傷物ここは魔界の国の城、今日もいつものように魔王のお茶会が行われていた。魔王のメアのティーカップにお茶を注いでいる側近のズィーガが、次は自分のティーカップにもお茶を入れようとしていたのだが…
「おや?」
ズィーガの使っているティーカップには少し欠けている部分が見つかりそこからヒビも入っている。
「随分長く使用しておりましたが、そろそろ手放す頃合いですか…」
ズィーガは少し寂しそうな顔をした。思えば、先代の魔王であるノキアが聖界の文化に興味を持った時に、ズィーガと情報共有をするために、このお茶会をするようになり、初めてお茶会をした時からずっと使っていたティーカップであったのだ。ズィーガが他のティーカップを用意し、お茶を注ぐと、メアは先程のヒビの入ったティーカップを目にした。
「それ、まだ使えそうだけど?」
「いえ、怪我しても困りますし、形あるものいつかは壊れてしまうものですから。」
「修繕頼めば?ノーム系の魔物とかそういうの得意そうじゃない。」
ズィーガは少し考えるが、やはり一度、傷の入った物は脆くなってしまうのではないかと心配した。そんな時にメアはズィーガに言う。
「ズィーガだって片目を失っているけどちゃんと生きているじゃん!俺はその傷があるだけで捨てたりはしないよ。もったいないじゃん!」
ズィーガはそれなら修繕に出そうという気が起きた。何より、メアに傷物でも生きているのだと言われたことが嬉しかったのだ。
それから数日後、ズィーガがその日のお茶会を終え、食器洗いをしている。そこには修繕されたティーカップがあり、傷の目立たないように完璧に修繕がされているというよりは、傷が模様として残るように、金継ぎのようなやり方で修繕されていたのだ。ズィーガにとってメアに必要とされていることを再認識するために、そのような直し方をしたようで、ズィーガはノキアとの思い出とメアとの思い出をそのティーカップに込めたのだった。