Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    siiiiiiiiro

    どのアカウントのものも載せます
    @_null_jamming
    @kool_siro

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    siiiiiiiiro

    ☆quiet follow

    腐男子デュのエスデュ

    #エスデュ
    Ace Trappola/Deuce Spade

    消えちゃいたい!①人は誰しも、秘密があるものだ。友達からよく馬鹿正直だの、隠し事が出来ないだのと揶揄われるデュースにだって、誰にも言えない秘密がある。
    そしてそれは、ナイトレイヴンカレッジに入学したデュースにとって自分を苦しめる唯一で最高の、地獄の原因だった。


    デュースは、所謂「腐男子」だ。いや、だった。ここで過去形なことがポイントだ。
    中学の頃仲良くしていた不良の仲間たちは、素行こそ悪けれど誰もが悪い人間ではなかった。デュースはその仲間とよく漫画や雑誌の貸し借りをしていたし、喧嘩をすることと仲間とあの漫画が良かったなどと語り合うことは同じぐらい好きだった。
    そんなことにも慣れてきた頃に、一人の友人からおすすめされた本が、ボーイズラブ、略してBLだ。最初こそ男と男の恋愛なんて想像も出来ないなんて話していた仲間たちも、一瞬で心を奪われた。それぐらいオススメされた本は面白かったし、何より男同士の葛藤はギュッと胸が
    痛くなって、病みつきになる。それに感情移入できてしまうのもハマった原因だったのかもしれない。
    かくして、デュースと仲間の一部はそのまま腐男子になった。だが紆余曲折あり不良としての道を断ったデュースは、ナイトレイブンの入学をきっかけに腐男子であることもやめた。男がBLを好きだというのは世間一般的にもごく少数で、更に入学先は男子校。語りあえる仲間もいなければ、自身も同性愛者だと勘違いされて嫌煙されてしまうかもしれない。優等生として勉学に励むことを決めていたデュースは、絶対に腐男子の自分は封印し消し去るのだと、覚悟を持っていた。
    いや、持っていたつもり、だった。デュースはまだ入学時分かっていなかったのだ。一度腐ってしまったものは、もう戻らないことを。


