのは避けたい。
最後にコヨーテ、俺の理解者だしマジでいい奴だ。だけどいい奴過ぎて俺がこの話をしようとするとすぐアドバイスを出してくる。俺はアドバイスが欲しいんじゃなくて話を聞いて貰いたいだけなんだよ、な?」
そこまで一気に捲し立てるように話すと、再び彼の両手が僕の肩を掴んだ。
「そこでボブ!お前ってわけ!!優秀な俺の判断能力に間違えが無ければお前は口が堅いし、何より俺の話を黙って聞いてくれる!そうだろ??」
目の前に深い緑色の瞳をキラキラさせたハングマンの顔がある。
僕が彼のそんな瞳や例のあの笑顔に勝てるわけもなく....僕は気付かない内に首を縦に振ってうなづいていた。
そうして僕とハングマンの奇妙な秘密話の関係は始まったのだった。
レモネードの優しい甘さと爽やかな酸っぱさが喉を降りていく。
まるでそれは教科書通りの言葉で言うと、おそらく「恋の味」になるのだろう。
1年前のあの時どうして僕が彼の変な秘密の誘いを断れなかったのか、もちろん突然の思いもよらない依頼の勢いに呑まれたのは確かにあると思う。そこは認めないといけない。だが、それよりも何より僕はハングマンが好きだった。
いつから、どうして?なんて話は野暮になるから今思い出すことではないかも知れない。
少なくとも例の作戦で召集されて色んなちょっかいをかけられつつ、一緒に過ごす日々が続く中で彼の本当の素直な顔が見え隠れする様になると、僕はそんな真面目で根が優しい彼に急激に惹かれて行ったと思う。
そんな彼から突然の僕と2人だけで自分の話を聞いて欲しいだなんて依頼、僕が断る理由はなかった。
実際に僕にそんな親しい話し相手もいなければ、休日に予定がある訳ではないし。
もちろん僕はそんな「僕は君が好きです」だなんて態度は今までもそしてこれからも彼に対して全く見せる事はしなかったけれど。
だって彼には....
ヴーヴーヴーヴー
電話だ、ハングマンの手に握られている携帯が鳴る。
「ハングマン、電話…」
「いいんだよ、別に…」
電話の主は既に彼に5回コールを掛けている人物と一緒だった。
僕の指摘も虚しくコールが鳴り続ける。
「ハン…「だから、良いって言ってるだろ!」
彼は遂に僕の言葉をこれ以上言わせまいと手の中で鳴り続ける携帯をバーカウンターに叩き付けた。
僕は顔でペニーに目配せして「今はダメだ」と目線だけで制止する。有能なオーナーの彼女は最初の音で直ぐに事態は理解したようで、彼女の名物の鐘は鳴る事はなかった。
額に珍しく少しの汗を浮かべて感情を出した彼、1年近く彼の秘密の話相手になってきてはじめての光景だ。僕もこれはよっぽどの事が有ったのだと思い、少したじろいだ。
秘密の話相手となった1番最初の始まりが僕の頭の中で巡廻する。
「何も否定も肯定もせず、ただ聞いてくれれば良いから。」
ビールを片手に始まった彼の話は、自信家の彼らしくないと最初から思った。
だってそれはお決まりの訓練での自慢話でもなんでもなく、彼の恋人の話だったから。
話を聞くと、こうだ。
ハングマンにはすでに3年目になる恋人がいる。つまり、出会いはトップガンの訓練生として以前、このノースアイランドに来ていた時期に遡る。
このハードデックか訓練の帰りか分からないが出会ったらしい彼女は、スタイル抜群のまるで絵に描いたような金髪の美女だった。
一度だけハングマンが彼女の写真を見せてくれたが、本当にハングマンにお似合いだと僕は素直に心から思ったものだった。
てっきり僕はそのままその彼女がどんだけ可愛いかとか、良い子なんだとかを聞かされると思っていた。
