フォーチュンドール3章5話クランは帽子を脱ぎ捨てて部屋でのんびりしていた。季節は2月、寒さもだいぶ和らいできたが、たまにまだ寒い日もある。クランはマグカップにココアを注ぎ、リビングにあるソファに腰かけた。
ふと、学校行事が終わった後にチームメンバーでハロウィンパーティをしたことを思い出す。コスプレはしなかったもののかぼちゃを切り抜いてランタンを作ったり、女の子は夜のもう一人の姉さんと一緒に料理を作ったりしたのだが、夜のお姉さんはたくさん料理を作る人だからとんでもなく量が多くて、食べきれなくて持ち帰ったのだ。そういえばクリスマスはやらなかったのと思ったクランであるが、雨が上手く誘えるわけがなく、夜も家族で過ごしたためである。
クランが何気なしにテレビをつけてみると、世界各地で異変が起きているというニュースが大々的に流れていた。チャンネルを変えてみてもそのニュースで持ちきりであり、強いて言うなら一局だけ国内ニュースで、街中のごく一部に急に低気圧が発達し突風が吹き荒れたり、どこかの学校で突然バックドラフトが起きたような爆発がしたりなどのニュースがあるくらいである。
「あー、親父の出身の英国もなんかやばいことになってんな。」
クランは父親が英国人魔導士で母親が日本人の一般人のハーフであるが日本でしか暮らしたことがなく、英国も年に一度行くか行かないかくらいで、あまり興味はないようだ。クランがココアを飲み干したころ、クランの携帯から着信音がする。相手は夜から、どうやら双子にも同じ内容のメールを送っているらしい。
「ニュースは見たか?世界的に能力者や魔法使いが注目され、おそらく魔女狩りが動く。俺が昔、加入していた組織こそが魔女狩りだ。もし、貝森第二高校の事が世の中に知らしめられたら、真っ先に魔女狩りが襲撃してくるだろう。だから明日以降、学校に来るのは危険性があると言っておく。俺は明日そのことを学校中に広めるために行くぞ」
クランは少し笑った。夜と協力すれば、学校中のヒーローになれるだろうと。そして目立ってみんなにちやほやされる。想像がひたすら膨らんでいるクラン。そのころ双子もあのクランの事だから行きそうだし、自分たちだけ休むのも不自然かもしれないと行く方針を固めていた。
次の日、学校に皆来ていることに夜は驚いた。強制的に来ないように言ったわけではないがまさか全員来るとは。
「夜先輩、俺も手伝って魔女狩りの事学校中に広めます!」
「っていうと思ってあたしは来た。」
「なるほど、気持ちはありがたいが、ここで魔女狩りの仲間だとお前たちが勘違いされるのが一番困るから、ここは俺に任せてくれ。とりあえず職員室に行ってくる。」
「あ、まって夜先輩!」
「おーい、もしもの時にあたしたちが疑われたら困るっていただろ。ここはおとなしく知らないふりしてればいいんだよ。それに魔女狩りたって大した戦力もないだろ?」
「それは分からないよ。先輩みたいな戦士がたくさんいるかもしれないわよ?」
何もできないもどかしさに唇をかむクラン、そこに凛太郎が現れたのである。凛太郎はクランに昨日のニュースについて話そうとするが雨にだれでも見るだろと言われて止められる。凛太郎はまたいつもの癖で舌をぺろりと出す。零子が外から物音が聞こえてきたので能力である五感のいずれかを一時的に超強化し、視覚を上げ、外を見ると大雨が降っているのにも関わらず人だかりができていた。
「なに…あれ…」
「あ?どうした零子?」
「もしかしてあれが魔女狩りか?よっしゃ、先陣きって倒しに行くぞ!」
「あ、僕も行くよ。」
クランが外に向かって走っていく後ろを凛太郎と双子が追いかける形になる。外に出ると、魔女狩りの何人かがこちらに気付き、武器を取り出したと思えばこちらのほうに一斉に走ってきた。雨が自転車置き場の金具を念力で投げ飛ばし、襲ってきた魔女狩りを一気に半分ほど倒すと、クランや零子も負けじと攻撃を仕掛ける。しかし、その瞬間…。
ペロリッ!
凛太郎はかつて、天才魔導士と呼ばれていた。
背は低く、左目の色が変わる特性がありながら、年の割に魔力は高く実に狡猾であった彼はその才能に酔いしれ、その肩書に見合うような自分を作り上げようとしていた。そんなある日、魔女の存在を知った凛太郎はその場所を調べ上げ、一人こっそり魔女の住む家に侵入、魔女の扱う魔導書を盗み、その力を手に入れようと中を読んだ。しかし、その内容こそが「マナイーター」の能力であり、凛太郎はその力に乗っ取られ、高い魔力の大半を失い、ほぼ常に魔力を欲する空腹感に見舞われるようになってしまったのだ。マナイーターの事を周りの人に言い出せず、取り除き方もわからない凛太郎はいままで自分を天才だと称してきた仲間や大人たちから失望され、また、マナイーターの能力により、マナコアを失う魔導士たちが増えたことから凛太郎は危険視され、魔導士の集落から追放されてしまった。そんな凛太郎は魔女狩りに所属し、狙われた魔法使いたちのマナコアを横取りしてを食べるようになるが、空腹を満たされず、高校生となり、貝森第二高校に入学した凛太郎はいままでの空腹を満たすように魔法の使える生徒たちから少しずつ魔力を食べるようになった。そして凛太郎はクランと出会う。クランは神聖魔法の使い手、魔法にもいくつか種類はあるが神聖魔法は特別扱いなこともたまにあるのだ。それは魔力をきれいにする効果があると言われており、きれいな魔力は上質で普通の魔法よりもかなり攻撃力や効果が出やすくなるというのだ。そんな上質な魔力はマナイーターにとっても格別なもので、凛太郎がクランに近くにいたいと思うのも、クランからあふれる神聖魔法の魔力を少しずつ食べていたためであり、今回の世界規模のニュースから、魔女狩りの動向や学校の事を考えるとクランと別れる可能性があると思い、この際、クランのマナコアを食らいつくしたのである。
クランは魔力が出せないどころか一気に力が抜ける。雨が何事かと振り向くと、凛太郎は左目を黄色く輝かせ、魔女狩りの集団のいない方向に逃げていく。咄嗟に雨は凛太郎を追いかけ、零子はその場にいる魔女狩りを一人で倒していく、零子は投剣に雷魔法を付与して戦うため大雨状態で戦いやすかったようである。クランはひとまず足手まといにならないように光学迷彩で身を隠し、一旦その場から距離を置いた。後ろの方から足音がする、他の生徒が魔女狩りに気付いて増援が来たかと思いクランは後ろをふりむくと、そこには夜の姿があったが、誉の姿もあったのだ。
つづく