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    オルト

    どうしようもないものを投下

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    オルト

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    22世紀蕎麦屋のタイカケ

    「あと、二時間……」
     タイガは自室で一人、じっと時計を睨みつけていた。
    『四月になったら、ね』
     高校一年生のタイガが、カケルに真剣な交際を申し込んだときの話だ。カケルはタイガの気持ちを受け止め、自分の気持ちもタイガに伝えた。が、『お付き合いを始めるのは、高校を卒業したら』と言われてしまった。
     高校の卒業式の日、卒業証書を持ってカケルの家に駆け付けて交際を迫ったら『三月三十一日までは高校生だよ。先生にも言われたでしょ』と言われて、その日も交際には至らず、結局卒業祝いと称してごちそうになっただけだった。
    「もうすぐ、あと少し」
     幼いころから、ずっとずっと憧れていたカケルとの交際。それが目の前に迫ってきてタイガは落ち着かず、ぐるぐると部屋の中を動き回る。
    「あ~くそ~! 一分が長ぇ!」
     普段であれば、一瞬で過ぎていく時間も今はとてつもなく長い時間に感じる。早く、日付変わってくれ。そう思う反面、何年も待ち望んでいたものがいざ目の前に来ると、不安がじわじわと沸き始める。
     本当に、カケルは自分を好きで彼氏にしてくれるのか。いざ付き合ったら、やっぱり子供にしか見てもらえなくてフラれてしまわないか。
    「……俺、ちゃんとカケルの彼氏になれんのかな」
     思えばずっと、カケルには子ども扱いされていた気がする。六つも歳が離れているのだから仕方ないとは思うものの、それを脱する程自分が大人になれたとは思えない。
    「お、大人らしさ……」
     タイガはクローゼットを開け、買ってもらったばかりのスーツを手にした。高校の卒業祝いに両親から貰ったそれは、今タイガが持っている服で一番大人っぽい服である。
    「よっし!」
     タイガは着ていたパジャマを脱ぎ捨て、スーツに着替えるとスマホを手に取った。日付が変わるまであと十五分。カケルの家までは走って十分。明日早朝の仕込みの為に床についている家族を起こさないようにいこっそりと家を抜け出した。

     カケルの家の前に立つ。呼吸を整えて、道路からじっとカケルの部屋の窓を見る。まだ灯りは着いているから、起きている筈だ。タイガはネクタイを締めなおし、時刻を確認する。あと三分。花束でも持ってくればよかったと思っていたその時、カケルの部屋の電気が消えた。
    「あっ」
     寝てしまったのか。日付が変わった瞬間にカケルの部屋を訪れて、改めての交際を申し込もうとしたのに、明日の朝まで数時間持ち越しになってしまうのか。タイガはがっくりと項垂れた。あと数分と思っていた瞬間が数時間後になってしまった。子供の頃から十年以上待っていたことに比べたら大した時間ではないが、今のタイガにしてみれば膨大な時間に感じた。
    「はぁ……」
     カケルの部屋に背を向けて歩き始めたその時、
    「えっ、タイガ……くん?」
    「え?」
     聞きなれた声にタイガが振り返ると、そこにはカケルが立っていた。
    「おめぇ、こんな時間にどうしたんだよ?」
    「それはこっちのセリフ! だめでしょ、こんな時間に外に出たら」
    「俺、もう高校卒業したし、問題ないだろ」
    「そ、そうなんだけど……」
     カケルは少し困った顔をして言った。
    「ていうか、どうしたの、その恰好」
    「あ、えっと、これは」
     つい数秒前までは交際の申し込みをする気満々だったというのに、いざその時が目の前に来ると緊張して言葉が出ない。幼いころから「大人になったら」「高校を卒業したら」と言われ続けてきた。そう言われるとわかっていて、何度も交際を申し込んできた。ちらりと腕時計に目をやると、もう日付は変わっていた。つまり、今までのセリフで断られることはない。
    「カケル、俺、高校卒業した」
    「……うん」
    「だから、もう言わせないぞ。『高校卒業したら』って」
    「うん。言わないよ」
    「……カケル、好きだ。俺と、付き合って欲しい」
     いい慣れたセリフなのに声が震えて、タイガは自分が思っているよりも緊張していることに気付いた。カケルの唇の動きが、スローモーションで見える。自分の心音がうるさくて、耳を塞ぎたくなる。
    「はい。よろしくお願いします」
     カケルは笑顔で答えた。その答えを聞いた瞬間、タイガはカケルを抱きしめた。
    「これでやっと、カケルにキス出来る」
    「えっ!」
     タイガがカケルにキスをしようと、頬に手を添えたその瞬間、カケルが自信とタイガの間に手を入れて、口元をガードした。
    「ま、ま、ま、待って! 心の準備が……」
    「ヤダ。待てない」
    「う、で、でも……」
    「……」
     無言で数秒見つめ合う。
    「……わ! た、タイガくん!」
     急にカケルが大きな声を上げた。
    「なんだよ。やっぱなしとか、言わせねぇからな?」
    「ちがっ、鼻血出てる!」
    「……? あ!」
     カケルに指摘されて鼻の下を触る。その指を確かめて、タイガも声を上げた。それと同時に全身が熱くなるのを感じて、タイガはその場にへたり込んだ。
    「大丈夫?」
    「……くそ、かっこわりぃ」
    「き、キスはまた明日にしよ? ね?」
    「……わかった」
     タイガはがっくりと項垂れて頷いた。
    「家まで送るよ」
    「いいよ。自分で帰れる」
    「ううん。遅らせて。ていうか、僕、タイガくんに会いに行くつもりで家を出たところだったし」
    「え!?」
     タイガが顔を上げると、そこには真っ赤になったカケルの顔があった。
    「だって、日付変わったらやっとタイガくんと恋人になれるんだもん。一秒でも早くタイガくんの恋人になりたくて、会いに行こうと思ってたんだ」
     同じことを考えていた。それがたまらなく嬉しくて、タイガはカケルを抱きしめた。鼻血がついちゃうよ~、と声を上げながらカケルはタイガを抱きしめ返した。

     その晩も今までと変わらず、ただ並んで眠るだけだったけれど、確実に何かが変わったことを感じながら二人は夢の世界へ旅立った。
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