確かにハングマンの惚け話を意見も言えずに聞かされ続けるのなら、フェニックスやルースターやコヨーテは「拷問だ!」と言って断るだろうな。と頭の隅で考えていたような気がする。
でも、彼の口から出て来たのはまたしてもそんな思慮の浅い僕の考えとは全く別の話だった。
「彼女がさ、俺が海軍のパイロットという事をいつまで経っても理解してくれない。3ヶ月もこっちを離れる事があると、もうこの世の終わりみたいな口調の電話がかかって来て手を焼いてるんだ。」
僕ら海の飛行機乗りにとっては、陸に残された人との関係は深刻な話だ。
トップガンの訓練生として彼女と出会った頃は毎日の様に会って楽しんで、彼も彼女もそれは幸せだっただろうと僕は推察した。
だが、僕らが陸でそんな羽の休め方をしてるのはあくまで例外中の例外な訳で。
トップガンを卒業した後にそれぞれの部隊に戻り、また空母から発艦する生活に戻れば、それは長期間の離別生活を意味する。
そこから、ハングマンと彼女の関係は歯車が狂い始めたらしい。
元々、ハングマンはすごく真面目な男で、僕だってびっくりするくらい彼は人を見ているし、相手に尽くす。
そんな彼に離別の3ヶ月は人が変わったように多少なりとも彼の仕事をなじるような電話をかけ、陸に戻れば1日も離れたくもないと束縛する彼女に、ハングマンは本当にきちんと尽くしていると思うし、実際に彼も頑張っていた。
「少しでも、俺が笑顔で接して出会った頃の様な楽しい日々に戻れれば、俺も何とか救われるんじゃねえかなって思って。」
あらかたの説明を終えた彼が少し自嘲気味の笑顔でビールを一口煽ったのをとても鮮明に覚えている。
ただ、辛そうだった。
僕からしたら美味しくもないビールは、本当に美味しくなさそうで。
「だから俺がたまに1日だけ逃げる理由になってくれよ、お前都合つきやすいだろ?ごめん、利用してるような聞こえ方をしたら悪いが、そんなつもりじゃない。ただ、話を聞いて欲しいんだ。」
「......分かった、僕は君の話、喜んで聞くよ」
目の前の人に僕の想いが叶わないのは最初から分かっていたことで、それでも叶わないのは分かっていても、僕はこのハングマンという人間がこんな感情を抜きにして大好きだった。
そんなハングマンの助けに少しでもなるのならと、その時もレモネードを飲んでいた僕は、彼の不味そうなビール瓶とグラスをカチン、と約束を交わす様に音を鳴らした。
目の前で項垂れるハングマンがいる。
僕の意識は始まりから現在に一気に引き戻された。
6回もコールを掛けられてそれを頑なに取ろうとせず、ここに逃げる理由を作るために僕を呼びつけたハングマンと彼女の間に、何か決定的な物があったであろう事は鈍い僕にだって分かる程度には明白だった。
僕は今までこの一年、ただただ彼の話を聞いていた。
もちろん他愛の無い話や、彼の好きな音楽の話、彼の同僚の話や、好きな料理や将来やりたい事だって何だってここに呼び出されれば聞いてきたし、多少なりとも僕も話を返した。
ただ、最初の約束通り僕は彼に彼女の関係について一言も問いただしたり、意見を言ったり、僕が君のことをどれだけ好きかだなんて話は全くしてこなかった。
だって僕は君のことが本当に好きだから。
でも、目の前でらしく無い姿を見せる彼は、もうどう見ても限界だった。
「ねぇ、ハングマン」
「んだよ、当ててやるよ。らしくねえってか」
目線も合わさずに彼はカウンターに半ば突っ伏している。
「ねぇ、ハングマン、僕の話聞いて」
「お前は俺の話を聞くためにここに来てくれてるんだろ」
あぁ、止まれ、止まれ、止まれ、話すな、この話し相手の関係が終わるぞ。
