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    年末大掃除ネタです。ぐだ子とマシュと小さいダヴィンチちゃんが出ます。
    ふせったから移行した過去作です。

    年末大掃除ネタ年末の大掃除は最後にして最大の関門を残して全て終了した。

    この魔境を除いて。

    「私の部屋はそっとしておいてほしいんだが」禁煙空間にも関わらずパイプをふかしているホームズが片眉をあげて抗議している

    部屋は自分が使いやすいように整っているので掃除は不要である、と

    「年末だよ?綺麗にしておかないと気持ち悪いって」
    「私の部屋は整っているよ」
    「そりゃ書類のたぐいはファイリングしてあるって意味だろ?床掃除くらいしようって話だよ」
    「…床にも大切な資料が…」
    「床に置くなって!なくなるぞ!」


    最終的にマシュの「経営顧問であるホームズさんのお部屋が…その…少し埃っぽいというのは…他の方に示しがつかないかと思います」の一言に言い返せなかったホームズが折れて、結局埃とりと床の清掃だけならさせてもらえることになった。
    ホームズは渋々という顔をしていたけど無視した。

    ハンディモップ片手に室内に入ると、澱んだ空気のなかで机に堆く積まれたファイルと書類、実験用具の置いてある机(これはホームズが希望して置いたもので他のサーヴァントの部屋にはない。でかい。ごちゃごちゃしている。)自慢の一禎が置かれた長椅子と他に椅子が二つ…そして床にまで置かれている書類にがらくた(にしか見えない。なんだろう)の山が鎮座ましましている。

    「これで整っている、は無理があるよ」
    ダヴィンチちゃんがホームズに文句を言いつつ、新開発した電動モップを振り回した。
    「とりあえず換気扇掃除しようか。空気悪すぎ!ドア開けっ放しにしとくよ。」
    そう言って換気扇のある壁際に椅子を運んで、それをはしご代わりに換気扇の蓋をはずした


    「どの書類が大事なのかわからないからさ、書類集めるから、いらない書類ないか見てよ」
    「いらない書類などない」
    ホームズが不満げに、明らかにむくれながらそう言ったが、じゃあ優先度高い書類だけ選り分けてファイリングして!と、今手が届く範囲だけで集めた紙の束をおしつけて強めに言うと渋々(本当に誰のためにこうして手伝ってるのかわからない)長椅子に座って内容を確認し始めた。


    「うーーわ汚い!!!これは強力洗剤が必要だぞ!」ダヴィンチちゃんの悲鳴が上がった。
    換気扇の羽はありえないほど真っ黒というかドロドロというか本当に悲惨な有様だ。道理でどんだけ換気扇を回しても空気が悪いと思った。

    ダヴィンチちゃんが洗剤洗剤!と言いながら走って自分のラボに向かっていくのを尻目に、マシュとふたりでひたすら書類を集め、ガラクタを箱にしまっていく。


    「…ホームズさん、この缶はなんでしょう…お菓子の箱のようですが、中を振ってもカラカラと少し音がするだけで…開けてもいいですか」マシュが手のひらに乗るくらいの蓋付きの缶を持ってホームズにたずねた

    「…ああ、それはね、事件の証拠品が入ってるんだ」ホームズは書類から目を離して缶を見た

    「疲れ果てた船長の冒険の事件に関する戦利品だよ」そう言いながらホームズは床に散らばるゴミを掻き分け歩み寄って、マシュから缶を受け取った


    「つかれはてたせんちょう…??」
    「語られざる事件の一つですね!お話ぜひ聞きたいです!」

    ホームズが缶の蓋を開けると、そこには小さな何かが印刷された紙の束と、金貨3枚が入っていた

    「イギリスの金貨?」
    「いや、オーストラリアの1ソブリン金貨だ」
    「それが事件とどんな関係が…」
    「これはね」

    と、ホームズが切り出したところでハッとして
    「ちょっとまって」と話を止めさせた

    「どうしたんですか先輩」
    「駄目だよこういうの」
    「こういうの?」
    「片付けの最中に発見したものを見返すのはよくない!こういうことしてると時間ばっかり経つんだよ」

    思い出される、ここカルデアに来る前の自分。
    年末の大掃除に限らず部屋を整理するとき必ずまえに立ちはだかる難問。
    それは整理して出てきた漫画だのゲームだの懐かしいものだの、そういった興味を奪う厄介な難敵たちをどういなすか…!

