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    Tachibana_KoN0e

    @Tachibana_KoN0e

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    Tachibana_KoN0e

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    レインコードネタバレ。ストーリー後捏造。
    ヴィヤコヴィ(左右不定)のTRICKパロといいつつ、TRICK要素は皆無。思いついたところだけ

    思いついたところだけぞくり
    身の毛もよだつとはこのことか。『その』時はいつだって不快極まり無かった。
    永久に続くかのように見えた安寧と静謐から無理矢理引き摺り出される感覚。意識が無から浮かび上がっていくというのに、まるで水に沈められているかのような感覚。
    苦しい、苦しい。さっきまで息をする必要なんて無かったのに、肺は酸素を求め、下手糞な呼吸を再開する。
    割れた頭蓋、溢れた脳漿をそのままに、ぐちゅぐちゅと嫌な音を立てながら、人工物みたいなショッキングピンクの肉と血が隙間を埋めようと蠢く。
    鉛のように重い身体。そう認識できる意識が形になって、手足のひとつも動かせないまま藻掻き苦しんだ。
    やがて、耐えかねて口を開け、浅く息を吸う。それと同時に瞼をカッと開いた。

    そうして、俺は息を吹き返した。

    またか。顔に被せられた布を、腕をなんとか上げて取り去る。死者に対する思いやりなのかもしれないが、意識を覚醒してなお息苦しいのは御免被りたい。
    腕を上げるだけで酷く疲れた。立ち上がれず、眼球だけ動かして周りの様子を探る。
    暗い。そして静かだ。未だ聴覚が戻ってきていないのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。生き返った直後に鮮烈な外界の情報に晒されるのは辛いものがあるので、有り難かった。
    此処は、恐らく倉庫。湿度と温度からして地下室かもしれない。死体を安置するにはもってこいの場所だ。
    ぺらり。紙の音がする。頭も少し動かしながら音の元へ視線を向けると、見慣れた人物が文庫本の頁を捲った音だった。……こんなに暗くて、文字が読めるのかねぇ。もしかしたら、コイツは夜目が効くのかもしれない。
    ソイツは見られていることに気がついたのか、本から視線を上げる。何でもないように蘇生した俺を見下ろし、首を傾げた。此方の様子を伺っている。

    「……よぉ、ヴィヴィア」

    絞り出した声は掠れていた。ヴィヴィアは薄く微笑むと、「おはようございます、所長」と云った。




    元来、ホムンクルスとは不死の軍隊を望んだ統一政府の依頼によって研究が進められたものだった。したがって、立ち入り禁止区域のゾンビの軍事転用も、統一政府は画策した。
    開国、そして欠陥ホムンクルスであるカナイ区民の人権の保証と引き換えに、アマテラス社はその研究を余儀なくされた。
    結果は、失敗。ゾンビは軍事転用するには扱い辛過ぎるし、ゾンビに理性を取り戻すことも不可能だ。
    その結果を持って、マコト=カグツチは全ゾンビをその危険性を理由に即刻焼却処分した。他にも使い道があったろうに。統一政府が嘆いたことは想像に難くない。

    ……ここまでが表向きの話。この話には裏がある。
    実は、ゾンビの理性を取り戻す実験は一件だけ成功していたのだ。
    寧ろその成功を以て、マコト=カグツチは研究の失敗を公表し、全ての資料を火に焚べた。その一件の成功は、死者蘇生の福音などではなく、カナイ区民全員が生物兵器なり得るという証明だったのだから。マコトは区民のことを想い、統一政府を騙すことに決めた。

    その呪いの成功例、それがオレ。ヤコウ=フーリオである。

    ……え?オレの人権は?
    勝手に蘇らせといて、勝手に呪い扱いとは、全く酷い話だ。
    オレはそれなりにカナイ区に顔が利く。死んだこともまあまあ知れ渡っていたから、もう二度とカナイ区の街を歩くことは出来なった。死んだ人間が生きていることがバレてはまずいのだ。
    俺の身柄は、世界探偵機構管理となり、実際上は超探偵、ヴィヴィア=トワイライトの所有となった。
    管理だの、所有だの、モノかオレは。などといっちょ前に不満を溢してみても、まぁヒトじゃねぇしな、納得してしまい虚しくなる。
    オレはヒトじゃない。ヒトじゃなかった。オレが賭けた一世一代の大勝負も、被害者加害者ともに偽物だったもんで、ただの猿芝居に変わった。オレはオリジナルのコピーに過ぎず、彼女への愛も、彼女からのそれも、全てオリジナルのオレのものだ。オレには何も無い。何も無いから、どう扱われようと、構わない。文句を言う資格はない。
    そう、思っているのに。




    「お腹、空きましたよね…」

    ヴィヴィアはポケットからカッターを取り出し、自らの腕に滑らせた。──嗚呼、こんなに暗いのに、その赤だけは眩しくて見える。

    「どうぞ」

    止めろと、もう何度も言ってきた。だが、コイツは止めないし、何より再生後の空腹がオレの思考を鈍らせた。オレは這い、ヴィヴィアの差し出した腕に口を寄せる。流れる血潮を舌に乗せ、舐める。
    嗚呼、美味しい。もっと、ほしい。もっと、もっと。肉が。いやダメだ。その一線を越える訳にはいかない。
    何とか欲望を抑え、口を離す。
    口に残る鉄の味が、甘美に感じられる。ほら、もうオレはヒトじゃない。

    「……」

    ありがとう。助かった。そんな言葉を言いたくなくて。沈黙が落ちる。ヴィヴィアは黙って自らの傷に処置をしていた。やがてそれが終わると、口を開く

    「犯人の顔を見ましたか」
    「……ああ」
    「そうですか。なら、──答え合せといきましょう」

    幽体離脱する探偵と、不死身の荷物持ち。それが、今のオレ達だ。


    【死ねない男と死にたい男(仮)】
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