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    ぷらいべったーにも作品あるのでよろしければどうぞ
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    白紙化した世界でライヘンバッハ組だけが生き残る話です。メリバ注意。トラオム後に初召喚されたホと、その前からいたモリアーティたち。

    うーん、なクオリティですが加筆したりしてなんか活用したいね

    白い世界で「オハヨー!ねぼすけ君!朝ごはんもうできてるヨ!」
    「…」
    シャーロック・ホ一ムズはうんざりした顔でシーツを被り直した。
    朝から高いテンションについていけない。
    今日は持ってこなかったようだが、先日などフライパンとお玉を持ってカンカン打ち鳴らして起こそうとしたのでベッドの中から蹴りを入れてやった。


    「朝ごはん作ったから食べてくんない?今日は本物の卵使ったヨ。」
    「いらない」
    宿敵ジェームズ・モリアーティは、こうなる以前からこんなに楽しそうに日々を過ごしていただろうか。いや、そんなことはなかった。


    「代用卵じゃないからフワフワ!トーストも2枚つけちゃう!」
    「そんなに食えるものか。1枚でいい…」
    「偏食!少食!ムラ食い!いいから早く起きて食堂にきたまえ!」

    一通り罵って、ジェームズ・モリアーティはホ一ムズの部屋を後にした。獣道を通るときのように、通路になる部屋の真ん中に散らばる書類、ガラクタ(記念品)を蹴散らかして。




    食堂に行ってなんの意味があるのか。
    旨い飯を食べて何になる?
    楽しく日々を過ごそうとすること自体が、無駄だ。



    マスターもサーヴァントもいなくなった今、ここにいる意味は、なにひとつない。









    白紙化は止められなかった。
    残された我々はあまりに無力だった。

    ある日から、カルデアの残り少ない職員がひとり、また一人と消えていった。跡形もなく、どこかに行った痕跡もない、それは正真正銘の消失だった。


    そしてある朝、マスターは消失した。
    きれいさっぱりどこにもいない。
    ファーストサーヴァントたるマシュ・キリエライトも消えた。マスターとの縁が濃かった故に、同時に消失したのだろう。


    カルデアの職員も、もう誰もいない。
    だが、電力供給のシステムは相変わらず生きていて、縁が無くなったはずのサーヴァントたちはテレビが消されたあとも執拗く虚像が残るようにそこにあり続けた。


    しかしその電力も無尽蔵ではなく、縁が薄いものから徐々に消えていった。


    消えたというより、還って行ったというべきか。


    300ほどいた数が、250、200が100に減るのに時間はさほどかからなかった。

    そして、ルーラーのシャーロック・ホ一ムズ、
    アーチャーのジェームズ・モリアーティ、そしてルーラーのジェームズ・モリアーティの3人だけが残り、それ以降は電力供給のバランスがとれてしまったようで、以降3人だけで存在し続けている。







    「代用卵って何でできてたと思う?」
    アーチャーのモリアーティは、残った二人に尋ねた。


    「ヨッシャ!ゴール!はい1点!」
    勢い良く振ったパターはきれいに放射線を描いて空き缶の中に吸い込まれていった。流石アーチャーの霊基というべきか。


    「タンパク質だろう」
    ホームズは真底どうでもいいという顔でアーチャーのモリアーティの話を受け流した。
    手に持ったパターを振り回して、ボールを叩く練習をしている。

    ぶん、ぶん、と空を切る音が響く。
    「そりゃタンパク質だろうけどサァ」
    アーチャーのモリアーティが呆れた声を出す。


    そこで点数を数える係をしていたルーラーのモリアーティが口を挟んだ。
    「多分卵と似た成分を…おい、モニターに当たりそうだ。気をつけてくれ」

    ホ一ムズの乱暴なパター裁きに、ルーラーのモリアーティが眉を顰める。

    「モニターに当たったところでそれがどうした」
    ふん、と鼻で笑ってホ一ムズがパターを振り回すのを止める。

    「特異点もなにもない。人類は滅んだ。我々は消えるのを待つだけ。このモニタールームもいずれは廃墟になる。風化することもなく、永遠に存在し続ける廃墟になる。…誰かがやってきてなにかをしなければね」


    「ホ一ムズくん、ヤケクソじゃん」
    アーチャーのモリアーティが腕を組んでモニタールームの椅子に座る。
    「私に勝てないからって拗ねないでよネ!」
    「違う。アーチャーの霊基だからといって舐めてかからないことだ。私が勝つ」
    「言ってろ!私との点差を埋められるわけ無い!」

