生まれてきてくれてありがとう「なぁ、シンク。お前何か欲しい物とかあるか?」
「はぁ?何突然、書類処理しすぎて頭可笑しくなった?」
「なってねーよっ!?確かにフィルのせいで書類が多くて若干頭が痛いが…。」
深夜に談話室で一人書類処理をしているマークを見かけた。最初は素通りしようとしたが、あまりにも目の下の隈が凄いし、途中で倒れても困るので手伝う事にした。マークには泣いて喜ばれたが…。
「で、なんでそんな事聞いたの?」
「なんでって、もう少しでお前の日だろ?」
書類を書く手を緩めることなく聞くと、そんな言葉が聞こえて来た為、思わずペンを止めた。
ボクの日…?
あぁ…、そんな日もあったな…。ボクの誕生を祝う日。
「くだらないね。」
「くだらないってお前…。」
「だってそうだろ?別にボクは祝われるようなモノじゃないんだから。」
誕生した時からそうだ。代用品にすらならないボクに祝いの言葉なんて必要ない。今までもこれからも変わらない。
「そう言うなよ。俺達は、俺はお前が生まれてきてくれて良かったと思っているぜ。」
「そうやって手懐けようとしても無駄だよ。言っただろ?仲良しごっこはごめんだって。」
そう言い、止まっていたペンを再度走らせる。マークはそんな様子のシンクを見て息を吐き出すが、何も言わず同じように作業に戻った。辺りにペンを走らせる音と時が進む音だけが流れる。どれ位経ったのだろう、日が昇り始めた頃ようやく全ての作業が終わった。
「終わったぁああああ!!!ありがとうなシンクッ!!」
「ハイハイ、ドウイタシマシテ。じゃあ、ボクは寝るから。」
そう言い部屋を出るシンクを見送ると、マークは少し悲しい顔を浮かべた。
ー別にボクは祝われるようなモノじゃないんだから。ー
「なんて顔してんだよ…。」
あれはどうでもいいって顔じゃなかったぞ、シンク…。
ポツリと呟いた声は談話室に響いた。
*
「はぁ……。」
「アレアレ~、どうしたのマーク。ため息なんてついて~。」
後日、ソファに座りながら深く溜息を付いていると頭上から声が聞こえた。顔を上げると、ゼロスとミトスがこちらを見下ろしていた。
「ゼロスとミトスか…。」
「おう俺様だぜ!ってマーク、お前また隈酷くないか!?最近、寝れてねぇじゃねーの?」
「いや、大丈夫だ…。」
「本当かよ…。」
「で、なんでそんなに溜息付いているの?」
そんなたわいもない会話をゼロスとしていると、ミトスが真っ直ぐこちらを見てきた。その視線に思わず口を開けると、ポツリとポツリと話し始めた。
~~~~~~
「なるほどな…。確かにシン君はそういうだろうな…。」
「うん、でもそれはシンクの本心じゃない。だから無意識に顔に出たんじゃない?」
「だよな……。」
「……何かしてあげたいって顔してるよ、マーク。」
「マジか…。顔に出てたか…。」
シンクはいつも世話になっている大切な仲間だ。だからこそ、あんな顔見てしまったら放っておけない。それに祝われる気持ちを知って欲しいと思った。俺がフィルから教えて貰ったように。
「そういう事なら、俺様一肌脱ぐぜ!」
「ボクも。友達の事だしね、手伝える事があるなら手伝うよ。」
「お前ら…。ありがとうな…。」
感謝の言葉を伝えるとニカッと笑うゼロスと微笑むミトスの姿が目に映る。
「で、何か案はあるの?」
「それがまだ決まってなくてなぁ…。」
「ド派手にパーティとかはシン君、嫌がりそうだしな~。」
「うん、そういうの嫌いだから呼んでも来ないだろうしね。」
3人で思案していると、ミトスが「だったら…。」と声を上げた。
「だったら、個々でシンクにプレゼント渡したり、お祝いの言葉を言うっていうのはどう?それなら避けられないと思うし。」
「お、それ良いな!!」
「だなっ!!じゃあ早速、他のメンバーに声かけるぜっ!!サンキューな!二人とも!!」
そういい走って談話室を出ていくマークを見て、残された二人は顔を向き合わせて笑った。
*
そうして迎えた今日。
マークは予め救世軍メンバー全員に声を掛けたが全員シンクを祝うと言ってくれたのが嬉しかった。それだけでもシンクがこの救世軍で大切に思われているんだなって感じる。シンクの元居た世界の事は詳しくは分からないし、本人も話したくないだろう。だからこそ「今」を「この世界」での経験がシンクにとって良い物であればいいなと思う。
「さて、俺もそろそろ準備しますか!」
*
「シンク、今良いか?」
「いいけど、何?」
「うむ、これを受け取って欲しい。」
廊下を歩いているとクラトスに呼び止められ、突如小さな紙袋を渡された。中を覗くとお菓子が何個か入っていた。
