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    Tachibana_KoN0e

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    レインコード4章のドネタバレ

    所長とあの人の話

    奇妙な依頼だった。
    『自分自身』を殺してほしい、と。

    自殺にこの奇殺師フィンクを使うとは、全く、馬鹿げた男も居たものだと思ったが、どうやらそうでもない。
    場所は部外者の侵入は決して許さないアマテラス社においても、さらに最高機密区域の研究所。停電を起こした上で、タイミングを見計らって殺せ、という。

    明らかに、利用されている。

    そんなことは分かっていた。
    だが、俺はこの依頼を受けた。理由は、秘密の研究所とやらへの侵入に挑戦してみたくなったことと……嗚呼、この男は覚えていないだろう。
    下らない話だ。一度、カマサキ地区で、万引き犯に間違えられたことがある。無論、『仕事』中ではない。保安部を呼ばれそうになり、殺すか逃げるか、どうしたものかと考えていた俺に、その男は穏やかに声を掛けてきた。激昂した店主を宥め、論理的に俺の無実を説明した。真犯人の手首を捻り上げながら。

    ──災難だったな、あんた。ほら、

    そういって肉まんを差し出し、男は笑う。一応礼儀として、礼を言うと、男は名前と、自身が探偵であることを明かした。

    ──何か困ったことがあれば、力になるぜ。是非ごひいきに

    交わした言葉はその程度だ。奴は駆け足で俺の元から離れ、奴を待っていただろう女にへらへらと頭を下げた後、連れ添って何処かへ行った。
    ……結局、俺がお前を頼る前に、お前が俺を頼ることになったようだが。

    別に、そんなことを恩に感じているわけではない。ただあの時の男が、自らの死を覚悟して、殺し屋の手を借りてまで成し遂げたい『何か』があるのならば、手を、貸してやるのも悪くないと思ったのだ。




    俺が奴を見つけた時には、奴は歩くのもやっという風体だった。
    奴は振り返り、俺を認めると、軽く周りを見回してから、手を上げる。

    「……よぉ、お疲れさん」

    労いの言葉。奴は成し遂げたのだ。
    そして、その最後を飾るのは俺の刃という訳だ。

    「ちょっと、待ってくれ──」

    奴は突然腹のそこから声を張り上げる。
    此処に人を呼ぶ為だろう。刺されてからでは声が出ない可能性がある為の、このタイミングか。
    肩で息をしながら、男は再び此方に向き直り、血の気の引いた顔に薄い笑みを浮かべて、こう云った。

    「──んじゃ、頼むわ」

    俺は頷きもせず、男の急所にナイフを突き刺した。
    慣れ親しんだ、肉の感触。捻り、引き抜き、流れ出る血流の勢いと色から自身の『仕事』が成功したことを確信した。
    奴は倒れる。あとは此処を離れるだけ。
    だが──

    此れは、もう要らない。

    依頼に使われた写真を、奴の眼の前に放り投げる。奴の驚いたような、絶望したかのような顔。やはり余計なお世話だったか。
    奴が血のついた指を『それ』に伸ばすのを視界の端に認めつつ、踵を返す。

    これは、俺を利用したことの意趣返しであり、──餞だ。

    ヤコウ・フーリオ。
    最期に、愛した女の顔ぐらい、見たいだろう──?
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