青色の恋文 夕暮れ時の道を歩く。腕を上げて大きく伸びをすると、先程まで丸まって惰眠をむさぼっていた身体がほぐれていく。横目で図書館の窓に映る自分を確認すると、いつも以上にぼさぼさになった頭が見えてぎょっとした。きっと部屋で寝かせてやったのだからと湊に猫の姿を撫でまわされたせいだろう。乱れた髪を手櫛で軽くなおしながら帰路を急いだ。
バーの雑用係が主な仕事であるオレの勤務時間は夕方から深夜にかけてになる。すなわち、今ここにいる時点でほぼ確実に遅刻だ。とはいえ、オレと葵を引き取った変わり者夫婦が、彼らが所有するビルで半ば趣味でやっているようなバーなので、多少出勤が遅れたところで葵に長めの文句を言われるぐらいなのだけれど。カウンターに立つ葵と違ってオレの仕事はそれほど多くない。そもそも主に期待されている仕事は酔っぱらいや厄介な客の相手であって、雑用はそのついでなのだ。
2103