一年と半分の追いかけっこ いまはまだ、夢の途中──しかし、やわらかな意識の領域を抜け出して、黒羽快斗はゆっくりと眠りから覚醒していくのを感じていた。
深い水底から浮き上がるように揺らぎながら、しかし明確になっていく自分というものを形作る体感が戻ってくる。
手足の末端までの感触、繰り返す呼吸。この体に巡らす血液の流れ。すべての感覚を快斗は無意識下から掌握し直す。
明確になった頭脳に今日の日付と、怪盗を引退してからの日数が浮かび上がった。
あれから545日。今日で怪盗を引退して一年半になる。
「さあて名探偵……」
快斗は上掛けの寝具を勢いよく剥がすと、ベッドから体を起こした。
「約束の日、覚えてるか?」
快斗の顔に笑みが浮かぶ。それはまるでプレゼントを待つ子どものように、楽しくて仕方ないといったものだった。
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