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    uvesix3100

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    遊んでみたアンケートで、一佐のお迎えを選択する方が一番少なかったのでじゃあ二人で迎えに行ってもらうから!とよくわからない方向の思い付きで書いたものです。仲良しな三人がほこほこしているだけのお話。

    さびしい恋のその先で番外編/とくべつなお迎え「あら?」
     さっそく気付いてくれたいつものべにこ先生に、しっと人差し指を立てる。目をぱちくりとさせ、杉元のアイコンタクトに察しがついたのか、にこりと人の良い笑みを浮かべた。さすがの察しの良さにホッと胸をなでおろす。
    「いっさくーん、お迎え来たよ~」
     良く通る高い声で小さな背中の集団に声を掛けると、言い終えるかどうかの素早い反応で愛息は振り返った。この時点でほら、やっぱ違うじゃんと杉元は心中でひそかにつぶやいた。
    「…………」
     父の姿を認めると、読めない表情でててててとやってくる息子は、同じ色の瞳をじっとこちらに向けてくる。
    「なんでとうちゃん?」
     なんでって……言い様に吹き出しそうになるが、ここは演技力を試されている。
    「おがたは?」
     だって今日、おがたの日でしょと必死に無表情を保っているのがなんだか申し訳なってくる。
    「だってとうちゃん、今日は金曜だけど早く帰れたから」
     文句は言ってはいけないと思っているのか、うつむいて、でも隠しきれない一佐の感情が尖るくちびるに集約されていた。
     ほらみろ。今日は、金曜はお前だってもう楽しみにしてんだぞ。土方のじいさんがこの暑いなかゴルフに行って軽い熱中症になってしまって、今週休みだから定時で帰れることになった。そう伝えたら、じゃあ俺は行かなくていいなと言ったのだ。
    言った通りだろうが。うれしいような悲しいような、いややっぱり……うれしい、かなあ。
     ネタ晴らしをするべきか、気付かないかなあとちらと視線を投げると、こっちの方がいたたまれない顔をしていて、思わず噴き出した。
    「なあに、とうちゃん」
     ご機嫌ななめの一佐と『ふたり』の様子を見ていたべにこ先生が、ぷふふと肩を震わせた。
    「杉元さん、もういいじゃないですか」
    「すみません、もう、一佐」
     杉元も笑いが止まらなくなる。声を出さないまま物影を指すと、むううとしたまま一佐は顔を上げた。そして、ぱああと眩しい笑顔に表情を切り替える。
    「おがたあ!」
     きゃああと靴下のまま掛けて行き、尾形に両手を広げて飛びかかる。慌てて腰を下ろし、受け止めた尾形に、
    「おま、おまえ、が、泣くのかと思った」
     と笑う杉元はたちが悪い。
     それについて多少揉めて、じゃあ検証しようぜと今日のランチで説得したのだ。
     いや尾形を説得なんてできるわけがなく、結局息子、一佐が残念がるだろ、そんなことはない、と押し問答の末、じゃあその目で確かめてみろよとなったのだ。行くだけ無駄だとか、お前が居ればとか、なんでそんなこと言うかな。父親が大事だろうと言ってくれるけど、それとはまた別で、特別な存在になっているというのに。
     自己肯定感が低いのは知っているけど、あれだけ一佐が楽しみにしてんだろ。あんなにくっついて回ってんのにさあ。いや、まあ、俺も楽しみにしてるんだけど。いや決して子供をだしにしているわけじゃ……
    「ほらもう、一佐、靴はいて」
    「ああ、俺が抱いていく」
     離れなさそうな幼児にだけ甘い尾形はそう言って、杉元の息子を抱いて立ち上がる。【金曜セット】はお前がもてよとそこはいつもの口調だ。
    「おがた、こないのかと思った」
     しょりしょりと髭に触れる手つきは、まるで子猫でも撫でているようだ。
    「とうちゃん早いからいいかなと思ったんだが」
    「だめ!」
     きゅっと首に抱き着かれたときの尾形の表情を、撮って本人に見せてやりたいと思う。
    「ほら一佐、歩いたら両手繋いでブランコ出来るぞ」
     靴を置いて交渉すると、「ああ!」と一佐はその目を大げさに見開いた。さあどうする。めったに出来ない手つなぎブランコか、尾形の抱っこか。
    「なんだそれは」
     聞きなれない単語の意味を問う尾形に、ちょっと待ってと口元を緩め、一佐の出方を待つ。どうするのか。さあ。
    「んんんん……おりる」
     究極の選択の後、自らその腕を降り、一佐は靴を履いた。ちゃんとバリバリも自分でつけて、準備万端だ。尾形は首をかしげてみている。金曜セットは持った。よし。
    「じゃあほら先生にあいさつ」
    「べにこせんせい、さようなら!」
     父に促され、息子は折り目正しくお辞儀した。今日はふたりが来てくれてうれしいわねえと、笑みをたたえたまま見送ってくれる。
    「はあい、さようなら。杉元さん尾形さん、今週もお疲れさまでした」
    「いつもありがとうございます、また来週お願いします」
    「失礼します」
     最後尾は尾形で、ぺこりといつものように会釈した。それを一歩先で立ち止まって待っていた一佐が、手を掲げてくる。さすがに手を繋ぎたいというのは分かって握ってやると、反対の手は杉元が握った。
    「いえ~~~い」
    「おぉっと」
     ぶらんと一佐が足を浮かせるからいきなり重くなって、何事かと慌てた。
    「一佐、せめて尾形に言ってからじゃないと」
     ごめんなと謝る杉元に、いいけどと返す。
     右手に父、左手に尾形。二人の間で足を浮かせブランコみたいに揺れて、ご機嫌な帰り道。これがしたかったのかと、尾形は不思議そうに一佐を見ていた。もしかして尾形はこういうのもしたことなかったのかな。なんとなく杉元はそんなことに気づいた。
    「一度家に戻ったら、晩飯の買い出し行くかあ」
     なんもなかったなあと杉元が言うのに、食いに出てもいいんじゃねえかと尾形は提案した。そういえばどちらかと二人ではあるが、三人で食事に出たことがなかった。
    「いいねえ、でも金曜混んでそうだよなあ」
    「まあそうだな……どうするかな」
     夏が終わる。この時間も夕日に染まるようになった。三人の影が長く伸びる。おとなふたりは食事の相談をしている。
     真ん中にいる幼児は、飽きることなく、だいすきな二人の間で揺れていた。


    END
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