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    せなん

    地雷原(成人済) 誤字魔

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    せなん

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    デュノルのはず
    電車で思いついてそのまま書いたもの

    ――
    「貴方はどうするのです?」
    樹海の帰路、稀代の魔道士と呼ばれる彼女はノールに問うた。彼女は故郷に戻り魔道の研究を続けるらしい。
    「さぁ……」
    彼女はノールの煮えない返事にひとつ、ふたつと瞬きをした後「そうですか」といつも通り感情がわからない声色で相槌を打ち、背を向けて人の輪の中へと去っていった。あちらはルネスへ向かう一団だ。
    ノールはどこの誰とも違う方角へ脚を向けた。きっと誰とも会うことはないだろうと、そっとかつての仲間に背中を向けた。

    「ふう。これが。」
    ノールは満足気な顔を本に向けた。この本は今は禁書と呼ばれる闇魔道――魔物の召喚について記載されたものだ。傍から見れば古ぼけている黒い紙束だが、ノールにとって喜んで数ヶ月分の生活費を投げ打つ代物だった。
    闇魔道はただでさえ日の目を浴びないものだったが、あれから一切表に出ることがなくなった。いや、出せなくなったと言うべきか。本の類は見せしめのよう燃やされ、先人の遺物は危険だと世に拡がった。ノールは、グラドがルネスに統治される時点で結末を予想していたから、森に隠れ家を作ってすぐ、生活費を闇魔法の物品の収集をした。
    ノールはこの森の奥で独り闇魔道の研究を始めた。かつて主君のよう、闇魔道で何かを成し遂げようということは考えていない。ただ少なくとも、目まぐるしく世界が変わる中ノールが真っ先に思いついたことだった。ただひたすら、闇魔法を歴史の闇に屠ってはならぬと、手当り次第に収集をしていった。
    禁書に当たる闇魔道に関する書籍は現在闇市で高値で売られている。少しだけ生命維持の為に残した金以外、ノールの手元には残っていなかった。森の奥に仕事がある訳もなく、ノールは人知れず表に出せないような仕事をするようになった。とはいっても傭兵や身売りをしている訳ではない。宮廷仕えであったことと学があったことが幸いし、貴族との数合わせだったり、本の編纂だったりを手伝うことになった。命の危険になるほど金を切り詰めたりしたが、何とか身は清いまま、大きな怪我もなく今日を過ごすことができていた。
    ノールは機嫌よく闇市の魔導書を本棚に仕舞う。捨てられるか否かであったから一安心だ。
    (眠い……いつから寝ていないだろう……)
    安心した影響かどっと眠気か押し寄せてきた。書物の翻訳は急ぎではないし、明日入れた予定もないから一つ眠ろう。ぼすんと軽快な布地の音を立たせ、ノールは久しぶりに眠る寝台に身を投げた。

    「――す、ここ」
    「――に?」
    「…………は……ら」
    ギィと蝶番の音が鳴る。光が入り、自宅の扉が開けられたことに気付く。
    (敵)
    体を動かさねば。死ぬかもしれない。まず今ここに並ぶ本を見られたら死罪は免れない。
    (動かない)
    ノールは体をあげようとしたが指一本さえ動かない。目は辛うじて……いや、開かない。どうしたものかと知恵を絞らせていると二つ足音が近づいてくる。片方は鎧を纏ったような金属の音が混じっている。衛兵だろうか。遅いかもしれないが死んだふりが最善か、と考えたとき聞きなれた声が耳に入った。
    「狸寝入りのようです。呼吸の音が聞こえます。」
    それからしばらくまた意識が途切れた。
    次にノールの意識が戻った時、部屋は随分と明るく眩しかった。本の日焼けがしないよう窓は木で打っており、一人暮らしの狭い小屋には部屋全体を照らすような照明もない。真昼以上に眩しい部屋に一体何が、と目をやっと開くと、久しく会っていない紫髪が目に入った。
    「……ぁ…………」
    「425日ぶりですね。興味深い書物を借りていました。」
    よく見るとルーテの手元には見覚えのある理魔法と闇魔法の体系の違いの論文集がある。そして隣には自宅にはないランプ。彼女が持参したのだろうか、部屋全体が黄色に照らされていた。
    (一人?)
    彼女が部屋に入ったとき、衛兵とおぼわしき物音を聞いた。ルネスからこんな奥地に一人で向かうには誰かの手が必要だ。――では一体誰が。
    「ノール」
    目を見開いた。もうひとり、聞き覚えのある声。辛うじてキッチンの体裁を取っていた場所から人影が近付く。
    「しょ……ぐ…………」
    ノールは思っていたより声がかすれ、その上声を出す力がないことに気づいた。
    「まず水と食事を摂るのだ。……積もる話はあるが、体力の回復が最優先だ。それから話をしよう。わしはしばらくこの小屋にいる。」
    ノールはスープ――ほぼ塩味が少しついたお湯を唇に付けた。ひび割れた唇にぴりと痛みが走った。
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