「カケル、これ……」
気配なく突然現れたタイガに驚いて、俺は一瞬息を止めた。声のした方を向いてタイガの姿を確認してから、ふぅと息を吐いて呼吸を元に戻す。盗賊として生きてきた彼は、どうにも気配を消す癖がついているらしい。
「どうしたの、タイガくん」
「これ、字……読めるか?」
そう言ってタイガは一冊の本を俺の方に差し出した。分厚い本だ。手に取って開いてみると、可愛らしい挿絵が目に飛び込んできた。本の厚さから学術書の類かと思ったが、表紙や本文の紙が厚いだけで、ページ数はさほどなかった。
「読めるけど……」
「内容、難しい?」
「ううん。簡単だよ」
「じゃあ、それ使って俺に、文字教えて欲しい」
「え!」
真剣な表情だ。物心ついたころから盗賊をしているタイガは、字の読み書きが満足に出来ない。換金表とか、お金の単位とか、盗賊として必要な文字だけは理解しているようだけど、他の文字は全然ダメらしい。以前から俺は盗賊から足を洗おうとしているタイガに、生きていく為に必要だからと文字を教えようとしてきたけど、全然興味を示さなかったタイガが自分から……! なんだか感動して本を手にしたまま思わずタイガを抱きしめた。
「うわぁ! な、なんだよ!」
「いやぁ~、急にタイガくんがやる気出してくれたから嬉しくって! ペンと書くものも上げるからね」
「う、うん」
頭を撫でてみると、いつもは俺の手を祓うタイガは大人しく撫でられる。ホント、どうしちゃったの?
「目標出来たから、頑張る」
「おぉ、さてはカヅキさん関係?」
「……ちげーよ。けど、本気だから、頼む」
俺の茶化しも受け流し、タイガは真剣な表情で俺を見る。これは、本当に本気だ。何がタイガを本気にさせたのかわからないし、気になるけど、あまりつっこんで聞いてやる気をなくされては大変だ。何も聞かずに、教えてあげよう。
「ところでこの本、どうしたの?」
「魔法使い……ユウにもらった。なんか、文字を描けるようになりたい話をしたら、これを教材にしろって」
「ふぅん」
いったいどんなお話しだろう?
ペラペラ本を捲り確認してみる。動物が沢山出てくるとっても可愛らしい話だ。虎の子が狐の子と仲良くなりたくてお手紙を書いたり、喧嘩し仲直りのお手紙を書く話。虎の子は、どこかタイガに似ていて可愛らしい。最後まで内容を確認しようかと思ったけど、タイガと一緒に読みながら楽しむことにして俺は本を閉じた。