フォーチュンドール3章2話火桜夜は嫌われ者である。
貝森第二高校は能力者を集められた学校であるが、能力者ではない魔法使いも数多くいるのである。そんな魔法使いや魔導士たちの中で強い魔力を持つものでも、夜の体質である驚異的な魔法抵抗力に敵わないからである。相手にすると魔法で勝つことはほぼできないため、このチーム決めの期間は成績を上げるためや相手したくないためにチームに夜を誘うものもかなり多いのだ。そしてその情報を知ってるのはだいたい前の年からいる2年生以上である。
夜は呆れていた。戦うことが好きな彼であるが、ラクして成績をあげたいという魂胆が見えている生徒多いからである。3年生にもなると、まともに成績をあげたい生徒ならチームワークのいい仲良しメンバーで組むことがほとんどで、話しかけられることも少ない夜が、こういうときだけ話しかける生徒が気に入らなかった。しかし、戦うなら誰かしらと組む必要がある。何を基準にメンバーを決めるべきか、夜は悩んでいたところだが、夜の周りに人だかりができている教室の扉が思いっきり開き、その乱暴な音にその場にいたほぼ全員が扉のほうを振り向く。そして拡声器を使ったバカみたいに大きな声が廊下まで響いた。
「はあああああい!!みなさーん!!!俺に注目!!!!」
唖然とする生徒たち、そのうちの一人が夜である、さらに中には耳をふさぐ生徒もいた。しかし、目をそらしている生徒が少ないことから優越感を覚えたクランは調子に乗り、話をつづけた。
「今ぁ!もぉっとも輝いているこの俺!!!俺がもっと輝けるステージを用意するためにぃ!今回は学校で特に目立っているぅぅぅぉおぉおぉおお!火桜夜先輩とぉ!この俺が組んで!この学校でさいきょおおおおおのぁあ!?」
クラン目掛けて教室にある机が飛んでいき、クランの頭に直撃、倒れて行くところまでしっかり注目を集めていた。
「すいません、バカがお騒がせしました。」
クランの近くには2人の女の子が立っていた。2人は水色の髪に黄色い目、同じ服を着ており、桃色のパーカーに黄色いスカートをはいている。背の高いほうがクランの呼吸を確認しに近くによるとクランは意識を朦朧とさせていた。背の低いほうはパーカーのフードをかぶっており、髪にはヘアピンをつけているが、パーカーのファスナーは下のほうだけ閉めて、袖は通さずパーカーの中で腕組んでいるという変わった着こなしをしている。そんな背の低い子、内藤 雨(ないとうあめ)は話を続ける
「さっきのは忘れてください。こいつただ目立ちたいだけなんで、あたしたちが面倒見ます。」
話を終えると、雨と雨の頭一個分身長が高い女の子、雨と違い髪は長くサイドテールにしている、雨の双子の妹である内藤 零子(ないとうれいこ)は2人でうめき声をあげるクランを運び、その場を後にする。少しその場にざわめきが起きたとこで再びその場の生徒たちは夜に話しかけようとするが、夜は用を足してくると言い、その場から立ち去ったという。
一方そのころ、加々良誉は2年生の教室付近にいた。軽くひじを曲げてポケットに手を突っ込んでいるその右腕には誉とよく似た髪と目の色、ゴシック調の服に頭には蛇の形のリングをつけている長い髪の女の子が抱きしめるようにくっついていた。この子はクランと凛太郎の同級生である2年生の加々良 鶴花(かがらつるか)、誉の妹であり、前の年は誉とだけ組んだが、チームワークはいいもののほぼ戦えないため、実質誉のワンマン勝負となる。誉はそれでも一向にかまわないらしく、今年も二人でチームを組もうとしたところ、ぎこちなく凛太郎が誉に話しかけに行った。誉は凛太郎を睨みつけた。凛太郎は震えて誉にチームに入れてほしいと頼むが、見たところ貧弱そうな凛太郎の体は力があったところで魔法のほうが得意だと判断した誉はさらに睨みつけ、役立たずは必要ないといい、チーム介入を断るが、鶴花は誉にあんまりきつく言わないようにと言う。
「お兄様、あんまり厳しく言うのは失礼ですよ。」
「俺たちは俺たちなりの戦い方があるだろ?変に成績のために入りたいって奴は足引っ張って成績奪ってくるんだよ。」
