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    金白/白金

    企画関連の絵や小説が完成したらここに投げます。
    鍵は一定期間経ったら多分外します

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    POIPOI 17

    金白/白金

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    彼女と彼の、出会いのお話

    出会いとハンカチと恋に落ちる音ずっと独りで寂しかった
    だから、お城を出て冒険がしてみたかった

    もしかしたら、お城で読んだ本のように
    おとぎ話みたいな出会いがあるかもと



    そんな風に思っていた、数時間前の私を恨んだ



    「わわっ…!ご、ごめんなさ…っあ、!」



    お城を出て、近くの街に来てみたら
    どこもかしこも人、人、人
    とりあえず大通りを歩いてみようと思ったけど、人が多すぎて思うように進めなかった


    人混みに流され、知らない場所へ押し出される
    周りを見ると、先程とは違う静かな場所


    「あ、あれ?ここ、どこだろう…?」


    人のいない、薄暗い路地


    「ど、どうしよう……」


    大通りに戻りたいが、如何せん人が多い
    あの人混みに戻れるほどの勇気を、ディアは持ち合わせていなかった


    「と、とりあえず、別の道から…っ」


    違う道から大通りに戻れないかと考え、
    とにかくこの場から離れようと歩き出す


    薄暗い路地を進んでいると、正面に人影が見える
    ディアは少しホッとしたが、それは間違いだったとすぐに気づいた


    「お、こんなところに可愛い子ちゃん」
    「マジ?ホントだ、しかも超巨乳」
    「ヤバ、めっちゃラッキーじゃね?」


    壁に寄りかかりながら煙草を吸う男が3人
    足元には酒瓶が転がっているようで、どう見ても普通ではない


    それは流石のディアでも理解できる


    あれは、近づいてはいけない人たちだと



    「あ、う…っ、キャッ…!」


    急いで引き返そうとしたが、向こうのが上手
    手を掴まれ、囲まれて、逃げ場を失った


    「おいおい、そう逃げんなよ?」
    「なぁ、俺らと遊ぼうぜ?」
    「気持ち良いこと教えてやるからさ、な?」


    振りほどこうにも、男の力に敵うはずがなく
    いくら抵抗しようとも逃げられない


    「は、離して、ください…っ!」

    「なにー?声小さくて聞こえないぜ?」
    「犯してくださいって言ったんじゃね?」
    「ギャハハハッ!それマジヤバいって!」


    どうしよう、どうしよう、どうしよう
    どうしたら良いのか、考えても分からない

    恐怖で足がすくみ、動けない
    せめて目を合わせないようにと、必死で下を向く


    「嫌…っ、だ、誰か助けて…」


    小さな声で、そこにいない誰かへ助けを求める
    自分以外の人は、目の前の男達だけ


    「こんなところに誰も来ねぇよ」
    「そーそー」
    「てことで、無駄な抵抗はやめて俺らと……」



    男達の手が、ディアへと伸びる






    こんなことになるなら
    独りぼっちでもいいから
    ずっとお城にいればよかった


    誰も、私を助けに来ない
    誰も、私を知らないから


    おとぎ話に出てくる王子様なんか
    どこにもいないんだ







    「そこのお前さん達、少し良いだろうか?」


    「あー?んだよオッサン…ッぐぉあ!?!」
    「おい!?なんだテメェ…うげぇッ!?」
    「え、ちょ…ッぎゃあ!!?」




    突然、目の前の男達が横に飛んでいった




    ビックリして顔を上げる
    するとそこには大きな影、ではなく

    先程の3人よりも、大きな男の人
    右目にはモノクルを掛けていて、両耳には長いピアスが下がっている


    「大丈夫かい?お嬢さん」


    ゴールドの瞳と、モノクルの奥に見える
    薄いフロスティブルーの瞳と目が合う


    「……っ!」