    アーチャーのモリアーティが野次を飛ばす中、ホ一ムズのパターがボールに当たって、美しい放物線を描きながら、やや高いところにある、100点と手書きされた空き缶のなかに入って、カランカランと軽快な音を立てた。





    「何か面白い話題は」
    「あるわけなくネ?3人しかいないのに」
    「3ピースしかないパズルをしているみたいだネ?」


    三人のサーヴァントが揃ってミーティングルームでお茶をする。
    マスターがいた頃、新所長やグランカヴァッロがいた頃を思い出す。

    ネモ・ベーカリーの焼いたペイストリー、芳しい挽きたての豆から淹れた珈琲の香りを思い出すが、このミーティングルームにその温かみのある香りはもう2度とない。

    代わりに目の前あるのは雑に淹れられたインスタントコーヒーだけ。


    「電力はいつまで持つ?」
    ホームズが湿気ったビスケットを齧りながらモリアーティたちに尋ねた。
    「ざっと試算したところこのペースならあと3ヶ月ってトコ。」
    アーチャーのモリアーティはノートを開きながらデータをホ一ムズに見せる。
    発電システムの予備電力を合わせた残りの数値がおおよそだが書かれている。



    「そのことなんだけど」
    ビスケットをちびちびと齧っていたルーラーのモリアーティが、少し申し訳なさそうに口を開いた。


    「その試算、狂ってしまったんだヨ」
    「は?なんで?」
    アーチャーのモリアーティはノートをばちんと閉じてルーラーのモリアーティを見た。

    「実は発電システムには故障箇所があって、電力が漏れ出ていて」
    「それは知ってる」
    ホ一ムズはそう言いながらコーヒーの入ったマグを煽った。もう疾うの昔にコーヒーは飲み終わっていたが、底に溜まったコーヒーのしずくを舐めるように味わっていた。
    いや、淹れ治すのが面倒で、口が乾くたびに僅かにのこったものを口にしているだけとも言えた。


    「この際だから弄ってみたくて」
    「まさか…」
    アーチャーのモリアーティはノートを机に叩きつけた。
    「修理できちゃったってェ?」
    「そう…以前より効率よく発電してる。」

    「有能にして無能」
    ホ一ムズは苛ついた様子でミーティングルームの背もたれに勢い良くもたれかかった。

    「まさか直ってしまうとは思わなかったんだ」
    反省した様子でモリアーティはマグの中のコーヒーを一口のんだ。反省してはるが大して落ち込んでもいない。

    「あー!なにやってんだヨ!!お前試算し直せ!」
    ノートをルーラーのモリアーティに押し付け、アーチャーのモリアーティは溜息をついてホ一ムズと同じようにソファにもたれかかった。



    暫く3人は押し黙っていたが、急にアーチャーのモリアーティが身体を起こした。

    「お昼ピクニックしない?」
    名案を思いついた。顔にはそう書かれていた。


    「外に出るのか。何もない外に。」
    「何もないのも一興。広々ピクニックしようじゃないか。ふふ、実は冷蔵庫の中にローストビーフがあるのを見つけたんだヨ」

    ローストビーフサンドを作るから外に出よう。
    その提案をルーラーのホ一ムズとモリアーティは受け入れた。








    外は荒涼としていて、何もかもが白かった。

    白紙化とはよく言ったもので、温度も感じない。風も吹いていない。匂いもない。

    本当になにもない。地平線だけが白く輝いている。



    「バスケットがあってよかった」
    アーチャーのモリアーティは浮かれた声を出した。
    「気分がアガるよね」
    「飲み物にワインがついてくるとなれば余計にそうだろうネ」
    アーチャーのモリアーティの言葉を複雑な言い回しで肯定して、ルーラーのモリアーティが頷いた。



    ここがいいかな、とアーチャーのモリアーティが適当に敷き布を広げた。
    その上にバスケットから皿と、グラスと、ワックスペーパーに包まれたサンドイッチが出てくる。