「偏見もよくないです!この人は他にチームに入れてもらえなくて、行事に参加できなくて困っているかもしれないんですよ。」
「友達いねえのか?哀れな奴だな。」
「お兄様には言われたくないですよ。」
「俺は、別の学校に年上の親友がいるし、何より…」
「あー、しつこいですね~。チームが二人なのも寂しいですから入れてあげましょうよ。」
鶴花の情けにより、凛太朗は誉のチームに入ることになった。しかし、誉は納得いかないのか、足引っ張るなといい凛太郎を睨みつける、誉の近くにはいつの間にか大きな深緑色の蛇が鋭い黄色い目を凛太郎に向けていた。凛太郎は腰を抜かし、蛇を見た。鶴花がその様子を見て、凛太朗に話しかける。
「あら、安心して、お兄様がちょっとご挨拶に召喚しただけだから。」
「ひぃ、すごく睨んでるんだけど…」
「敵じゃないよ~。そんなに見ないであげて~。」
「ロイ、一応そいつは味方につけるけど、余計なことをしようものなら噛みついても構わん。」
「か、噛みつく!?あ、あのぉ…毒とかありますよね?これ。」
「これ?」
「ああああああす、すいませんその蛇ですぅぅ…」
「凛太郎くん大丈夫よ、”毒はないから”ね?」
凛太郎は相変わらず動揺していながら、これからチームとしてよろしくお願いしますと一礼した。鶴花の情けがなかったり、誉の気を悪くさせたりしたら、一撃で葬られそうな気がして全く安心できなかった。
双子に運ばれたクランは雨に水道の水を顔面にかけられはっきり目を覚ました。クランと双子は幼馴染であり、昔から仲がいいのだが、クランはこの高校に2人が入学したことを知らず、いることに大層驚いた。
「おう、雨と零子じゃないか!お前たちも貝森に来てたのか!」
「2人とも来てやったぞ。クランの子と探してたらあんな大きな声出しててこっちもびっくりしたわ。」
「へへっ、なんたって今年はこの学校で有名な夜先輩と一緒に組もうと思ってさ!」
「いや、知らねぇよ。」
クランの言うことに塩対応な雨、実にいつもの事である。雨がクランを探していたのも仲がいいし、学校行事の事も聞こうとしたからで、ついでに一緒に組もうと思っていたからである。しかし、クランはどうしても夜と組みたいし、雨の気持ちも察することができないため、クランは雨に対し、他にチーム系とは決まったのかいと質問した瞬間、水道掃除用に置いてあるスポンジが入っている容器ごとクランの頭目掛けて飛んでいき、クリーンヒット。
「クランのバカ!なんであたしがクランのこと探してたと思ってんの!」
雨の口癖であるクランに対しての一言と、雨の能力である念力が発動する。先ほどの机もそうだったが、雨は念力で魔力や腕力を使わずに周りにある者を浮かせたり動かしたりして攻撃する。それは主にクランが暴走したときに止めるときに使われる。しかも大体頭に当てるのだ。念力に頼ってなんでも動かすので基本的に腕組みのポーズは変えないらしい。
「あ―!わかった、入学したてで友達いないからおすすめのチームメイト聞こうと思ったんだね!」
「クランのバカ!いつもそうだけど、そういうところがバカなんだよぉ!」
「まぁまぁ雨ちゃん、クランくんにはちゃんと言わないと、私たちはクランくんとチーム組もうと思って探してたんだよ?」
「え?そうなの?」
「そーだよ!」
「そうならちゃんと言ってくれよ~。それにチームは4人まで組めるし、あと一人は夜先輩にしようぜ!」
「いや、だから誰だよ!」
「え、知らない?夜先輩。」
クランはキョトンとした顔で雨を見る、雨はすでにカンカンに怒っている。実にいつもの光景である。零子はクランに対して、夜について聞こうとしたが、チャイムが鳴った。次の授業に備えて、双子はクランにまた明日と言い残し、走り去った。クランも教室に向かおうとしたところ、自分の教室に戻ろうとした夜とすれ違う。
「あっ。」
「お前、放課後に体育館裏にこい。」
「え?」
夜はそれだけクランに言い残し、去って行った。クランは呆然としたため、授業に遅れたが変に目立ってまんざらでもなかったのは言うまでもない。
つづく…