フォーチュンドール1章1話春、それは出会いの季節なんていう人もいるだろう、学校のチャイムが鳴り響き、ここは2年生のとある教室、転校生がやってきた。
ストレートの長く黄色い髪に黒いカチューシャ、メイド服風な衣装を身にまとう転校生、黒板には尼波幸という文字があり、彼女は一礼する。
今日から始まる能力者の集まる学校での生活、サリアも周りを気にせずに軽く動いてみても驚く人は少なかった。むしろ、同級生たちは幸に興味津々であり、幸を囲んで能力は?趣味は?特技は?前の学校ではどうだった?とひたすら質問攻めを浴びせてくるのである。
しかし、幸はコミュニケーションがとても苦手なのである。能力者というのは世間ではまだ知れ渡っていないゆえに下手に人形に魂を入れるという行為を表に出せずにいたどころか、幸の話し相手はほとんどが人形であった、人間と話す機会なんて両親くらいであり、返す返事もわからなければ、質問攻めの答えを言うタイミングすらわからない、頭が混乱してしまい、ついに幸は泣き出し、教室を抜け出してしまったのである。
校門まで逃げ出した幸は、その場で座り込みサリアを抱きかかえ、うずくまりたくさんの涙を流している。
サリアは幸を慰めているが幸が泣き止む様子はなく、このまま消えてしまいそうな不安に駆られる。
そこに突然、学校の外の方向から校門に向かって走ってくる誰かがやっとたどり着いたと呼吸を荒くして現れた。
赤いバンダナをつけた茶色い髪と瞳、全体的に茶色系の服で少年に見えなくもない少女が泣いている幸に空気も読まずに話しかけてきたのである。
「あ、あの…ここが貝森高校で合ってますよね?俺は今日ここに入学する深戸唯(ふかどゆい)っていうんですけど」
「まぁ、入学式なら終わっておりますわよ。大胆な遅刻ですね。そもそも見てのとおり幸は今泣いているのです、いきなりそんな感じで話しかけるのはいかがなものかと」
「す、すいません!って人形がしゃべった!?俺の能力と似てるのかな?」
気さくな感じで話しかける唯という少女はサリアに睨まれながらも幸に近づき、隣に座り、幸の肩にポンと手をのせる。
少しびくっとした幸は唯と目を合わせる、唯はニコッと笑い、自分の能力を説明する。
唯の能力はぬいぐるみの操作、自分の好きなぬいぐるみを好きなように動かすことができるという能力で幸もおそらく似たようなものだろうと思い、話したのである
幸も、自分の能力の説明をする、幸の場合は人形が完全に自立するため、そこの違いの説明もした。そして、自分が転校性であり、入学する唯とは一歳年上であることやなぜ校門で泣いていたのかと説明をしているうちにいつの間にか涙はおさまっていた。
「幸さんは転校してきたってことはまだ友達がいないんですか?なら、俺が友達になります!だって幸さんクラスで話せなかったのに俺には話せたじゃないですか!」
幸は動揺した、自分は相手と話せたことや友達という存在に今まで縁がなかったので新鮮だったのである。
もう少し話がしたかったが、教室から逃げ出した幸を探しにきた先生が校門までやってきたのでそのまま話は終わり、唯も先生に案内されながらそれぞれの教室に向かった。
この学校には成績に関係する大きな学校行事がある。4人までチームを組み、他のチームと戦い、その戦績次第で評価が上乗せされるのだという。戦うといっても生徒全員に配られる携帯式の結界の中でのみとなる、この結界の中であれば怪我をしても死んだとしても現実には反映されないのだという。
行事への参加は強制ではないため、いままで戦いというものには無縁でかつ能力も戦闘向けではない幸は当然参加するつもりはなく物静かに暮らそうとしていた。サリアもそれがいいと賛同していた。
転校から2週間、教室を抜け出したおかげでクラスの輪に入れず、むしろ行事に誘われることもない幸は次の授業の教室に移動中、唯とすれ違う。
唯は友人である女子と一緒にいた。水色の二つ縛りの髪で学生らしい服装をしているその子の名前は譲葉 雫(ゆずりはしずく)であると唯が幸に紹介する。
