早朝、まだ寮生は誰も起きていないであろう時間帯に起きるのは、俺の習慣。簡単な仕事と勉強をこの時間にすると、一日頭が冴えて良い。普段は一人静かに過ごす時間なんだけど、今日は早朝からお客さんがなだれ込んできた。
「カケル、かけるぅ……」
「あぁ、もう、どうしたのタイガきゅん……」
タイガがグズグズ鼻を鳴らしながら、俺にしがみついてきた。尻尾を出して俺の脚に絡めてくる。雁字搦めしてどうするつもり?
「う~っ」
唸り声をあげ、爪を立てる。ヤバイ。このままじゃ虎のタイガに押しつぶされちゃう。
「タイガきゅん、落ち着いて。ね、どうしたの?」
そっとタイガの身体を撫でながら言うと、タイガはふーっふーっと深く呼吸した。それでも、尻尾や腕に入る力は緩まない。二人でドアの前に突っ立ったまま、時間は過ぎていく。
「怖い夢でも見たの?」
「……」
タイガは黙ったまま頷いた。
「あらら、どんな夢? りんごのお化けにでも襲われた? それとも留年しちゃう夢?」
「ばか、ちがう。そんなんじゃねぇ。そんなの、怖くねぇもん」
子供みたいな言い方で反論する。ちょっとかわいい。
「じゃあ、どんな夢?」
「カケルが……ただの人間で、それだけで最悪なのに」
あ、そこそんなに嫌なんだ。
「仕事とか言って、凄く遠い外国に黙って行っちまう夢。俺も、みんなも何も聞いてなくて、ニュースで知って、それで、なんで俺にも言わないで言っちまったのかわかんねぇし、それで、それで……」
さらに、タイガが俺にしがみつく力が強くなる。俺が遠くに行っちゃう夢が、そんなに怖かったの? そんなに、俺と離れたくないの? タイガには悪いけど、正直ちょっと嬉しいかも……。
「ねぇ、タイガ。俺は、勝手にどこか消えたりしないから、心配しないで。約束する。だから、悪い夢なんて忘れよ?」
「……ホントにホントか?」
「うん。ホントにホント」
俺が言い聞かせるようにそう言うと、タイガの力は漸く緩んだ。その隙に俺は身体の向きを変えて、タイガを抱きしめる。
「絶対黙っていなくならない。約束する。もし、遠くまで行かなきゃいけない時は必ずタイガに言うし、連れて行ける時は連れて行ってあげるし、それが叶わないなら契約の魔法でも何でもかけて良いから」
「わかった。絶対守れよ。俺、ちゃんと契約の魔法、勉強するから」
「うん!」
わお! 想定外にタイガのお勉強のやる気を出させることに成功したみたい。
これは、しっかり面倒見てあげないとなぁ。
頭の中に、さまざまな種類の契約魔法を思い浮かべる。でも、契約の魔法なんかより、もっと別のイイコトがあるのを知っている。
それは契約と呼ぶのは少しためらわれるもので、まだ、俺たちには早いかもしれない。タイガはその関係を嫌がらないかな?
恋人同士、っていう関係なんだけど……、教えてあげたらどんな反応するのかな?