頭の中の酷く冷静な自分が警鐘を鳴らすが、目の前の彼の有様を見て、僕ももう頭の中の自分の声を聞けるほど冷静ではなかった。
「なんで、僕じゃ無いの...」
「は?」
時が止まったと、本気で思う。
自分でも本当は彼に「大丈夫?」だの「話を聞くよ」だなんて言葉を掛けるのが1番の正解だって分かっていて何でこんな言葉が出てきたのかわからない位だ。
それでも、止まった時を僕は動かす。僕の話を聞いて欲しくて、口は勝手に喋り続ける。
「僕、知ってるよ 君が本当はFoghatやStyxだなんて昔の曲が好きなのに、彼女の前ではそんなの聞かないで今時の曲ばっかり掛けてるの」
「おい、ボブ」
「君のユーモア、本当に下らなくて笑えないよね、でも僕、君が必死に考えたユーモア聞いてそれに僕も嫌味で返すの大好きだよ。それなのに君は彼女の前ではその下手なユーモアも言えないでしょ、いつも気を使うから」
「....」
「艦内や基地の話、君は僕にいっぱいしてくれるよね。最後に彼女に君の仕事の話をしたのはいつ?将来はマーヴェリックみたいに一生飛び続けてやるなんて無茶な夢も話してくれたよね、そんな馬鹿みたいな未来のこと 君の彼女は笑って受け入れてくれるの?」
身体を起こして明らかに瞳孔が開いている彼の緑の瞳と視線が合った。
「僕、ずっと君のそばに居たよ。気付いていたか分からないけど、過去に縋って幸せじゃ無い君をずーっと何も言わずに見てきた。でもね、ごめんね、ジェイク....もう一回言わせて。なんで、僕じゃ無いの?僕、こんなにも本当の君を誰よりも知ってるのに。」
止まらない僕の口はもうびっくりするくらいワガママだった。
正直、こんな事を言うとは思っていなかった。
何かを言おうとして、ハングマンの口が動こうとした時、また彼の中の携帯がヴーヴーと鈍い音を立てて震えた。
余りにも凄いタイミング過ぎて、僕も彼も流石にピクリと身体を動かして意識を手の中で震える携帯に向ける。
ハングマンは何を思ったか、開き掛けた口をぎゅっと結ぶといきなり立ち上がり、ハードデックの裏口へ携帯を手にしたまま人混みを掻き分けて無言で凄い勢いで突き進み始めた。
「あ、っ、えっ...」
彼からめちゃくちゃな罵詈雑言やビンタくらい喰らうだろうと思っていた僕の予想はまたしても外れる。
本当に僕はさっきも彼のことを知っているかのような言葉を吐いておきながら、まだ彼の事は多分、やっぱり分かっていない。
とにかく、目の前からものすごい勢いで居なくなったハングマンの行動にたじろいでいると、カウンターの中のペニーと目があった。
「ボブ!ちゃんと、追いかけなさい!」
次は目じゃなくて言葉で、彼女は僕に行けと示して裏口を指差す。
「ぁ、うん!ペニー、分かったよ!」
慌てて僕は裏口へと駆け出した。
せわしない店内と違って裏口を出ると広がるビーチは、穏やかな波と優しい風が吹いている。
店を飛び出したハングマンは、真っ暗なビーチの波打ち際にいた。
彼を見つけると、僕は慌てて駆け寄る。
なんて言葉を掛けようか。さっき言った事は全部嘘で本当は君と彼女の関係なんてどうでも良くて、僕はただただ君の話を聞くのが大好きで、、、、、
「ボブ」
最初に口を開いたのは波打側でこちらを振り返らずに未だに鳴り続ける携帯を握り締めたハングマンの方だった。
彼は僕の名前を一言だけ呼ぶと、突然その手の中の携帯を夜の海に放り投げた。
「え、っ?!!!!は、はぁ、?!!」
そのあまりにも突拍子も無い行動に僕は自分の眼鏡がおかしくなったのかと一瞬思ってしまった。
普通、携帯を投げる?!!!!
どこかでポチャンと音がして、彼の携帯は海の中に消えていった。
一体なにやってるんだ、探さないと!
