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    heshi_penguin

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    heshi_penguin

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    最近やっと書き始めたゲンドウ編2話の前半です。なかなか書き終わらないので、モチベーションを上げるために一度上げることにします。コンプライアンスチェックが不十分なので、気になった点があったら是非教えてください。同人的な注意事項としてはユイゲンと冬ゲンがめちゃくちゃ好きな工場で産生しているという一点です。

    「それでは、今月の教授会を始めます、初めにー……」
    今日の教授会も、学部生の間で起きていることと学生と院生の復学状況の話で終わるのだろうと高をくくっていた、前回もそうだったからだ。しかしその見通しが甘かったことを冬月は知ることになる。
    「先のゴールデンウィークなんですが、学部生がちょっと……東北行って具合悪うなったのが何人かおるんです」
    聞けば、岩手まで出稼ぎのバイトに出た学部生の一団が(名前こそ出なかったが皆なんとなく見当はついていた)、どうやら恐ろしい目に遭ってしまい、今授業に参加するのが難しいとのことだ。
    「東北にそんなに割のええバイトなんてあるんですかねぇ、最低賃金この辺よりだいぶ低いでしょう、大阪とかのほうがましなんとちゃいますか」
    「大阪はほら、治安悪いから」
    下卑た笑いが起きた。冬月は、大阪の箕面で育った院生のゲンドウを思い出してなんとなく気分が悪くなった。
    「…大阪が全部治安が悪いというわけではないでしょう、治安が悪いところがあるというだけで」
    たまらず冬月は反論してしまった。
    「あれ、先生大阪のご出身でしたっけ」
    「いえ、私は静岡ですが、うちの学生で大阪育ちの者がいるので……」
    「ああ、あの定時制高校から来た子ですか、よく院まで残ってくれましたね」
    「よく覚えてますね」
    「学生の頃は授業中寝とるくせに質問するときは授業後にけんか腰で質問してきてましたからね、印象的ですよ」
    「そんなことがあったんですか……」
    「話を戻しますけど、警察は動いとるんですか?」
    「それがですねぇ、被害生徒の親御さんから、警察には言わんよう頼まれまして」
    「ウチの子には将来があるんやぞいうことですか、ずいぶんと甘やかされてはりますなぁ。
     大学で調査せえいうことですか、それか“本職”に頼むか」
    「大学が“本職”に直で頼んだらさすがにまずいんとちゃいますか。
     あそこも後継ぎおらんくて、もうみんな60越えてはりますでしょう、大学やったら次の教授選の話出てきますよ」
    本職、というのは、いわゆる「陰陽師」のことである。明治以降禁止されてきた陰陽道は、戦後安倍家の縁戚の者により復興され、現在は福井県に本部を置いていた。現在の業務は専ら暦作り、いわゆる「占い」に近いものと表向きにはなっているが、広義の「占い」、つまり困りごとの霊的アドバイスも請け負っているのが現状だ。もっとも、今の「陰陽師」たちは兼業で行なっている者が多く、なかなか依頼を受ける時間もないというのが正直なところだそうだが。
    ただ、彼らが得意とする占術の中には、「呪符による呪い返し」「神降ろし」といった物騒なものも少なくないため、国立大学のような公的な機関からは頼みにくいところが大いにあった。
    「まあ警察沙汰で評判が落ちてもあかんし、そうならないように我々で何かできることがあれば協力したいとは思っとるんですが」
    「まずは休んでた分のレポート出すだけでも出させといて、救済措置を取る意思は示しといた方がええと思います。
     それと本人らの希望次第やと思いますが、授業に出れるようになったら声かけときましょう。
     それで何とかなるもんかもしれませんから」
    「どんな学生でも、事情もないのに辞められたら困りますからなぁ、あとは再発防止策ですが……」
    嫌な予感がして目を伏せていた冬月は、全員の視線が自分に向いたのを感じ、予感が当たったとうんざりした。
    「こうなったらもう、鞍馬天狗のお出ましですなぁ、ねぇ先生」
    「……天狗など、畏れ多いですよ、私はただの教員です」

