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    田崎ちぃ

    @tazaki_c

    読み物。暇つぶしにどうぞ。

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    田崎ちぃ

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    イサルイ(=ブレ)。添い寝したいブレと言えないスミと隠し事をしているイサ。ブレとスミは人格が二つあるけど、いつだって同じ気持ちです。ルルとヒビキとヒロはイサミと共犯です。

    追記『添い寝の話、その後』
    手作りを身につけて欲しいイサと、イサに可愛がってもらいたくてかんブレモードを習得するブレ(スミ)。

    #イサルイ

    添い寝の話 近頃、世界を救ったヒーローであり、ブレイバーンの唯一無二のパイロットであるイサミが疲れているのは誰の目にも明らかだった。
    「私の中で休んでもいいんだぞ」とブレイバーンが声をかけても「大丈夫だ」の一点張りである。
    「私が添い寝をして子守り歌でも歌ってやれたらいいんだが……」
     如何せん、九メートルもある巨大ロボだ。イサミが格納庫に寝具を持ち込まない限りは不可能である。ビルドバーンでふかふかのベッドでも出力すれば早いだろうが。
    「というわけで、抱き枕をイサミにプレゼントだ!」
     ブレイバーンがババーンと手のひらに乗せて登場させたのはふわふわぬいぐるみ仕様の小さなブレイバーン人形。
    「説明しよう! この子は通称かんブレくん。この素材は」
    「そういうのはいいから」
     イサミにバッサリと話を省かれてしまいブレイバーンはもごもごと唇を尖らせる。
    「でも、もらえるものはもらっておく。ありがとな、ブレイバーン」
     顔を綻ばせてぬいぐるみを受け取ってくれるイサミにブレイバーンは感極まる。
    「イサミィ……!」
     かんブレくんのふわふわ具合に一瞬驚いた顔をしたイサミが、愛しそうに両手で抱きしめてくれる姿は無邪気な少年のようで愛らしかった。
     これが昨日の話。

     それで俺、ルイス・スミスと言えばイサミがあのブレイバーンにそっくりなぬいぐるみを抱き枕として使ってくれているかどうかを確かめるために、イサミの部屋を訪れていた。
    「使い心地? いいと思う。おかげでよく眠れているけど、わざわざ確認に来たのか?」
     イサミに悪いと思いつつ、ちらりと寝具の方へ目を向ければ、かんブレくんがちょこんと枕の側に座っている。どうやら本当に添い寝の相手として使ってくれているらしい。
     ただの布と綿でできているそれはどこか満足そうに微笑んでいる。
     ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、羨ましい。その邪な気持ちをむぎゅっと閉じ込めて、俺はイサミに向き直る。
    「あー、その、俺もイサミが心配だったんだ。何か悩み事があるなら話してほしい。無理にとは言わないけどさ」
    「大したことじゃない。作業が立て込んでいるだけなんだ」
    「忙しいのか?」
    「少しな。やりたいことがあって」
    「やりたいことがあるのはいいことだけど、しっかり休めよ」
     あのイサミのやりたいこと、一体何だろうか。とても気になるが無理に聞き出すのもよくないかと思い直し、一旦引くことにする。
     いつもならブレイバーンの話も真面目に聞いてくれるイサミが早く部屋に戻りたそうにしていたし、今も少し落ち着かない様子が見て取れるので。
     踵を返そうとした俺に不意にイサミが声をかける。
    「……大事にするよ」
    「え?」
    「あいつ、かんブレくんだっけ」
     イサミがかんブレくん人形を見つめる眼差しは優しい。まるで小さな子供を相手にしているように。
    「あぁ、ブレイバーンも喜ぶよ」


     ブレイバーンは間違いなく喜んでいる。俺だって嬉しいよ。俺達が作ったぬいぐるみをイサミが大事にしてくれるなんて。
     それと同じくらい、嫉妬していることもよく理解できた。彼の感情なのか俺の感情なのかわからないくらいぐちゃぐちゃで。たかがぬいぐるみ相手に情けない。
    『ルイス・スミス、きみが添い寝すれば解決だろう!?』
     頭の中で喚くブレイバーンに俺は苦い顔をする。
    「イサミにこのむさくるしい筋肉の塊を抱き枕にさせる気か?」
     それこそ正気じゃないだろう。鋼鉄の塊か筋肉の塊か、どちらかしかない俺達には不可能なことだ。あのぬいぐるみの柔らかさ相手に勝ち目はなかった。