    ちょっとだけ…と思っても30分1時間を平気で消費させてくる奴らなのだ。

    ましてや人にそれがなにかを聞いて思いで話を聞くなど絶対に年末の大掃除にあってはならない。時間が無限にあっても足りない。


    「特にホームズはストーリーテラーの才能あるから聞き惚れて仕事にならないでしょ」
    「お褒めいただいて見に余る光栄だ」
    ホームズは缶の中身を見て、蓋をしめながらそう言った

    「た、たしかに…グロリア・スコット号のときはワトソン先生と二人で部屋を片付けていたときに、ホームズさんがお話をはじめるところから物語が始まっていました!今の状況と似ています!」
    マシュはやや興奮気味に、手に持った布巾をぎゅっと握りしめていた

    「…結局あのあとお掃除はどうなったのでしょう…」
    「…晩御飯には間に合わなかったね」
    ホームズが少しばつの悪そうな顔で答えた
    きっと二人でハドソンさんに怒られたんだな。
    終わってるかと思って部屋に晩御飯もってったら散らかったまんまだったらどんな温厚なマダムでも怒るよそりゃ。


    「…思い出話はあとで聞くとしてさ…そうだ、このダンボールにいれとこう。そういう思い出の品は…」

    私は持参したマジックペンで空きダンボールに『思い出の品』と書いて、ホームズから缶を受け取りダンボールにそっと入れた


    ホームズは名残惜しそうな顔で缶を手放したが、溜息をついてまた書類に目を戻した。



    そのあとも部屋のグチャグチャゾーンを整理するたびに『思い出の品』が見つかり、「それは…」とホームズが解説しようとするので

    またあとで教えてね

    と言ってダンボールにつめていった。
    ダンボールの中はどんどん嵩がまして行った。


    怪しげな中東風の人形。床まで届きそうな長さの付け髭。七色に光る瓶入りの魚の剥製。などなどなど…


    その面白そうな品をみつけるたびにホームズが椅子に座ったままで

    「それは悪名高きカナリア調教師の事件の証拠品だね」とか「ああ、それはエイプリルフールの好敵手の…」とか気になってしまうような名前の事件の名前を挙げて紹介しようとするので本当に困った。気になってしまう。


    特に「スケスケビキニ骸骨の悔恨の事件」は名前がおかしくて何か気になって「なんて?」と聞き返してしまい、あやうくホームズの術中にはまるところだった。

    この探偵話を聞いて欲しくてわざと面白そうなタイトルをつけてないか?



    部屋の片付けはゆうに1時間かかってもなかなか進まなかった。ようやく床が見えてきたかなというところで、ダヴィンチちゃんがお手製の洗剤と特製ブラシと水圧洗浄機を持って帰ってきた。


    そして部屋に入ってくるなり
    「ただいま!………あれ?部屋片付いてないね?」
    と言ったので思わず抗議の声をあげてしまった

    「ええっ!ノンストップで片付けてるんだけど」
    「…ん?」
    「ほら、ちょっと床まともになってきたよ」
    「ねえ、立花ちゃん」
    ダヴィンチちゃんが手に持っていた洗剤とブラシを床に置いて、部屋を眺めながら言った

    「物が増えてるよ」

    えっ?

    私はそこでようやく立ち上がって腰を伸ばし、部屋の中を見渡した


    言われてみれば雑然としながらもなんだかものの配置が変わっている。それは整頓したせいで変わったのではなく、消えたはずの山が増え、新しい小山ができ、あったはずのものが移動しているせいで配置が変わっているのだ。


    あの猿の人形、あそこにあっただろうか。
    実験器具のフラスコに残っている薬品の色は紫だったか?黄色で、もっと量は多かったような気がする。
    あのペルシャスリッパは?あんな柄だったろうか。



    「それはそうさ」
    ホームズは書類を横に置き、足を組みながら椅子に座り直した


    「部屋を整理するとものが増えるんだ」

    なんだって?

