同室のくりへし 2瞼の裏に月明かりが刺さり意識が浮上する。いつもなら明け方まで続く酒呑たちの集りも今晩はないのか静寂が響く。目を閉じたまま一人分空けていた隣に手を伸ばした。
…冷たい。もしかしたらと僅かな期待と期待を打ち消し諦めるために瞼を細く開けた。
ギュッと目を瞑り眠る事に集中する。布団を被り月明かりを拒絶しギュッとギュッと目を瞑った。
布団の隙間から侵入する朝日。疲労した重たい瞼を開ける。そして使われた形跡のない隣を再確認して半身を起こす。
カサカサの薄い唇を指の腹で触れ、込み上げてくる何かが溢れないように立てた膝に顔を埋めた。
トタトタと軽快な足音が厨のほうからこちらへ向かってくる。長谷部はゆっくりと天井を見上げ大きく息を吸う。苦しくなるくらいまで肺に冷えた朝の空気を充填する。息を止めて朝の空気で圧縮させた心を胸にしまい込む。そして息を短く吐き出し、各部屋に朝ごはんの時間を告げて回る声に返事をかえした。
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