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    ichibata0820

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    ichibata0820

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    セのつく友達から始まるキラ門。の、導入です。現パロ。よろしくお願いしまっす。

    #キラ門
    Kirawus/Kadokura

    愛でないなら!① 金曜日の夜、地方都市の辺縁部にある飲み屋街は一週間の仕事を成し終えたサラリーマンでそこそこに混みあっていた。キラウㇱは純正の務め人ではないから、三十代も半ばと言えど、華の金曜日と言われるものに縁が出来たのは2年と少し前からだ。
     そもそも何時、と待ち合わせしているわけではないから遅れるも何もないのだが、先方が今繁忙期ではないようだから少し早めに出ればよかった、などど思いつつ、解放感で浮足立つ人の波をやや急ぎ気味に渡って、すっかり毎週のならいとなった路地にたどり着き、昼間はカフェとして営業しているといわれると成程納得できる店構えのバーの重たい扉を開ける。立地の面もあるだろうが、価格帯がそれなりなので人は疎らだ。カウンター席の一番奥に見慣れたツートンカラーの頭が見える。

    「キラウㇱ。」

     五十に届くか届かないか、中肉中背、くたびれたスーツに気だるい表情、そんな一見どこにでもいそうな男が殆ど口の動きだけでこちらを呼ばわると、小さく手を振った。

    「門倉。すまない。待たせたか?」

     招かれるままにそこへ向かい、何も聞かずに隣に掛ける。

    「んーん。全然。とりあえず自分の分だけ頼んじゃった。キラウㇱは何がいい?」
    「ああ…。別に飲みたい気分じゃないしな…。」

     ふーん、と聞いているのだかいないのだか、気のない返事をして、門倉は自分のグラスに手を伸ばす。キラウㇱは酒を飲む方ではないし、こうして一般企業のサラリーマンである門倉に合わせて毎週金曜日—特に約束はしない、ただ暗黙の了解になっているというだけの—この店、このくらいの時間、この席に来るのだって、別に友人、乃至は恋人と親しく酒を飲むために、というわけではないのだ。そもそも、酒が目的ですらない。傍から見れば自分たちはどういう関係に見えるのだろうと想像することは、ある。歳は一回り以上離れているから友人には見えないだろうし、片やスーツ、片やシンプルなTシャツにジーンズとスニーカー、加えてヘアバンドにピアスと、上司と部下…というには無理があるか。恋人…は論外。どこからどう見たってどちらも男だ。

    「…キラウㇱ、ねえ、聞いてる?どしたの。ぼーっとして。」

     考え事に没頭していたら、どうにも上の空になっていたらしい。気が付けば門倉は別の酒のグラスに口をつけていた。

    「ん。何でもない。何の話?」
    「あ、そうそう。聞いてくれよ、キラウㇱ~!」

     聞いてみればいつものこと、門倉がここ一週間で見舞われた不運のエピソードたちであった。会社から支給されたデジタル機器を早速失くして小さな騒動を起こしただとか、坊主頭の部下が仕事は出来るがどことなく怖いだとか。それはもう色々。金曜日の夜以外に会ったことがないからその全貌は見えないが、こんなにも運が悪い人間がいるのかと、最初は同情しきりだった。それでも何とかその週の仕事を収めているのだから、くたびれた見目よりはバイタリティーがあるのかもしれない。そのうえで毎週、殆ど欠かすことなく(キラウㇱが心配した、と一度軽く詰め寄ってからというもの、どうしても来られなかった時には翌週会った時に“ごめん”と謝られる)自分に会いに—というのはお互い目的がある以上は大げさか—きて、大抵は待っていてくれる、というのは、自分たちの関係性は置いといて、キラウㇱにとって不思議と嬉しいことだった。

    「あんたは運がないくせして物が手につかないというか、手先に意識がいかないタイプだからな。今度から自分の持ち物に名前を書いておくといい。」
    「ヤだよ。子供みたいじゃん。」

     酔いに任せた気安い会話を交わす。接していればすぐにわかることだが、門倉はかったるそうな雰囲気に反して、案外会話を好む。相手や話題によっては結構エスプリの効いたことも返すし、冗談であれば多少礼を失することを言ってもまるで気にするそぶりもない。キラウㇱが適当かつ辛辣な物言いをしても怒ることは無いし、それを待っている節すらあるように見えた。
    酒が入ればなおのこと、陽気に、愉快に話すようになり、表情豊かに良く笑う。

    「ねえ、キラウㇱ。慰めてよ。」

     加えて、酔った門倉は話の要所要所で、一旦会話を止めて相手の目を下から覗き込むようにじっと見つめる癖がある。これがなかなか曲者で、恐らく本人は話に熱中しているだけで意識してはいないのだろうが、酒毒が回って普段は血色のない頬に赤が差し、眠たげな眼に情熱の色を浮かべるものだから、相手についついそうした寝具恋しい勘違いを起こさせる。その上普段は人並み以上にある警戒心だとかが削げ落ちてしまうもので。
     つまるところ、門倉は自分に全くその気がなくとも、相手をどうしようもなくその気にさせる、至極厄介な性質を持った男なのだった。