    その後研究室に戻ると、マリがPCで作業をしていた。来月の学会の準備だろう。
    「おかえんなさいセンセー、教授会でなんか面白いこと言ってました?」
    「面白いも何も、面倒なことの報告しか降りてこんよあれは」
    「ってことはなんかあったんですね?その顔見ると、センセーも首突っ込まざるを得なかったりしますね?」
    「……君は人の心でも読めるのかね、神通力とやらか?」
    「人の心読めたらこんな何千年も人いじりしてませんて。わかりそうでわかんないから面白いんですよ。
     で?何があったんです?」
    「ああ、ゴールデンウィークに岩手へ出稼ぎに出た学生が、どうやら超常現象に巻き込まれたようでな。親御さんが警察への相談を嫌がっているが、陰陽師に頼むのも流石に厳しいだろうと言うことで、こちらに始末が回ってきた」
    「岩手ってことはリョウメンスクナですか?」
    「まだわからんよ。どう言う被害なのか調べるところから始めないといかん。
     件の学生は体調がすぐれないだろうが、差し障りない範囲で聞き取りをしないと……」
    「それならユイさんに行ってもらいましょーよ。学生だし」
    「しかし、学生をそういったことで使うのは……」
    「バイト代払ってあげれば喜んでやりますよ、危険そうだったらあたしたちのうちの誰かがついていけばいいんだから。
     おそらくあたしが同行することになると思いますケド。今日彼女こっち来ますよね?あたし、声かけてみます」
    「ああ、ミーティングがあるからな。午後には顔を出すだろう」
    もし岩手出張ということになれば、どのくらい公費から負担してもらえるのか。どんな手続きが必要なのか。この研究室の中ではわりとマシな方とは言え手続きが好きではない冬月は少し憂鬱になった。願わくば、ゲンドウに頼まなければならない書類がないといいが。学部生の頃に履修の組み立てに失敗した上、そのリカバーにもつまづいて留年した男だ、書類を任せてパニックを起こされたくない。

     案の定ユイとマリが休んでいる学生のところに聞き込みに行くことになり、冬月はネズミの実験から戻ってきたゲンドウに事の顛末を説明した。
    「出張しないといけないんですか」
    「その可能性はあるな。その場合は最低限の費用なら負担してもらえるから、なるべく個人の負担は軽くするようにしよう……
     心配しなくても、何か忘れ物をしたら貸してやるさ」
    「……俺の忘れ物は、洗面道具程度じゃ済まないんです。
     財布とか、パンツとか、保険証とか、学生証とか、そう言うのまで行くんですよ。
     こないだの休みに宇部のジジイんとこに寄った時は、泊まった部屋のシャワー室にパンツを忘れました、せっかく洗ったのに」
    「前日に確認の電話をしてやろうか?」
    「……親みたいなツラしよって、介護なんてしてやりませんからね」
    「私とて、君のような子を世に招いた覚えも育てた覚えもないがな」
    これは電話してやった方が良さそうだ、おそらく不安なのだろう。いい加減この手のかかる学生との付き合いも長いので、わかりにくい甘えも判るようになってきた。

     彼らは週末を利用して岩手に向かうため、大阪マルビルの前から伊丹空港行きのバスに乗り込んだ。
    「碇さん、大丈夫ですか?本当にわたしが窓際の席でよかったですか?代わりますか?」
    「……いや……地元が嫌いなだけだ、問題、ない……」
    「ゲンドウくん、ホント地元嫌いだよね〜。
     色々あって大変だったのは解るけどね。
     ちゃんと薬持ってきた〜?
     あれだったらあたしの分けてあげよっか〜?」
    「薬の横流しはダメだ……
     どうせそれすらも横流ししてもらったやつだろう、最低倫理メガネめ……」
    「お金取ってないんだからさ、必要悪として見逃してよぉ」
    「そういう悪が見逃せない性分なの、わからないのか……?
     悪を悪として認識しないのが最も邪悪だ……今また始まったとか思っただろ……
     俺だってこんなこと言いたくない、だが止められないんだ……許さなくていい、早く罰してくれ……」
    「……碇さん、お薬、昨日電話したから持ってきましたよね?
     わたしの水飲んでいいので、飲みましょう?」
    なんと、ユイが前日の忘れ物確認の電話をしていたらしい。頓服までは思い至らなかったな、と冬月は感心していた。
    「おんやおや〜〜??二人ともいつのまにそんなに仲良くなっちゃったの〜〜???ゲンドウくんやるねェ〜〜」
    「わたしが心配して声かけてるだけですよ。
     そう言うのじゃ、ないんです」
    「すぐ勘繰るな、キショい……」
    「めんごめんご〜、あっセンセー、アイマスクして完全に寝る体制ですね?
     すぐ着いちゃいますよ?起こしてあげましょうか?」
    マリは隣に座っている冬月がアイマスクと耳栓を用意しているのに気がついた。マリが寄ってくるのを気にしてか、彼は逞しい体を縮めるように控えめに座っていた。
    「……穏当に起こしてくれよ、さすがにセクハラで辞めたくはないからな」
    「ハイハイ、つまんないっスねぇ」
    「メガネキショ……」