    適当に三人が座り、皿にサンドイッチを取り分け、アーチャーのモリアーティが「これが最後のほんとのお酒」と言いながらコルクを捻ってワインをグラスに注いだ。

    「こんな上等な酒どこから持ってきた?」
    ホ一ムズがグラスを日に翳して、くるくると回しながらアーチャーのモリアーティに尋ねた。

    「ヴラド候のお部屋から頂戴した」
    コルクの香りを嗅いで、うっとりしたあとにアーチャーのモリアーティが告白した。


    「盗品だね」
    ルーラーのモリアーティがそう言いながらグラスに口をつける
    「若造には分からないだろうけど、これはメチャ上等なんだヨ。誰にも飲まれずに消えていくには惜しい逸品なんだ」
    アーチャーのモリアーティがルーラーのモリアーティに嫌味を言いながらワインを口に含む。

    「ううん、美味い…」

    アーチャーのモリアーティが唸り、そのままサンドイッチに齧り付く。

    「あっ、これ牛肉じゃない」
    一口食べてアーチャーのモリアーティは愕然とした表情になった。

    「豚肉…?なんだか野趣あふれる味だネ」
    「昔魔猪が出て大騒ぎになったことがあっただろう…あの肉に違いないよ」
    ルーラーのモリアーティの疑問にホ一ムズが答える。

    「ウーン、これローストビーフっていうより叉焼だなァ」
    そのまま数口齧り付いたところで、アーチャーのモリアーティが心底後悔したという口調で
    「煮卵も作るべきだった」
    と文句を言った。



    「煮卵叉焼サンドイッチね。旨そうだ」
    ルーラーのモリアーティはアーチャーのモリアーティの言葉を肯定した。普段この二人はいがみ合っているときもあるが、舌の好みはそっくりだった。3人だけになってからは尚更、張り合うこともなくなり、同一人物同士仲良くやっている。


    「あーあ、マスターくんにも食べさせてあげたかったなァ」
    荒涼とした風景を眺めながら、アーチャーのモリアーティは呟いた。
    ルーラーのモリアーティも小さく頷いたが、ホ一ムズだけは黙ってワインを呑んでいるだけだった。







    暫くすると、敷き布が白く変色しだした。端からざらざら、と崩れていく。
    地面に触れているだけで白紙化が進んでいくらしい。
    3人はその布の上で、サンドイッチの残りを漫然と口にし、ワインは惜しみながら呑んだ。

    呑み終わる頃には敷き布はすっかり塵になっていた。皿をバスケットに仕舞い込んで、ピクニック会場を後にした。







    三人になってしまったところで、三人は「このままだとしばらくしないうちに皆消えるのだろう」
    と想像していた。

    だが一向に消える気配はなかった。
    1週間、2週間、1ヶ月。
    どれだけたっても誰も消滅しない。
    アーチャーのモリアーティとルーラーのモリアーティは電力システムを調べた。

    電力システムはとても効率的で、300いたサーヴァントと職員たち、そして礼装や保管庫、諸々の施設の電力を賄うのに苦労が全くなかったのだ。

    その電力が無尽蔵に作られ、消費される間もなく蓄電に回っている。

    ただ無為にすごしているだけでは半永久的に過ごせるのだ。




    さて、ここで残ったものたちが、例えば強き武士(もののふ)どもだったり、反骨精神のある神話の登場人物たちであれば、マスター抜きでも問題を解決し…もしくは、なにか生きた証を残すべく、電力を使ったことだろう。

    だが残ったのは、黒幕と、探偵と、蛹だけだった。





    見るからに力を失っていったのはホ一ムズだった。

    解くべき謎がなくなった。
    謎を解いてもなんの意味もない。
    無気力、自暴自棄になり、部屋に篭って臥せった。


    残された2人のモリアーティ。
    誰か他に人がいればまだ何が企めたかもしれない。
    だが敏い二人も、分かってしまっていた。


    もう人理に対しても、この星に対しても、できることはない。
    このまま何も起こらず、消えていくだけ。消えた先には未来もない。大元になるデータが消えてしまっては、復帰も二度とない。




    そうして3人はしばらく無為に過ごしていたが、
    ここまでたどり着いたマスターのことを考えると、さぞ無念だろうという気持ちでは一致していた。

    人理を、人類を救うため、大した魔術の才能もなく、背伸びして必死に生きていた三人の、共通のマスター。



    「終わる日まで、がんばって自活しよう」
    3人がそれぞれ口にすることはなかったが、なんとなく、そういう方針ですごすことにした。




    いつも通りの朝。いや、朝と昼と晩という概念も最早ないのだが。3人は管制室にある時計だけを頼りに時間の概念を管理している。

    珈琲だけでも飲もうかと、食堂に行くとルーラーのモリアーティが座っていた。

    ただ広いだけの食堂。何百人と利用して賑わっていた面影はどこにもない。ただ無機質なテーブルと、固く冷たいプラスチックの椅子だけが墓標のようにずらずらと、延々と並んでいる。