    「嫌だ。確かに運は嘘みたいにないが…。半分はあんたがどうしようもなく粗忽者だからだろ。いい加減、適当に生きるのをやめたらいいんだ。」

     門倉の悪い性質が自らをこよなく煽り立てるのを誤魔化すよう、よりつっけんどんな、突き放すような言い方をしてしまう。ただでさえ、何故だか最近、門倉に対してそういう…直截的な欲求を抱くのに罪悪感、のようなものがまとわりつくのだ。向こうもそのつもりなら堂々としていればいいのに、と自分を誤魔化してみても、どうにもキラウㇱという人間は嘘を苦手とするようだった。
     キラウㇱの言葉を受けて、門倉はわざとらしく傷ついた、というような表情を一瞬作って“前の奥さんみたいなことを言う”とおどけて見せた。

    「ひどいな~。キラウㇱもおれの味方してくれないのかよ。」

     キラウㇱの左手を、門倉の右手の指先がくすぐる様になぞる。…みれば、丁度二人とも手元のグラスは空になっていた。そろそろ頃合いかもしれない。

    「なあ門倉…。場所を変えよう。おれの部屋でいい?」

     初めからこのバーなど、二人とも中継地点としか考えていやしないのだ。立ち上がりざまキラウㇱは、門倉の腰を抱いて耳元で囁いた。

    「うん。おれも元々そのつもり。」

     あっけらかんと答えて、キラウㇱの手に自らのそれを重ねて立ち上がる。人がどう見るのかは知らないが、二人の関係は、所謂セフレ、というやつだった。


     もとより徒歩でやってきたキラウㇱのアパートはここからさほど遠くはない。軽く火照った体に夜風が気持ちよかった。門倉と言えば機嫌よさそうに肩を組んできたり、キラウㇱに寄りかかったりしながら自分でいった冗談に笑って、誰がどう見ても酔っ払いだ。自分に対して完全に警戒心を解いた姿に不可思議な喜びを覚えながらも、これは部屋についても寝かしつけるだけになるかもしれない、と多少は残念に思って、その身体を支えてアパートの階段を上り、玄関の鍵を開ける。

    「キラウㇱ。」

     後ろ手に扉を閉め、鍵を下ろしたその時、キラウㇱの耳に先に上がり込んでいたはずの門倉の声が程近く聞こえた。最後に息を抜くように発音した、その呼気が耳介で感じ取れる様にどぎまぎする。夜でも人工灯で明るい住宅街から人のいない部屋に入って、目が未だ暗闇に慣れないキラウㇱの虚をつくように、その背に腕をまわしてしなだれかかってきたのは、先ほどまで足元すら覚束なかったはずの門倉だ。

    「どうした。…酔ってたんじゃないのか?」

     驚きつつも、抱き返して疑問をぶつけてみる。

    「はは。なんだよ。おれたちまあまあ付き合い長いだろ。おれがあのくらいでどうこうなる様にみえた?」
    「さあ。わからないな。ジジイの体調は変わりやすいだろうから。」

     それを受けて“なんだよ~”などと色気のないことを口走りつつ、手だけは服の上からキラウㇱの胸や背中をまさぐっていく。

    「お前、いっつも全然飲まないからさ~。やりにくいったらないよ。それともさあ、…期待してた?」
    「期待も何も…。おれもあんたもそのために来たんだろ。」

     はて、こんなに行為の前に触れ合うことを好む男だったか、と訝しがりながらも、二人きりになった途端に求められる性急さにまんまと焚きつけられて、また誤魔化しの苦手なキラウㇱの悪癖が顔を出す。

    「情緒ってもんがないねえ。この方が気分が出るかと思ったんだけど。でもまあ……違いないな。」
    「へえ。前は会ってヤッて解散、みたいなのを地で行ってたあんたでもそんなこと考えるんだな。」
    「無駄に語呂が良いな。…え、おれそんなんだったっけ。」
    「ああ、覚えてないか?それとも…キスでもしておく?」
    「はは、変な冗談いうなよ。お前とはそういうのじゃねえだろ。」

    腕の中で苦笑する門倉の身体を軽く押しやって、その首元から鬱陶しそうに半端に緩められたネクタイを引き抜き、夏物の薄いスーツを脱がせる。

    「玄関で盛ったってどうせいつもシャワー浴びるんだろ。着替え、適当なの出しとくから。先浴びて来いよ。」
    「おお。その言い方、かっこいいね。おれが女の子だったら一発で参っちゃうな。」

     心にもないことを口走りながら遠慮も会釈もなく勝手知ったる、と浴室に向かう門倉を何とはなしに見やる。門倉の先の、“お前とはそういうのじゃない”、という発言がどうしてか心に引っかかったまま、手に持った上着とネクタイはいつも通りハンガーにかけてやり、先週門倉が置いて帰った物を洗濯しておいた下着類と、もともとはキラウㇱのものだった色あせたTシャツ短パンを持って脱衣所に置いた。

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