雫は幸の事を聞いていたらしく、しゃべる人形のサリアを見せてほしいというので、サリアとお話しさせた。
思えばサリアも家族以外の人と会話するのはこの二人が初めてだろう。幸より淡々と会話できるサリアに対して幸は尊敬の念を抱いていた。
サリアの様子を見ているうちに雫が幸に話しかける
「あの、この人形は幸さんが作ったのですか」
「へぁ!?ひぃ!!」
「あ、あわわ…ごめんなさい…」
完全に油断してた幸は情けない声を上げて赤面し、ひたすらに雫が謝る光景となる。
それを目にした唯は笑いかけて言った。
「幸さんもしずもそんなに緊張しないで大丈夫。あっそうだ!この三人でチーム組みません?学校行事ですよ、成績上がるならやってみましょうよ!」
幸は目を見開いた、参加など眼中になかったからである。
ニコッと笑かける唯と逆に冷や汗をかいている雫、次の授業の時間にもなるし幸はごめん、参加する気無いのと早口で言い残し教室へ向かった。
それからまた2週間ほどが経った。
単位制の授業中に窓の外を見ると始まりだした学校行事の結界が張られてるのが見える。
まぁ、自分には関係のない話だと授業のほうに集中する。とりあえず卒業出来たら人形職人として将来は有望だしと興味なさげ、だがふと唯と雫の事を思い出す。
あの子たちは他の人とチームを組めたのかしら?少なくとも唯の能力じゃ足手まといにもなりかねないけど…
せっかくお友達になれたのだからクラスくらいは聞いておくべきだったと思い幸は授業が終わったところで一年生の教室の前をうろついた。
たまたまでも唯と雫の姿は見えた、しかし、他の生徒に絡まれているようだった。
あれは、確かクラスの男子だったか質問攻め軍団の中にいた気がする程度のおぼろげな記憶の前に見た顔のやつが唯たちに話しかけているのだがどうもチームではなさそう、対戦相手なのだろうか?いや、違うな…。
「よう、一年生!まだチーム組んでないなら俺が入れてやるよ」
「いや、あの…その…」
「はっきりしねぇか!お前らの能力だったら俺らがちゃんと面倒見てやるからよぉ、楽して成績上げてぇだろ?」
幸は会話内容を確認するとわざとらしく目の前に行く。
唯は幸を見つけた瞬間、あっと声を上げたので同級生の男子が幸を見る
「あ?なんだ転校生の尼波だったか?お前、クラスの輪に入れなくて誘われてなかったよなぁ?でも参加する気もないんだろ?学校行事。」
「あなたもまだチームメイト探してるってことは友達とかいないんですね~」
「あ?なんだ人形にしゃべらせてんのか?いい加減なこと言うな人形のくせに、それに俺は転校生に話してんだよ!」
「すいません、チームメイト誘わないでくれます?」
「幸さん!?」
「ちっ、そういうことかよ、わりぃな邪魔して」
同級生の男子は離れていき幸はほっとため息をついた、怖かった。
唯は目をキラキラさせて幸のもとに駆け寄る
「幸さん!やっぱりチーム組んでくれるんですね!
「ほぇ?」
「幸、あなたが言ったのよ、チームメイトって」
幸は勢いで言ってしまった上にサリアにも言質をとられてしまったため、後戻りできず、そのまま唯と雫とチームを組むことになってしまった。
「チーム名どうします?」
「そもそも雫の能力を私は知らないわ」
「あ、私その…絵を描いて…出せるんです」
「絵の実体化…?これでどうやって戦うっていうの…?」
「まぁ~そん時に考えればいいでしょ~!」
「魂の付与、ぬいぐるみ操作、絵の実体化…みんなはアニミズムって言葉はご存じ?」
「あにみずむ…?」
「ほ、ほらあの…唯ちゃんがよく言ってる、ぬいぐるみが痛がってるとかそういうの…」
「よく言ってるの?まぁ、そういう考え方ね。無機質にも魂が宿るって考えそれに因んだ造語でチーム名はアニミストってのはどうかしら?」
「わぁ~!すんごく読みづらいけどかっこいい!」
さてさて、この先どうなることやら…まぁ、仲良くできたらいいな
つづくのかな?