アレスは意外といってはなんだがお洒落だ。
解放軍からみた傭兵は、よく言えば質実剛健悪くいえば粗野な印象で、王子とはいえ傭兵育ちという印象が先行しているアレスは相当浮いた人物だった。
「失礼しま〜す。アレスいる?」
セリスはアレスの部屋に訪れノックすると中から勝手に開けて入れと盟主を相手にして雑な返事をした。セリスも盟主としてではなく親友として、恋人としての距離感で接しているから不満なく、むしろアレスらしいなと、はいはい分かったと適当な返事で扉を開けた。
相変わらず部屋に私物は少ない。傭兵生活で移動も全て自分で行うから私物は自ずと少なくなるとアレスは言っていた。壁際に置かれる対のティーカップはプレゼントとしてセリスが贈り、荷物がかさむといいつも大切に使っている品だ。
「……アレスなんかいい香りするね?」
セリスは部屋に入るなり、まず部屋の匂い……というかアレスの匂いに気付いた。アレスは備え付けの三面鏡の前で髪を整えている。本人曰く、伸ばして何とかしたものの癖毛が面倒でと話をしていた。
「今香水吹っかけたばかりだからな。つかお前集合より一刻早くないか。」
「急ぎの用だから来たんだよね」
ほら、とセリスはアレスに部隊編成の変更の旨を伝える。アレスは真剣に話を聞き、ここの動きは、目標は、と傭兵として実力を積んだ彼らしい質問が飛んできた。
「……さて、大丈夫そうかな」
セリスは話をするため腰かけていた椅子から立ち上がる。
「……俺はあまり大丈夫じゃない」
「な、なんで?編成とかは問題なさそうだったのに?」
「こっち」
と鏡の中のアレスを指す。
「寝癖が気に入らん」
一拍あけ沈黙、心配し何か深刻なものでもと考えていたセリスは声を荒らげた。
「別にそれくらい隠れてわからないじゃん!!!!」
「馬で走ると変な方になびくんだよ!!」
部屋から「ピアス変えてねぇ!」「付けてるから別にいいじゃん!」と口論する声を聞きながら、オイフェはもうすぐ集合だと催促のノックをした。