    「ケイト、準備は?」
    「完璧だよトレイくん。ケーキ待ち♪」
    上級生の会話を耳をそばだてて聞きつつ、デュースはシルバーを磨く。手に持ったフォークが既にピカピカなことに、暫くして気付いた。それぐらい二人の会話に夢中だった。
    トレイは屈強な見た目だが、優しくてお菓子作りが得意。ケイトはお調子者そうで実は周りがよく見えている。二人は同級生で、とっても仲良しだ。
    「(やっぱ二人は付き合ってるよな。だってじゃなきゃ同級生にあんな近づいて話すか?)」
    もう慣れてきたなんでもない日のパーティは、寮生全体で準備を行う。どちらかと言うと力仕事の方が得意なデュースがスイーツ作りの手伝いにキッチンへ入りたがるのは、誰にも言えないがこの光景を見るためだ。
    デュースは腐男子をやめた、つもりだった。だが入学してみるとこの学校は、言わば右を見ても左を見ても華だった。顔のいい男、男子校ならではの距離感、寮生活。そんなものを前にして、デュースはやめたはずの腐ったオタク心を捨てきることなんて出来なかった。その結果、こうして頭の中でイケナイ妄想をしては自身の興奮に変えることを止められずにいる。
    「やあトレイ、準備はどうだい」
    「リドル」
    「(寮長!!!)」
    思わず出そうになった声を、両手で抑えこむ。準備をしている学生は沢山いるし、ここはひっそりと頭だけ下げて挨拶をした。今この場に、なるべく自分の存在を消したかったからだ。
    リドルは小柄な身体と愛らしい見た目、そして厳格な心と確かな実力がある。そして何より、トレイと幼馴染だという。これが妄想しないでいてくれというのも難しい話だ。
    幼馴染としての信頼が恋愛に代わり、これまでの関係から変わることを恐れる受け……いつだったかに読んだ商業でもそんな話があった。染み染み妄想に浸っていると、キッチンにケイトの楽しげな声が響く。
    「リドルくん、ほらこのクリーム美味しいよ」
    「むっ」
    まだケーキへ飾られていない、ボールに入ったクリームを小さいスプーンに掬ったケイトがそのままリドルの口へと突っ込む。なるべく目線は向けないようにと注意していたデュースも、リドルのくぐもった声に思わず凝視してしまった。
    ――リドルとケイト。二人でいるところも、実はよく見るのだ。堅物なリドルは息の抜き方が下手で、ケイトは人の機敏に敏感だ。リドルのガス抜きをしているのは、どちらかというと優しすぎて強く言えないトレイよりもケイトの方だろうな、とデュースは名探偵にでもなったかのようにほくそ笑む。
    「こら、寮長様には完成したものをお出ししないとだろ? ケイト」
    「あはは、だってリドルくんが物欲しそうに見てるからさあ」
    「み、見ていない! まったく、僕は準備がちゃんと進んでいるか見に来ただけなのだからね」
    ――嗚呼、選べない。ここにはダイヤの原石のような、キラキラの関係が詰まっている。腐男子冥利につきるとはこのことで、いくらあっても地元の友だちへの土産話がつきないのが、デュースの最近の悩みだ。
    だが、笑いあう三人を見てそのキラキラの妄想を振り払うように頭を横に振る。こんなことを尊敬する先輩たちに抱いてしまうのも本当はやめたいのにやめられなくて、心労は増えていくばかりだ。
    はあ、とため息をついて目線を手元に落とす。心労はこれだけではないのに、と別の男が頭に浮かんだところで、運がいいのか悪いのかその声がデュースへと掛けられた。
    「おい、いつまで食器磨いてんだよドンくさデュースくん」
    「うわッ!」
    ドン、と軽く肩で小突かれてよろける。反射で睨むと、まるで怒りが届かないようにその正体はケロリと笑っていた。
    エース・トラッポラ。デュースと何かと縁深いクラスメイトだ。それ以上でもそれ以下でもないが、寮もクラスも一緒となると一緒に行動することも多くなる。文句をいいつつデュースや監督生と一緒にいるあたり、エースも居心地が悪いわけではないのだろう。デュースも、同じだ。
    ただ、この男には困っていることがある。むしろ、デュースの悩みの、一番の原因と言ってもいい。
    「もう全部終わってんじゃん」
    「ち、近くないか?」
    「別に普通じゃね?」
    ふいに磨いていたシルバーを覗かれて、顔の距離が近くなる。拳一つ分ぐらいの距離は、エースにとっては割とよくある距離だった。
    この男、やけにスキンシップが多い。しかも、距離だって近めだ。ここまで人懐こい友達がいたことのないデュースにとって、エースの気安さは毒になりがちだ。それに、悔しいけれど顔はイケメンだし。オタクはイケメンに弱いのだ、例えデュースが同性愛者でなくたって。
    「ほら、持ってくの手伝うし、会場行こうぜ」
    磨いていたシルバーをトレーに乗せ、さっさとエースはキッチンを後にする。こうやって、普段は人をからかいがちなのにふとした優しさを見せるのが、またよく同人誌で見たカッコいいキャラクターと重なって憎たらしい。だってあのエースなのに。
    ――もしかして、エースもこの学校に好きな人ぐらい、いるのかもしれない。交遊関係はデュースよりも広いし、年上相手に物怖じしない姿勢は先輩からも可愛がられるだろう。いや、やっぱり同級生の方が、さっきみたいに優しくされてコロッとやられてる可能性は高いかもしれない。
    「(……なんか、あんまり楽しくないな)」
    残りのシルバーをトレーに乗せながら、デュースは思考を止めた。あんなにキラキラしていたはずの心はいつの間にかどんより曇っている。それどころか、胸の奥がチクチク痛いような気もした。
    ――その正体が分からないまま、デュースはリドルに急かされるように慌ててキッチンを後にした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖❤❤💕🍼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    siiiiiiiiro

    MENU2023/5/3「SUPERbrilliantdays2023」にて発行予定の新刊サンプルです。

    【スペース】東6り17a // milmel
    【サイズ/P数/価格】B6/表紙込54P/500円

    「幸せだけがハッピーエンドではない」をテーマにした、パロディのひめ巽3篇を収録しています。
    そのうち1篇はこちら⇒https://t.co/T6r2Wbq84D
    Silence CurtainCall①bite at neck (通常HiMERU×リカオン巽)


    この世には、自分によく似た人間が最低三人いるという。
    ドッペルゲンガーとも言われるそれに出会ってしまうと、寿命が縮むだの大病に罹るだの、様々な不幸が降りかかるらしい。安っぽいバラエティで声ばかり大きい芸能人が話していたことを、妙に覚えている。
    ――じゃあ、自分の大嫌いな人間にそっくりなやつに出会った時は、何の不幸と言えるのだろうか。




    「~っああもう! どうして言うことが聞けないのですか! 巽……!」

    フローリングを駆け回る足音がリビングに響く。自分のものではない軽いそれは、ろくに物を置いていないマンションの一室を縦横無尽に駆けていた。
    現在進行形で住んでいる寮とは別に借りていたここを、契約し続けていてよかったと思う日がこんなに早く来るとは想像も出来なかった。病院にも近く、仕事にも行きやすい立地で選んだだけで、決して今手を焼いている男の為ではないけれど。
    9845

    related works

    recommended works