    その寒々しい光景のなかで、ルーラーのモリアーティは珍しく一臨の、学生らしい姿になってひたすらノートに数式を書いていた。


    あまりの珍しさに、ぼんやりその姿をみながらコーヒーメーカーの中のホットコーヒーをカップに注ぐ。
    朝一番にアーチャーのモリアーティが淹れたものをそのまま残して三人で飲むのが日課になっていたが、今日はいつもより妙に味が濃く、量が少ない。

    電源がついたまま、放置されて煮詰められていたのだ。



    「先輩」
    ルーラーのモリアーティはホ一ムズにようやく気がついた、という顔でホ一ムズを見た。

    「おはようございます。」
    「…君に先輩と呼ばれる謂れはないが 」
    「…そうですよね。」

    ルーラーのモリアーティは寂しそうに笑い、またノートに向き合った。
    数字がペンの先から溢れるように羅列されていき、ノートに溢れていく。


    「その姿は」
    「電力の節約です。僕はもっと数字と向き合いたいので。1秒でもここに長くいたいです。」
    ルーラーのモリアーティは顔を上げずにホ一ムズの問に答える。



    「先輩、トラオムの時はいませんでしたよネ。」
    モリアーティは手をとめ、ようやく顔を上げた。

    死想顕現界域 トラオム。
    自分はその話を、データの上でしか知らない。

    「僕はトラオム後に召喚されたんです」
    ルーラーのモリアーティとは何度も周回や攻略で一緒になっているのに、身の上話など今更初めて聞く話だ、とホ一ムズは思った。


    ルーラーのモリアーティは懐かしい過去を思い出して、微笑んだ。

    「シャーロック・ホ一ムズはなかなか縁がなくて、アーチャーのモリアーティとルーラーであふ僕が召喚されてからだいぶあとに召喚されたんですよ」
    「そうかい。それがどうかしたか」
    自分でも冷たい声が出るものだな、と思った。
    「興味がない、って顔ですね。先輩は謎しか興味ありませんもんネ」
    そんなことはない、と否定したかったが実のところ謎ではないものに興味は沸かなかったのが事実だった。


    「先輩が召喚されたときの事を思い出しますネ。あのときマスター君は本当に…本当に喜んで」
    「シャーロック・ホ一ムズの再来を?」


    自分の前に経営顧問のシャーロック・ホ一ムズがいたことはデータで知っていた。
    カルデアの末席に遅くにやってきた自分が、前にいたシャーロック・ホ一ムズと比べられるのは自明の理だった。

    どう違うとしても、どう同じだったとしても、前にいたシャーロック・ホ一ムズは、紛い物だった。カルデアを友人たちと呼び、庇って消えていったシャーロック・ホ一ムズ。

    それは自分ではない。うんざりするほど識っている。


    「再来じゃないですよ。先輩は先輩ですから。」
    ルーラーのモリアーティは言い聞かせるようにホ一ムズにそう言った。
    「僕はトラオムの前からいました。前のシャーロック・ホ一ムズのことも良く知ってます。何度も仕事や攻略で一緒になりました。…トラオムでも。」


    トラオム。経営顧問だったシャーロック・ホ一ムズが消えた場所。そしてルーラーであり、使徒であったモリアーティがいた処。


    「経営顧問の消失が君にとっては苦痛だった」
    容赦なく事実を突きつける。
    推察ではなかった。ルーラーのモリアーティの態度が、言動が物語っている。
    「それで私をその代わりにしたかったのか?」
    「いえ、違います」
    ルーラーのモリアーティは首を横に振ってはっきりと否定した。
    「私で償いたかった?」
    「いえ、それも違います」
    ルーラーのモリアーティは溜息をついて、ノートを閉じた。ホ一ムズに向きあい、目線を合わせる。