僕は慌てて海に向かって駆け出そうと歩みを進めるが、慌てる僕を手で静止したのは至極冷静な表情で海を見るハングマン、彼だった。
「...ボブ、お前、俺のことが好きで、だから俺の下らない話に毎回付き合って好きでも無い酒の場に来てくれたのか?」
「っ、それ、は」
半分図星だ。君の事が好きなのは本当だよ。でも叶わないなんてのは知ってるからそこはどうでも良かった。
でもね、楽しそうに自分の事を話す君と少しでも一緒に居られるならと純粋に思っていたんだ。
あとそれに、君の話は全然下らなくなんかない。君の話を聞きながら飲むお気に入りのレモネードは何よりも格別の味なんだ。
そんな溢れる様な言葉が頭に浮かんでくるが僕の口はまだ直ぐには動いてくれそうもなかった。
「あの携帯さ、マジでずっとうるさくてさ...こんなのに縛られたく無いってこの2年間くらい実は毎日毎日思ってた。」
ハングマンがこちらを振り向く。
今は暗いから彼の綺麗な顔も瞳も見えないけれど、何故か彼が穏やかな表情をしているのだけは分かった。
「俺さ、ずっと自分の話ばっかりだったよな。お前はずっとそれに相槌合わせたり、ちょっとした嫌味で返したりして。こんな訳もわからない呼び出しにちゃんと応えて、俺の話を聞いてくれるお前は本当にいい奴だ」
「ハングマン...」
「ジェイク、ジェイクで良い。とにかく、その さっきお前が言った恐らく俺の事が好き云々は俺はまだ噛み砕けていないから、置いておくが」
彼の口から紡がれる言葉が一言一言、僕に向けて語られる。なんか色々恥ずかしいのと、どういう顔をしたら良いのかが分からなくて。
とにかく、今が暗い夜でよかったと変に冷静な頭で考えている。多分今僕は、とんでもない顔をしているだろうから。
「気付いたよ、俺、お前の話全然聞いてこなかったよな。こんな雑音の機械の先ばかり気にして、お前のこと全く気づいてなかった」
自分の喉がヒュッ、と言葉にならない音がしたのが分かった。違う、本当に話を聞くだけで良かったんだと否定するべきなのに、今僕の目の前でハングマン、いや、ジェイクは僕に意識を向けている。
「ロバート、お前の話、ハードデックの中でもう一回最初からちゃんと聞かせてくれよ。」
一瞬見えた吹っ切れた様な笑顔で彼はとんでもないミサイルを僕に放った。
翌日、僕とハングマンは二日酔いのまま携帯ショップのウィンドウの前にいた。
あの後結局ペニーがもう出て行ってというまで僕たちはカウンターで話し続けた。
本当に、他愛も無い話。いつもの話。でもいつもと違うのは話を進めるのが彼では無くて僕だったってこと。
僕もなんだか気分が良くなって慣れないお酒を飲むものだから、2人でこの有様ってわけだ。
朝になってハードデック前のベンチで2人で潰れていた所、僕の携帯に着信が10件ほど入っているのに気が付いた。
履歴を見るとルースターやコヨーテからだった。
おもむろに僕は朦朧とする意識のまま1番上の履歴のルースターにコールを入れた。
びっくりする速さで電話が取られたかと思うと
「おい!ハングマンは生きてるか?!?!」
物凄い勢いで慌てた声のルースターが朝のモーニングコールをしてくれている、ん?なんでジェイクが死んだなんて話になるんだ?
「えっ、ジェイク、、、ハングマンは僕とハードデックのベンチで寝てる...」
「は?ベンチ?お前らこんな朝までずっと一緒だったのか?本当に仲いいな」
呆れたような声でルースターが続ける
「昨日の夜10時位にハングマンに電話したんだけど、コール取らないわ、その後ブツッって音がして電話自体が不通になったから、てっきり何か事故に巻き込まれたんじゃ無いかって皆で心配して....」
あ、あぁ....心当たりがありすぎる。
しかも携帯を投げ捨てた時のコールはルースターからだったのか。この話は隣で突っ伏しているジェイクには秘密にするべきだろう。
僕はとにかく彼と僕の秘密の話はすることなく、端的にハングマンが海に浸かって携帯が水没したとだけ伝えておいた。
「おい、もう適当な機種でいいよな。1番良さそうな奴」
僕の隣で携帯を選ぶのも面倒くさそうなジェイクが、最新機種を値段も見らずに選んでいるのはらしいと思う。
あの後ルースターから「心配させるな酔っ払いどもめ」だとか色々説教を受けて、結局携帯が無いのは不便だという話になった僕たちはそのまま携帯を買いにきた。
引継ぐデータも無いまっさらな携帯を手に、ジェイクは二日酔いのクセに妙に晴れやかな笑顔で僕をみて言った。
「ロバート、お前の番号 先ずくれよ!」
あぁ、もう本当に、敵わないなぁ。
僕は、多分顔は少しというか、真っ赤になっていたと思うけど、はにかみながら彼の携帯の1番上に僕の名前、ロバート・フロイドを登録した。
それから僕と彼が幸せになったかどうかは、まだ今の僕には分からない多分少し先の未来の話。