屋台通りにて「なあ、夕霧。20文ほど貸してくんね?」
清太が懐に手をやり、入れている銭貨の感触が心もとないと判断した直後のこの台詞。
「お前この前もそう言って俺から20文借りたよな?」
と、声の平坦さ。続く言葉は「まずは借りてるものを返してからだろ」と正論を投げつけて、夕霧は清太の隣を早足で抜けた。
人波があるここは屋台通り。晴天の下で天ぷらや寿司を楽しむ町民の活気につられてつい財布の紐を緩めたくなる気持ちは夕霧とて理解出来ないわけではない。だが前述のとおり借りたものは先に返してもらわねば。
「いやまあそれはそうなんだけどさあ」
媚びた声音で夕霧の両肩に手を置く清太に、夕霧は疲れを隠さない溜息を一つつき、何も聞かなかったかのように帰路を目指そうとするのだが。
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