    「貴方と過ごせてよかった。経営顧問ではない。今回だけの貴方に。それだけです。」




    「終わりの時は近いですよ」
    ホ一ムズが黙っていると、ルーラーのモリアーティはそう言った。



    穏やかな言葉遣いだった。
    ホ一ムズは何も言わず、珈琲を手に自室に戻った。


    管内は冷え冷えとしている。
    それが空調の不調なのか、誰もいない寂しさ、虚しさからくるものなのか、ホ一ムズにはわからなくなっていた。










    ホ一ムズは召喚された日のことを思い出していた。

    探偵が必要か、と問うた自分に、マスターは声を震わせて言った。


    『勿論、ずっとここにいてほしい』


    『あなたに会いたくて旅を続けたんだ』





    「いっしょに呑みたいひと〜」

    ホ一ムズとしては珍しく、ぼんやりとした思考のなかで漫然と廊下を歩いていると、アーチャーのモリアーティが陽気に声をかけてきた


    「珈琲」
    「赤が好きだよな、ホ一ムズ君?君の好きなトカイワインを術式で模擬的に作ってみたんだ。呑んでみないか?」
    「不味かったぞ」
    「許せヨ。毎日美味いのを飲ませてやったろう」
    アーチャーのモリアーティは愉快そうに笑った

    「笑うな気色の悪い」
    「今は何でも許せる気分なんだよネ」
    へらへらと笑って、アーチャーのモリアーティはホ一ムズの肩を叩く。

    「本当はお前が一番コスト割かれてるのが気に入らなかったんだヨ」
    「…私と君のレベルは同じくらいだった筈だが。スキルも全て強化済みで…」
    「いやいや、QPがたりなくて強化できなかったけどお前宝具マだからネ?全然リソース違う」
    「…」
    「マスターくんはさぁ、お前のこと大好きだったよナ」
    勿論私のほうがずーーーっと大事にされてたケド!



    なにがおかしいのかモリアーティは、
    ぶわはは、と爆笑した。

    笑いすぎて涙が出ている。



    「仮説なんだけどサ…お前が一番マスターくんからリソース割かれてたから、マスターくんと一番縁が濃かったけど最後まで生き延びてるんだヨ。」
    「縁は濃くないだろう…私は新参の部類だ」
    「過ごした時間の長さじゃないんだよナ〜、濃さ!どう過ごしたかが大事なんだ」


    そこでモリアーティはもう一口ワインを口に含み、ツマミがないのが惜しいよナ、と愚痴を零した。


    「何が言いたい」
    「楽しかったか?」
    「…」
    「ここにいて良かった、って思えたか?」
    モリアーティはホ一ムズのグラスにワインを継ぎ足した。少なくなっていたグラスに赤い液体が並々継がれる。


    「お前より前に私が召喚されてたから、なんとなくお前のこと世話焼いちゃったよネ」
    「そうだな。余計なお世話ばかりだったが」
    「トカイワイン美味しい?」
    「ああ…匂いも味もそっくりだとも」
    「本物呑んだことないくせに!」

    そうだ。私もお前も、地球からみたら染みみたいな、一時代の人間の影法師。あり方が違うだけで、現実なのか夢なのかわからない、そんな泡沫の夢のような。


    「このワインの味が本物かどうかなんて関係ない。今我々が美味いと思ってるか、そうでないか、それだけが大切なんだ」
    「美味いよ。悔しいけれど」
    素直な気持ちでホ一ムズがグラスの中のワインを褒める。
    残り少ないリソースで、酒好きなアーチャーのモリアーティの霊基と記憶をもって作ったまがい物の酒。

    それでも、その香りや、色や風味は確かだった。
    「さすがバーをやっていただけあるね」
    「そうだろ?お客もみんな大物だったしナ!」
    いい経験だった、いい酒もたくさん呑めたしネ
    そう言ってモリアーティはグラスの中身を煽った。



    こんな夜も悪くない
    ホ一ムズは2本目のボトルをあけるモリアーティを見てそう思った。







    サーヴァントに睡眠は必要ない。
    電力節約のために睡眠を擬似的にとるサーヴァントが増えたあたりで、ホ一ムズも目を閉じ、脳を休めるようになった。


    マスターが消えたときから、そうしたとき記憶と呼べるような、映像と声が聞こえてくるようになった。
    マスターの残滓。片鱗。それがまだ漂っているのか。

    「私は経営顧問の彼ではないよ」
    『わかってる』
    「正義の人でもない」
    『知ってるよ』
    「私は彼の代わりにはなれない。彼の代わりに仕事ができたとしても。」