    「そうか、それなら良かった」



    驚き過ぎて言葉が出ず、頷くだけになったが
    目の前の彼は、優しく微笑んだ




    「テメェ!何しやがるこの野郎!」
    「俺らに喧嘩売るなんていい度胸だな!」
    「ふざけたことしやがって!」


    「…強めに蹴った筈だが、意外と丈夫だな」



    吹っ飛ばされた男達が立ち上がり
    彼とディアに向けて刃物を取り出す



    「……一度しか言わない、そんな物騒なものは仕舞って早く帰りなさい」


    「うるせぇぞジジイ!」
    「俺らのお楽しみ邪魔しやがって!」
    「帰るのはオメェだろうが!」



    彼が静かに諭すが、男達はそんなことはお構いなしと言うように騒ぎ立てた
    ディアは怯えながら、彼の後ろに隠れる



    「テメェみたいなヤツ一発だぞオラァ!!」
    「怪我したくなきゃさっさと女を返せ!」
    「そうだそうだ!それに…」


    男達は先程と変わらず、彼を煽るよう騒ぐ

    すると、後ろから様子を伺うディアの耳に小さな舌打ちが聞こえたと思ったら突然、男達の話を遮るように音がした


    小さく、何かが風を切る音



    「「「……へ?」」」



    男達の頬に一筋の線が刻まれ、血が流れる
    何が起きたのか、一瞬分からなかった

    だからディアは彼の方を向く
    すると彼の右手に、拳銃があった



    そして







    「はぁ……本気で脳天ブッ飛ばされたくなかったらさっさと失せやがれ、このクソガキ共ッ!」




    ビリビリと空気を揺らす怒声
    ビックリして耳を塞ぐ程の大きさ

    ディアはすぐに、自分を守ってくれている彼が発した声だと分かったが、さっきの優しい彼が言っていると理解するのには少し時間が掛かった



    「ひぃいぃぃいっ!?!!」
    「す、すみませんでしたぁぁ!!!」
    「もう二度としません!!!!」



    怒声を浴びせられた男達は余程怖かったのか、腰を抜かし転がりながら、持っていた刃物を投げ出し大慌てで逃げていった



    静まり返る路地に、またため息が一つ



    「はぁ…、余計な弾を消費したな……怖がらせてしまってすまない、お嬢さん」
    「だ、大丈夫です…!」



    ディアの方を向き、優しく微笑む彼からは先程のような怖い雰囲気は感じない



    この人は自分を助けてくれた
    それこそまるで、おとぎ話の王子様のように



    「あ、あの……ありがとう、ございます…っ」
    「気にしないでくれ……おや、左手に怪我をしているね」
    「え、あ…っ、さ、さっき…掴まれたときかな…っ?」


    彼にそう言われ、左手の怪我に気付いた
    手を乱暴に掴まれた時にできたらしい、擦り傷と出血の痕

    知らぬ間にできた怪我というのは自覚すると痛むようで、急にズキズキと痛くなってくる


    「……見せてごらん」
    「あ…っ、」


    傷に気をとられていたディアは
    優しく手を取られてドキッとした


    「…今は応急処置しかできないから、これで我慢してくれるかい?」
    「え……?わ、ぁ…っ!」


    怪我の上に彼の大きな手が重ねられる
    不思議に思っていると、彼が小さく呪文のような言葉を唱えた

    すると、重ねられたところが微かに光り
    段々と痛みが消えていく

    彼の手が退くと、出血していた痕が消え、
    傷痕も薄くなっているように見えた

    驚いていると、彼がジャケットから真っ白なハンカチを取り出して包帯のように巻いてくれた


    「これだけでは傷は塞がらないから、家に帰ったらきちんと手当てをしてくれ、いいね?」
    「は、はい…!」
    「ふふ、いい返事だ」


    手当てが終わり、彼の手が離れていく
    温かくて、不思議な手

    魔法使いのようで、ディアはハンカチが巻かれた左手を見つめていた



    「さてと、ここに長居するのは良くない……人が多い場所まで送っていこう」
    「え、で、でも…っ」

    「……ここら辺は迷いやすい、お嬢さんの都合が悪くなければ、是非お供させてほしいな」
    「え…えっと、あの、お、お願いします…!」
    「では、お手をどうぞ」



