百合の夢*
沢山の人を殺めた日は決まって同じ夢を見る。
暗い空間に白い百合が咲いている。ただそれだけの夢。
見る度に、花がどんどんと増えていって、気が付けば暗い空間は一面の百合の花で埋め尽くされていた。
今日もこの夢を見たという事は、どこかに新たに咲いているのだろう。
新しく咲いた花の場所は、もう分からない。
一面に広がる百合はザワザワと揺れている
むせかえる百合の香りに頭がクラクラする
それは自分にとって、とても不気味で最悪な風景。
*
「こんな、ところで」
最期の言葉を遮る様に、首に刀を突き刺す。
完全に事切れたことを確認して刀の血を拭い、そこかしこに転がる帝国兵の死体を一瞥した。
全て自分が殺したものだ。
冒険者になったばかりの頃、まさか自分が人の首をはね、心の臓を貫く事になるとは考えた事も無かった。
盗賊や山賊に襲われる事はあるだろうと考えてはいたが、命まで取るつもりはなかった。
人の殺意に殺意で返し始めたのはいつからだろう。
自ら殺意を向け出したのはいつからだろう。
殺らなければ殺られるだけ、そんな思考が染み付いたのはいつからだろう
「(死体は陰に隠して…いや、じきに雨が降る、血の匂いは消えるはず。それまでに魔物が寄ってくるかもしれないけれど構うものか。)」
殺した者への哀悼よりも、死体の処理が先行する自分に心底嫌気が差す。
今日の夢見も悪くなりそうだ。…酒で誤魔化せたらどんなに良いか。
「あぁ、最悪。」
*