    期待されても困る。
    そう思って警告のつもりで口にした言葉は、マスターには想定外の言葉だったようで、戸惑った顔で初めは口を噤んでいたが

    よくよく考えた様子で

    『それでもいいんだ。ただここにいてほしい』

    と言って微笑んだ。







    そこでホ一ムズは目を開けた。
    ゆっくりと部屋の中を見る。傍目には何も変わったところはない。
    だが繋がっていたパスが2本、途切れてなくなっているのは、はっきり分かった。




    アーチャーのモリアーティの部屋の前に来た。
    いつもパスワードがかかっているが、今日は何度やっても破れなかった。

    食堂は自動的についた明かりで煌煌としていた。

    コーヒーメーカーに水を入れ、一杯だけ珈琲を淹れる。
    その珈琲を片手にもう一度、アーチャーのモリアーティの部屋のロックのキーパッドに触れる。


    0だけを13桁。
    それで部屋のロックは解除された。


    「最後に一杯食わされたな」
    部屋の中は整頓され、もとから誰かが使っていなかったのではないかと思われるほど、1ミリも乱れていなかった。

    部屋の中のデスクの一番上の段の抽斗を開ける。何も入っていなかった。

    最後になっても手の内を明かすことはプライドが許さなかったのか。
    悪事の証拠も、数学の軌跡も、綺麗に処分されている。



    ルーラーのモリアーティの部屋のロックは簡単に開いた。考えることがアーチャーのモリアーティと同じだ。正反対とも言えるが。


    9だけを13桁。


    ルーラーのモリアーティの部屋はアーチャーよモリアーティと同じように整っていたが、机の上に1枚の紙が置かれている事だけが違った。

    丁寧に、一文字一文字ゆっくりと書いた筆跡の数字。




    「発電システムの総電源のパスワード」


    思い当たる節はそれしかなかった。





    「最初からこうすればよかったのか」
    ホ一ムズは誰にでもなく微笑んだ。
    電力システムの電力元のスイッチを切っても、暫くはシステムが動くらしい。
    予備電源の電源を落とす。
    がちゃん、という音がして、電子音が途切れた。

    電源室の外に出て、管内の部屋の電気を、一つ一つ消していく。

    食堂。
    ミーティングルーム。
    管制室。廊下。

    一つ一つの電源を手動で落としていく。
    電気を落とした部屋は真っ暗で、吸い込まれそうな暗黒だった。


    その暗黒を、ホ一ムズ自身のでひとつひとつ増やしていく。

    心細さはなかった。
    最後に自分が残ったことに、意味があった。
    経営顧問ではない自分が。
    代わりになれなかった自分が。
    この手で人の生きた証を閉じていく。



    マスターの部屋。何度も訪れた。
    奇妙な飾り付けがしてあったり、何故か密林になっていたりした。
    何度も呼ばれて部屋を訪れるたび、笑顔で出迎えて、私の話を熱心に聞いた。


    部屋の電源を落とす。
    真っ暗で何も見えない。無機質なベッドも、サーヴァントで賑わった気配も、もう何も感じない。


    手で扉を閉めた。もう訪れることはない。
    でも、最後に、私が覚えている。
    私が見たこと、聞いたこと。マスターがいなくなっても、誰も書き留めるものがいなくとも。


    私は知っている。
    マスターが、私を大切にしてくれていたことを。



    ゆっくりと自分に与えられた部屋に歩いていく。


    『前に別の…ホ一ムズがいて…』
    『未だに片付けられないんだ』
    『いいの?部屋の中グチャグチャだけど。…ううん、使ってくれるなら嬉しいよ』




    仮初の部屋のようで落ち着かなかった部屋も、今は自分の部屋として落ち着ける。
    最後に帰るところはここでいい。


    幾人もの人が訪れて、汚さに溜息をついたり、無理矢理片付けようとした。
    目を閉じれば親愛なる友人たちの姿が見える。
    彼らといると、なんとなく君を思い出すんだ。ワトソン。


    部屋のロックを開ける。常夜灯がついたままで薄暗い。散らかった部屋だが、ここが私の帰る場所。

    このカルデアで、幸せに過ごした日々。その中の『わたし』
    ベッドに潜り込む。
    手足の先が冷たい。しかし心の中は暖かく満たされていた。

    ありがとう、友人たち。
    私は







    遠くで、電源が落ちる前の電子音が聞こえ、その後はなにも、音も気配もなくなった。






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