    彼からの申し出に少し戸惑ったが、確かにここにずっといるのは良くないし、一人で路地を抜けられるわけもないので、お言葉に甘え、軽く腕を組む






    歩き出してから数分、ディアの心は落ち着きを取り戻し、周りを見渡せるくらいになった


    薄暗い路地、人のいない寂しい場所
    さっきまではとても怖かったけど
    今はもう、全然怖くない


    歩きながら、ディアはチラリと隣を見上げる
    恐らく、自分より40㎝以上も差がある長身の彼

    肩に掛けた、シワ一つない黒のジャケットも
    ネイビーブルーの服から伸びるスラッとした脚も


    初めて見たそれは、とても素敵だと思った

    今まで自分の知っていたことはほんの一部で、
    世界はこんなにも初めてなものばかりなのかと、
    今になってようやく理解できた


    だから、何もかもが初めてだったから
    彼が右手に持つ杖を、まじまじと見てしまっていたことに違和感は覚えなかった



    「……この杖が気になるかい?」
    「…え?あ、違くて…っ、あの…!」
    「いいんだよ、気になるのは仕方ないことだ」



    彼に言われ、思った以上に見つめてしまっていたことに気付く
    慌てて返事をすると、彼は眉を下げて笑う


    「少々脚が不自由でね……杖なんて、みっともなくてすまない」
    「そ、そんな…っ、こと、ないです!全然……っ、それに、その…っ」


    ディアは足を止め、彼を見上げながら答えた

    みっともなくなんてないと、
    そんな風に思っていないと、彼に伝わるように

    ディアの言葉に彼は目を丸くしていたが
    すぐに、優しく笑った


    「…そうか、ありがとう」


    そう言うと、彼は再度ディアの歩幅に合わせて
    ゆっくりと歩き出した









    「ここまで来ればもう大丈夫だろう、大通りの方は市場があってこの時間はまだ混雑しているから、ここで時間を潰すと良い」



    数十分歩いた頃、ようやく路地を抜け
    広場へと着いた
    人は多いが、大通りほどではなかったので
    ディアはホッとする

    そして、今度こそ彼にきちんとお礼を述べようと
    彼の方を向く



    「あ、あの…っ、助けてくれて、本当に…あ、ありがとう、ございました…っ!」
    「いや、たまたま通りがかっただけだよ、さっきも言ったが、あまり気にしないでくれ」




    …たまたま通りがかった?
    本当にそうだろうか
    あんな薄暗く、人のいない路地を?

    複雑に入り組んでいたし、他にも危ないことがたくさんありそうで、恐らくあそこは地元の人でも通らないだろう

    そうすると、私を助けたのは偶然じゃなくて、
    もしかして…?



    …彼の名前が知りたい
    この、素敵な恩人の

    名前を聞いて、もう一度お礼を言いたい


    「あ、あの…っ!」


    そう思い、決心して声を絞り出す


    「も、もし…っ、もし良ければ……っ!」


    あと少し、もう少しで聞ける
    しかし、それは遠くから聞こえる誰かの声によって遮られた


    「いたいた!師匠ぉ~!」


    ディアの言葉を遮った声の主が近づく
    声の方向を向くと、一人の青年がいた

    ディアよりも大きな身長と、細長い手足
    それにだらしなく白衣を着ている
    グレーに近い紫の長い前髪で、目元は見えない


    「おぉ、買い物は済んだのか?」
    「全然ダメ、あの店在庫少なすぎ!やっぱり東の街みたくでっかいとこじゃなきゃ!」


    突然現れた青年は、彼ととても親しそうに話す


    「そうだったのか……なら明日の診療が終わり次第、東の街へ行こうか」
    「ホント?!やったぁ~!…って、何このチビ」

    「え、あ、あの…っ」


    青年がディアに気づき、顔を覗き込んでくる
    上から下まで観察されるように見られ、ディアは少し後ずさった


    「コラやめなさい、道を聞かれていただけだ」


    青年をディアから遠ざけながら彼はそう言う
    事実とは異なるが、きっとそうした方が理解を得られるのだろうと思った


    「ふ~ん……あ、そうだ師匠ぉ!向こうにカフェあったから飲み物買って良ーい?」
    「あぁ、構わないよ」

    「やったぁ!んじゃ僕はスパイシーレッドチリチャイティー飲もぉっと!師匠はどうする?新発売のゲロ甘そうな、抹茶チョコミントモンブランティーにする?」

    「お前さんに任せる」


    嵐のような青年は、スキップをしながらその場を離れていった


    呆気にとられていたディアと
    申し訳なさそうに笑う彼


    「すまない、連れが戻ってきたからそろそろ行かないと」
    「…あ、えっと…っ!」

    「ではお嬢さん、またどこかで」



    別れの言葉と共に、彼が人の波に消える
    追いかけようとしたが、なぜか追い付けなかった


    風のように現れ、風のように去っていく彼
    ほんの一時だったが、夢だったのではないかと思ってしまうほどに不思議な時間だった



    「……名前、聞けなかった」


    結局名前は聞けず、何処の誰か分からないまま
    左手に巻かれたハンカチも、彼の正体を教えてはくれない



    「…東の街、どこか分からないけど……そこにいけば、またあの人に会えるかも」




    ”師匠”と呼ばれていた恩人

    もう一度会って、ちゃんとお礼を言わないと
    今度は、名前も聞ければと思う

    それに、ハンカチも返さないと









    ずっと独りで寂しかったから
    お城を出て冒険がしてみたかった


    そしたら、おとぎ話のように素敵な出会い


    どうかあの人に、また会えるように
    今度は、きちんと話せるように



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