    「もしかして…部屋を整理するたびに新しい事件が出来上がって証拠品が増える…??」
    「新しい事件が出来上がるのではないよ。前からあった事件がこの部屋に浮かんでくるんだ。質量を伴ってね」
    どっちも同じだ。つまり部屋を片付けても、ホームズがいる限り新しい証拠品が無尽蔵にこの部屋に現れるということだ。

    「だから言っただろう…部屋の片付けは不要だとね」
    そこでホームズはサイドテーブルに手を伸ばし、湯気のたっているコーヒーを一口のんだ。

    明らかに部屋に入る前にはなかったし淹れる暇など無かったはずだ。
    そのコーヒーもやっぱり、浮かんできたのかな。



    結局その日は黒くてドロドロの換気扇とフィルターをダヴィンチちゃんの強力洗剤と特性ブラシで擦って、水圧洗浄機で汚れをおとして綺麗にして終わった。

    当然その作業はホームズにやってもらった。
    換気扇を掃除する間は新しい事件は出てこなかった。部屋を掃除しない限りでてこないらしい。

    換気扇とフィルターの水気をタオルでとりながら、私はホームズの『思い出の品』ダンボールを眺めていた。この一つ一つに語られるべき物語があるんだなと思うと、知らない人にとってはガラクタだけど本人にとっては宝物な訳で、『思い出の品』ではなく『宝物』と書くべきだったかなと思うのだった。













    そして今年も年の瀬がやってきた。いろんなことがあったが、やはり年末は大掃除をするべきだ。
    大切な人がいなくなっても、どんなことがあっても、年末はやってくるし、新年も待ってくれない。

    「あとは…ホームズさんのお部屋…だけになりましたね」マシュはホームズの部屋の前でぽつりと呟くように声を出した。
    「半年しか使ってなかっただろうけど、部屋は使ってたしね」
    本人がいないので、きっと片付けても新しい事件は浮かんでこないだろう。あれは本人がいてこそ起こる現象だろうから。


    部屋のキーは分かっているのでいつでも開けられるのだが、なんだか部屋の中に入るのが空恐ろしかった。
    いなくなっても、どこかにいるような気がしてしまう。もしかしてこの部屋の中にまだいるんじゃないか。部屋越しにあのパイプで吸う煙草の香りがする気がしてしまう。


    「先輩…やめておきますか」
    マシュはキーパッドにおいたままの私の手を見て言った

    「いや、確認しよう。どんな状態なのかは見ておかないと。」
    私は思考を断ち切るように素早くキーパッドにロックキーを入力した。
    ピッ、という音がして解錠した。



    部屋の中は相変わらずの乱雑状態で、電気はついていないので暗かったが1年前と大して変わりがないのが分かった。
    微かに煙草の香りがする気がする。部屋に染み付いているのだろう。


    マシュと私は暫く黙って部屋に入れなかったが、私が思い切って1歩部屋に踏み出したのを見て、マシュも後をついてきた。


    床に落ちた紙がつま先に当たって乾いた音を立てた。

    「…換気扇だけ、掃除しよう」
    私はマシュに言った
    「部屋は…そのままにしようか。片付けない方向で。」

    「…そうですね。最後の事件のあとも、ホームズさんはお兄さんにお願いしてお部屋はそのままにされていたそうですから」
    マシュは真っ暗な部屋に目を向けて、少しだけ笑った

    「きっと帰ってこられたとき、部屋が片付いていたらがっかりされますね」
    「それか、すぐ散らかして元通りかも。」
    私も少しだけ笑った。


    仮に戻ってこなくても、この部屋はもうすこしこのままにしておこう。


    換気扇の蓋をはずし、中を確認したとき私は声をあげてしまった


    そこには去年の年末と同じように黒くてドロドロで悲惨な換気扇とフィルターが鎮座ましましていたからだ。
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