     それからしばらく様子を見たが、イサミの顔色は相変わらず芳しくなかった。心配になって何度かイサミの部屋に足を運んだが、何故かその度にルルやヒビキに呼び止められて用事を頼まれてしまい会えず。痺れを切らしたブレイバーンに催促されて、俺はようやくイサミの部屋へと訪れた。
     ドアをノックすればイサミの少し上擦ったような声が返事する。
    「ちょっと待ってくれ」
     それから一分も経たないうちにドアが開いて中に招かれる。
     いつものきちんと整理整頓された物の少ない部屋の中で、ベッドの枕元にちょこんと腰掛ける赤と白のカラーリングのかんブレくん人形がやたらと目を引く。
     何より、新緑を思い浮かべるような鮮やかな緑色のマフラーが彼の首に巻かれていたことを見つけて、俺は息を呑んだ。
    「イサミ、それ、素敵なマフラーだな」
     俺が指摘するとイサミは忘れていたと言わんばかりに「あっ」と声を上げる。
    「いや、これは……、見なかったことにしてくれないか」
     そう告げるイサミの頬が恥ずかしそうに赤らんでいるのを見てピンと来た。
    「もしかしてイサミが編んだのか? ワオ、すごいな! 上手くできてるじゃないか」
     よく見ようと手を伸ばす俺より先にかんブレくん人形を手に取ったイサミはマフラーを外して枕の下に押し込んで隠してしまう。
    「あんまり見ないでくれ。初めてで、ほつれも酷いし、下手くそだから」
    「ちゃんと大事にしてくれてるんだな、その子のこと」
     俺がイサミの腕の中に収まったぬいぐるみを見下ろせば、イサミはどこかくすぐったそうに微笑む。
    「あぁ、そう約束しただろ」
     

     イサミがかんブレくん人形を大事にしてくれていることはわかった。わかったけど、ブレイバーンは複雑な心境らしい。
    『きみはあのままイサミの気持ちがぬいぐるみに取られてもいいのか!?』
    「取られる事はないと思うぜ」
     ないだろ、ないよな。だってブレイバーンとイサミの絆は絶対だろ。ぬいぐるみが幾ら愛らしいフォルムをしているからと言って、イサミが本物より人形を愛するなんてこと絶対にありえない。
    『でもイサミの初めてをあの子が取ったんだぞ! 私だってイサミの手編みマフラーが欲しい!』
     初めてって言い方、誤解を招くからやめてくれ。
    「きみにはマフラー必要ないだろ」
    『そういう問題じゃない! 私のためを想ってくれる、イサミの気持ちが嬉しいんだ。きみだってあの子に妬いているくせに、なぜ何も言わない。きみの身体ならマフラーを使う意味もあるだろ』
     まるで駄々っ子のようなブレイバーンに俺は呆れて溜め息を吐く。
    「イサミを困らせるようなことしたくないだけだ。そうでなくても彼は寝不足気味なのに」
     イサミに負担をかけたくないのはブレイバーンも同じらしく、ムッと押し黙ってしまう。
    「それにマフラーがもらえなくても、イサミとの友情は変わらないだろ」
     だから大丈夫、俺は大丈夫なんだ。


    「さすがに大丈夫じゃないかも……」
     大きな溜め息を吐いて、ノックしても無言のままのイサミの部屋のドアに額を擦り付ける。
    『なぜなんだイサミィ!』
     ここ数日、イサミとはすれ違ってばかりいる。そのくせヒビキやヒロとは親しげに話し込んでいるし、今日みたいに部屋を訪れても不在が多い。
     もしかしてイサミに避けられているのだろうか。俺ってお節介を焼きすぎる面倒くさいやつだって思われていたりするのか。
     トボトボと意気消沈しながら部屋に戻るために歩いていると、なぜかヒロの部屋からイサミが出て来るのが見えた。
     駆け寄りたい気持ちを抑えて、イサミを驚かせないようにゆっくりとした足取りで向かいながら手を振る。
     イサミは俺に気づくと腕に抱えた紙袋を持ち直し、空いた手で振り返してくれる。
    「ちょうどお前の部屋に寄ろうと思っていたところだ」
     よかった、避けられているわけではなさそうだ。
     それならせっかくだからと俺の部屋まで招き入れる。イサミが来るならもう少し片付けておけばよかったなと思いながら簡単に邪魔なものを端に退けて、客人を椅子に座るよう促した。
    「それで、ヒロのところへは何しに行ってたんだ?」
     その大事そうに抱えている紙袋の中身が気になって仕方ない俺に、イサミはあっさりと中身を取り出す。
    「これを取りに行ってたんだ。完成までスミスに見つからないように隠してもらってた」
     かさりと音を立てて紙袋から出てきたのは、かんブレくん人形が身につけていたものと同じ緑色のマフラー。あれよりもずっと、出来も良く一目では手作りとは思えないほど美しい仕上がりに驚いてしまう。
     おそらくイサミが丁寧に時間をかけて努力して編んでくれたものなのだろう。
    「かんブレくんに巻いてたマフラーが見つかったせいで完璧なサプライズじゃなくなったけど、もらってくれると嬉しい。気に入らなかったら使わなくてもいいからな」
     はにかむイサミに差し出されたマフラーを俺は手に取ってすぐに首に巻きつける。ふわふわで暖かくて、心までぽかぽかと温かくなってくる。
    「……ありがとう、イサミ。本当に嬉しいぜ。大事にするよ」
    「そうか、よかった。俺もこれでようやくゆっくり眠れそうだ」
     疲れた様子で身体を伸ばすイサミに俺は思い切って提案してみる。もしかして今なら、俺のためを想ってマフラーを編んでくれた彼なら、少しぐらい受け入れててくれるかもしれないと期待して。
    「イサミ、その……俺でよければ、添い寝してもいいか。変な意味じゃなくて、きみにちゃんと休んでもらいたいんだ」
     イサミは驚いたように目を見開くと、勢いよく俺の腕を掴んですぐそばのベッドへと引き摺り込んだ。
    「お前がそう言ってくれるのを、ずっと待ってた」
     イサミは俺の胸元に頭を乗せて、横になった体勢を調節すると瞼を閉じてしまう。どうやら目を覚ますまでここから退く気はないらしい。
     俺は静かに眠るイサミの身体にそっと腕を巻き付けて、相棒の体温の心地良さに微睡んだ。ブレイバーンも満足そうに黙ったままなので、どうやらこれが正解なのだろう。