    夕刻に花巻空港についたが、目的地の寺院のある遠野までの交通手段はすでにない時間帯なので、一行は花巻空港そばのホテルにあらかじめ宿を取っていた。
    チェックインまでは多少時間があり、ユイがゲンドウを空港のカフェに引っ張って行ってしまったので、残った二人はお土産屋でぶらぶらしていた。
    「あたしとユイさんが同室にしたことで安くなりましたよね?」
    「それはそうだな、我々に気を遣ってもらって恐縮だ」
    「わかってますよ、ゲンドウ君、センセーと一緒だと眠れなくて恐縮しちゃうだろうし」
    「恐縮はせんでも、いびきやら何やらで眠れなくしたら気の毒だからな。私も一人の方が気が楽だし」
    「…逆に一緒ってどうっスか?仲良く、なれるかもしれませんよ?」
    「いやなぜ……まあすでに仲は悪くないと思っているよ。あれだけ世話を焼いているし、悩みもずいぶん聞いたからな。ただあれで全部ではなかろう」
    「そらそーでしょーけどねぇ。
    まあ、これからはセンセーの子守も楽になるかもしれませんよぉ?
    子はやがて親の手を離れるもんですから。
    ホラ、二人で空港のカフェ行ったみたいじゃないですか」
    「だから彼に関してはこの世に招いた覚えはないんだが……」

    「わたしだけデザート頼んじゃってよかったんですか?
    碇さんも食べたくなかったですか?」
    「……腹いっぱいだから、いい」
    「おごりますよ」
    「院生が学部生におごられるのは……立場としてまずいだろう……」
    「私たちの間の話にしておけば、誰も気にしませんよ」
    「しかし……俺の気分が悪い」
    「わたしは気にしませんよ、だから碇さんも気にしなくていいんです。
    じゃあ、わたしはチーズケーキと紅茶で。すいませーん」
    「…………」
    ユイはチーズケーキとアールグレイを頼むと、ゲンドウに何を頼むか声をかけた。
    「碇さん、何がいいですか?」
    「……レスカ」
    「…リスカ?」
    「…あっ、レモンスカッシュ、レモンスカッシュを」
    「チーズケーキと紅茶とレモンスカッシュですね。
     お飲み物はケーキと一緒でよろしいですか?」
    ほどなくして、紅茶とレモンスカッシュとチーズケーキが運ばれてきた。
    「私もレスカ、にすればよかった。碇さんの故郷の言葉なんですよね?」
    「……ああ」
    「よかったら、また教えてくださいね、故郷の言葉」
    「別に俺たちの専門は言語学ではないだろう……」
    「碇さんのことが、知りたいんですよ」

    花巻空港の傍のホテルは、大浴場もあり、マリとユイははしゃいで二人で入りに行ったが、男二人は人と風呂に入るのが苦手なため、自室のシャワーを使った。
    「別々の部屋でよかったな。気を遣っているところだった」
    「……それは全くその通りですね。人の風呂とか聞きたくないですから」
    「それを本人の前に言うのはやめた方がいいと思うぞ、それはそうと、忘れ物はなかったかね」
    「ええ、パンツ以外は」
    「それはさっさとコンビニで買いたまえ」
    「コンビニなんかで買ったパンツがフィットすると思っているんですか」
    「それは……アレだ、サイズがおかしくなければ大体大丈夫ではないのか」
    「先生は大きささえカバーされればいいかもしれませんが、感触とかいろいろ、あるんですよ……」
    「まあ、その辺りは妙に繊細なところがあるからな……って何の話をさせるんだ全く、そして他人の個人情報を人前で言うんじゃない」
    結局コンビニまでレンタカーを出してもらい、パンツを購入する羽目になった。忘れたパンツを買うのに教授に車を出させる院生なんて聞いたことがないぞ、と言われながら。

    いつものように本を読みながら寝落ちしてしまったゲンドウは、その夜夢を見た。
    首のない全く同じ姿をした女の裸体の中から、誰かを探す夢だった。誰を探しているかも定かではないが、その「誰か」に会わなければ、自分の世界は終わってしまうという焦燥感。いったい、誰だ、思い出せない、いや、「誰か」とは、果たして自分の中で定義されているのか?それを問おうにも、世界は今にも終わりかけていて、その「誰か」に会わなければすべてが無駄になってしまう……そもそも、「すべて」とは何を意味している?自分の目的はなんだ?何のために生きていた?なぜ今まで「死ななかった」?