「私はお前に救われた。シンク、お前が居てくれて本当に良かったと思っている。生まれてきてくれた事に感謝を。」
何これ?と聞く前にそう言ってクラトスは去っていた。いきなりなんだったんだ…。と思っていると後ろからボクの名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとローエンが立っていた。
「こちらにいらしたのですね。おや…、ふふっ、クラトスさんに先越されましたか。」
ローエンは先程クラトスから貰った紙袋を見て笑った。その様子にますます訳が分からなくなっていると、ローエンから綺麗にラッピングされた箱を手渡された。
「アンタも…?」
「はい。…シンクさん、私は貴方に命を救われました。いえ、それだけではありません、様々な所を助けて頂きました。本当にありがとうございます。シンクさんが居てくれて良かったと思っています。これは、ほんの気持ちです。」
「……ソレハドウモ。」
「ふふっ、では失礼します。」
そう言って廊下を歩いていくローエンをただ見送る事しか出来なかった。一度思考を整理しようと思い、部屋に戻る事にした。
ガチャ
「おかえり、シンク。」
「お邪魔してるぜーー。」
「ごめんなシンク。こいつらがお前の部屋で待機するって聞かなくてな。」
バタンッ
扉を開けた時の光景に思わず扉を閉じた。なんでコイツらがボクの部屋にいるんだ…。思わず溜息をついていると扉が空いた。
「ちょ、ちょっシン君!?閉めるなんて酷くない!?俺様泣いちゃうぜ!???」
「うるさいよ、バカ神子。」
「そうだよ、ゼロスうるさい。」
「二人とも酷くないかぁ!?」
「まぁまぁ、落ち着けってお前ら。」
噓泣きをするゼロスをマークが宥めている。そんな様子は飽きるほど見てきたので、完全に無視しミトスに話しかける。
「で、なんでいるのさ。」
「え?だってもボク達友達でしょ?友達の部屋にいるのは当然の事でしょ?」
「当然じゃないし、友達でもないよ。何言ってんの、このラスボス。さっさと帰りなよ。」
「そう言わないでよ。ボク達、お前に用事があってきたんだから。」
「はぁ…、で、その用事って何?」
コイツらはその用事とやらを終わらせないと、ボクの部屋から出る事はないだろう。仕方なく尋ねる事にした。
「ふふふっ、良くぞ聞いてくれたシン君っ!!俺様の特製…」
「はい、これ。」
「ミトス君っ!?俺様が渡そうとしたんだけど…。」
「だってゼロスの話、長くなりそうだったし良いでしょ?それより、受け取りなよ。」
そういって目の前に差し出された紙袋を素直に受け取った。中にはオレンジ、ピンク、黄色のリボンがそれぞれ付いた3つの箱が入っていた。コイツらもか…。今日はそんな事ばかりで頭を抱えていたのに。…待てよ、コイツらなら何か知っているかもしれない。
「…ねぇ。クラトスといい、ローエンといい、お前達といい何なの?」
「何って。今日はお前の誕生を祝う日だろ?」
「…はぁ?なにそれ。」
「あれ、シン君忘れてたのかよ。」
「まぁ、あんまり興味ないだろうしね。」
ボクの誕生を祝う日…。
「馬鹿馬鹿しい…。」
「でも、貰った物を自ら捨てようとはしないんだね。」
「………ふん、……このままアンタ達と居ても気分が悪いから出かけてくる。」
「待って、シンク。」
自室から出ようとするとミトスに呼び止められたが、振り返ろうとはしなかった。
「……何。」
「生まれてきてくれてありがとう。」
「だなっ!俺様もシンクが生まれてきてくれて、本当に良かったと思っているぜ!これからも宜しく頼むぜっ!!」
「シンク、いつも助けてくれてありがとうな。そして、こうして生きていてくれてありがとう。」
「…………。」
目を見なくても分かる。コイツらが優しい顔で言っているって事が。
ボクはそのまま何も言わず、部屋を出た。
その後もバルバトス、ダオス、アイゼン。その他のメンバーにも会う度に感謝の言葉と共に小さなプレゼントを渡してきた。皆、優しい笑顔でだ。
……。
誰も居ない場所で改めて貰ったプレゼントを見る。アイツら、ボクなんかの為にこんなものを用意して…。
ーシンクさんが居てくれて良かったと思っています。ー
ー生まれてきてくれてありがとう。ー
「馬鹿じゃないの…。」
ボクはこんな言葉を掛けて貰える資格はない。ボクにはそんな言葉いらないのに…。
「馬鹿じゃないの………。」
呟いた言葉の割に顔は「 」だった。
その様子を影から見ていたマークはそっと胸を撫でおろした。
祝われるって案外悪くないだろう?シンク。