    『さすがにそんな騙し討ちみたいな真似、俺は反対だ』
     さっきまでイージーモードを習得してノリノリで変身していたくせに、ルイス・スミスも素直じゃない男だな。
     イサミにメールも送ったし、後はスミスの部屋で待機するだけでいい。私のこの愛らしい姿にイサミもきっとメロメロなはず。
     しばらくするとドアのノックが聞こえて、私は小さなぬいぐるみサイズのボディを自室のベッドに横たえた。
    「イサミが来たぞ。シッだ」
    『だからシッじゃなくてな! おいブレイバーン、本当にどうなっても俺知らないからな!?』
     うんうん、万が一イサミに嫌われるようなことになったらこの世の終わりだものな。わかるぞ、わかるけど、私はイサミがいつだって私達を受け入れてくれることを信じているんだ。
    「スミス? 入るぞ?」
     スミスが不在だったとしても部屋に入るようイサミには伝えてある。彼はその通りに部屋に入って電気をつけた。
    「あれ、かんブレくんだ」
     なんでここにあるんだと不思議そうな表情で、イサミはベッドに近づき、人形のように寝そべっている私の頭部を優しく撫でた。
     そうか、そんな優しい手付きでいつもあの子を――私達がプレゼントしたかんブレくん人形を可愛がってくれているんだな。
     嬉しくて、そして大いに妬いてしまう。
      イサミは私のボディを持ち上げると側のデスクに座らせて、向かい合うように彼も椅子に腰掛けた。
    「こっちのかんブレくんは結構重たいんだな。きみは何で出来てるんだ?」
     急に話しかけられて今は無いはずの心臓がドキッと跳ねた。
     スミスはさっきから気が気ではないようで私の頭の中で忙しなくうーとかあーとか呻いている。時々彼は私の声をうるさいと非難するが、彼も大概だろう。
     私の顔をじっくりと観察していたイサミはポケットからメジャーを取り出して、何やら私のボディに合わせて測っていく。
    「今度はお前にセーターでも作ってやるよ」
     彼は測り終えると不意に私の頭を引き寄せて、唇を寄せて来た。まさかまさかまさか。
    「それはダメだーッ!!」
     額にキスされる寸前に思わず大声を上げた私に一瞬目を丸くしたイサミは、吹き出すのを堪えるように笑い出した。
    「やっぱりな、ブレイバーン。本当に俺を騙せると思ったのか?」
    「えっ、イサミィ!? 気づいていたのか!?」
     いつから、どうして、何でバレたんだ。
     それよりもっと気になることは。
    「イサミはいつもかんブレくん人形におやすみのキスをしてるのか!?」
    「するわけないだろ。これで安心したか?」
    「……した」
    「このサイズにも変形できるようになったんだな」
    「そうなんだ、これならイサミと添い寝もできるぞ!」
     両手を広げて今度こそイサミに抱き締めてもらおうとするも、イサミは立ち上がって離れてしまう。
    「添い寝はまた今度頼む。俺、セーターが編みたいからもう行くな」
     編み物にすっかり夢中な彼は用が済んだとばかりに部屋を出て行く。私はその背中に向かってせいぜいおやすみと告げるくらいしかできなかった。



    「昨日はブレイバーンがすまなかった」
     華麗なジャパニーズ土下座を決めたスミスを見下ろしてイサミが困ったように苦笑する。
    「別にいい。おかげでセーター作りも楽しんでる」
     マフラーもとても素敵だったがセーターはどんな仕様になるのか、私も今から待ち遠しい。昨夜はイサミの編んでくれるプリティークールなセーターに思いを馳せてスミスと私は大いに盛り上がった。
    「ところでどうして、あれが本物のブレイバーンだってわかったんだ?」
     スミスがおずおずと質問すれば、イサミはこの世界にたった一組しかない不思議な翠色の双眸を覗き込んで、愛らしくはにかんだ。
    「だって相棒のことを見間違えるわけないだろ。どんな姿になってもな」
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