    『……その弱さを、認めないからだよ』
    子どもの声がした。

     子どもの時分からなぜ朝なんて来るのだ、永遠に目が覚めなければいいと思っていた。だが自分の意思より自律神経の方がいくぶん社会性を維持しているのか、目は覚めるし何とか体は動く。ゲンドウは身支度を雑に行い、治らない寝癖を諦め、集合場所のホテルのロビーに向かった。備え付けの剃刀がうまく使いにくいタイプのもので、顎にけがをするのがとても不快だったので髭は剃らなかった。
    ロビーにはすでにほかの者が揃っており、一番にユイが気が付き、声をかけてきた。
    「碇さん、おはようございます!
     体調大丈夫ですか?」
    「……まあ、いつも通りだが……アンタの方が目が赤い。
     セクハラメガネにいじめられたのか」
    メイクはしているものの、ユイの目元はいつもより開いておらず、白目が充血していた。
    「失礼だにゃぁ、いじめてないよ。
     まあいろいろ話してね、ちょっと昔のこと思い出したりしただけだよね、ユイさん」
    「そうなんです、ご心配かけます。
     でも、いろいろ話せたから、すっきりしました。
     というわけで本当に大丈夫ですよ、行きましょう」
    こんなに前向きで何もかも持っているような女にも、思い出すだけで泣いてしまうようなことがあるのか。ゲンドウは驚きのあまり自分の任務である地図のルート検索に切り替えられずにいた。地図が読めない人間が信じられないと思うほど、彼は空間把握能力に長けていた。しかし免許を持っていなかった。実家からの仕送りと実質学生ローンである奨学金を嫌悪しており金がなかったからである。奨学金をほいほい借りられる連中とも差がついていると思うとゲンドウはいつも気分が悪くなる。
    「さ~てさて、センセーからのリョウメンスクナの解説がまだでしたよね?
     どういう話なんですか?」
    「それが、頭が二つある人型のミイラということしか調べきれなかった、つまりほとんど調べられずにここまで来てしまった。恥ずかしい限りだ。
     真希波君のほうがもしかすると知っているかもしれんな」
    「あたしもあんまその辺は調べてないですよ、最近センセーの授業を引継いでやるようになってから忙しくなりましたからね」
    「君の授業が面白いと学生からは評判でな、その点に関しては助かっているよ。
     仕事がきつかったら教えてくれ、善処することは考えるから」
    「それ考えるだけで実行しないやつじゃないすか、ダメですよぉ~?今時」
    レンタカーは高速に乗り込んだ。

    「リョウメンスクナ」が安置されていると言われている寺に着いたのは昼前であった。寺のタイムスケジュールを考えれば、夜にわざわざ向かう道理もない。そして明るいうちの方が視界が確保されていて「何かと」安全だ。寺の門前では、30代前半くらいの僧侶が出迎えてくれた。幼稚園ぐらいの子どもを抱いて現れ、すみません、妻に外せない用事がありまして家で見ているんです、と申し訳なさそうにしていた。
    「ぜ〜んぜん申し訳なくないっスよ〜!
     当たり前だにゃ」
    「お気遣いありがとうございます。
     昔住職に色々このことで言われたんで、まだその癖が抜けなくて。
     今はずいぶんわかってくれましたが」
    「先生ですか、お待ちしておりました」
    歳の頃は60後半ごろの住職と思しき紫の袈裟を纏った剃髪している男性が奥からやってきた。住職は
    「お前、お客さんはいいからユウちゃんを見ていなさい」
    と、息子と思しき僧侶と孫に声をかけて人払いし、門から本堂に案内してくれた。
    初夏にしては涼しい気温の本堂で話されたリョウメンスクナの解説は、以下のようなものであった。

     リョウメンスクナと言うのは、二つの頭、二対の両腕、二本の脚を持つミイラのことを言うらしく、箱に入っているそのミイラを見た者は命を落とすと言うありふれた話である。ありふれていないのはそのミイラが本当にあり、実際に被害者が出ているということだ。この「リョウメンスクナ」の「スクナ」というのは、漫画にもなったそうだが、スクナ族という、恐らく海を渡って日本へ来た外国人ではないかと思われる人々が太古の日本へ文化を伝えた。それが出雲圏の文化形成となり、様々な民話のもとになった。その後大和朝廷による出雲の侵略が起こり、追われたスクナ族がたどり着いたのが今の飛騨地方だった。日本書紀によれば、飛騨にスクナという怪物がおり、人々を殺したから兵を送って退治した、という話が書かれている、と。スクナというのは大和朝廷以前の時代に日本へ文化を伝えた外来人のことで、恐らくは古代インドの製鉄を仕事とする(そして日本へ製鉄を伝えたであろう)人々のことではないかとのことであった。
     そして、出雲のある場所で見つかった洞窟の奥にあったものが「リョウメンスクナ」(両面宿儺)だったと。スクナ族は、日本へ羅魔船(カガミノフネ)で来た、と書かれ、鏡のように黒く光る船であったとのこと。羅魔は「ラマ」で、黒檀系の木の名である、と言う話だ。リョウメンスクナと呼ばれる存在も、逃げ延びて岩手地方に来たスクナ族の末裔なのかもしれなかったと推測する向きがある。そのスクナ族といわゆる結合双生児の遺体のミイラがなぜ関係があるかというと、単にそのコミュニティの中で結合双生児が生まれた際に人身売買に出されてしまい、フリークスショーの一団…「見世物小屋」に売られてしまったからだということである。
    「……人間がクソなことは重々承知していますが、苛立ちで体が爆発四散しそうです。
     俺はこのままでは血と糞を撒き散らして死にます」
    「ゲンドウくん、ステイ、ステイ」
    「お前が俺に命令する権利などない」
    「…話を続けても大丈夫か?落ち着くまで待つか?」
    結局、ゲンドウが過呼吸の発作を起こしたので、先程世話をされていた子どもが冷たい水をコップに入れて持ってきてゲンドウに渡した。ゲンドウは子どもへの対応がわからなかったらしく「どうも……」と小声で目をそらしながら水を受け取りちびちびと飲んでいた。休むゲンドウの傍らで話は続けられた。
    その「リョウメンスクナ」と呼ばれた双子は、見世物小屋に売られた後、なんと当時のカルト教団に買い取られてしまったとのことだった。そして今では信じられないことに、彼らは「蟲毒」という呪いの依り代として、幽閉されて人間同士で殺しあいをさせられたというのだ。もっとも、他の「候補者」は故意に死にかけにさせられた状態で幽閉されたらしいが……。そして彼らは教団の思惑通り生き残ってしまい、そのまま幽閉され餓死させられ、いわゆる即身仏のような状態にさせられてしまったらしいと。
    「……何かの祟りってそもそも酷い目に遭ってる人がいるって話ですよね、ちょっと考えればわかりますよねこんなの」
    「……いつもそうだ、人間は……立場の弱い者に異質の烙印を押して搾取する……だからもう……」
    ゲンドウの地を這うような恨めしい声が聞こえてきた。どちらが怪異なのかわかりはしない。
    「でも、本当にそういう成立過程なのかは信憑性が低くないですか?
    そのカルト教団って公の記録に残っていないんですよね?」
    ユイの質問に、住職は少し考えたそぶりをして答えた。
    「この話はずっと噂として残っていたものですから、集落での双子の迫害を隠す大義名分として残ってしまったという可能性も考えられますね、そういう観点から考えれば」
    ぐったりとうなだれたままのゲンドウが恨めし気に続ける。
    「……どちらにしろ迫害された者がいて、今もその罪を押し付けられている、と言うことだ。
     つまり、どんな状況であっても迫害される者は出てくる……。
     便所はどこですか、ゲロを吐いてきます。」
    「…体調が悪いなら、帰るか?」
    「いえ、その迫害された者を弔うことは必要です。
     それをしないのは俺の倫理基準では一貫性に欠けます。
     先生がそれを良しとするなら、俺はこの研究室を辞めて先生の立場が悪くなるような悪口を言いふらします」
    「……わかったから、早く済ませてきなさい」
    先程の子供が、おじさんトイレこっちだよとゲンドウのチェックのシャツの裾を引いて案内しようとしていた。
    「あらら、おじさんなのバレちったねゲンドウくん」
    「エイジズム……」
    「話はあとで聞くからまずは用を済ませてきなさい、ここでやるなよ」
    「うっ……黙れ……」

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