スフィケンとお化け屋敷「ちょっと怖そうな場所だね」
「おう、でもスーちゃんには俺がいるから任せな!」
「ふふ、ありがとう。ケンタッキーは頼もしいなぁ」
ふわっと微笑みを向けられ、俺の心臓は早鐘を打つ。
スーちゃんマジ天使…!!!!!
スーちゃんは天使のように可愛くて優しい。
少し自虐がすぎるのが悪い所だが(スーちゃんが気に病む事なんてないからな!)、それを包み込んで支えるのが男の甲斐性ってもんだろ!
いつだって笑っていて欲しいし、俺の隣にいて欲しい。
もうあんな涙や表情なんてさせたくない…させたくないんだが。
お化け屋敷。
これは、例外だろ!!!
怖くて涙目になったスーちゃんに腕抱き寄せられたり、震える身体を優しくエスコートしたり、俺が頼りになる所をアピールするチャンス!
ふっふっふっ…この時のため、お化け屋敷は既にリサーチ済みだ。
1週間前にジョージと100週して予習は完璧にしてきた。
(叫び過ぎて喉が枯れて、マスターに治して貰ったのはここだけの秘密)
待ってな顔馴染みのお化けたち、俺が世界の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!
⚠︎エキストラに危害を加えてはいけません⚠︎
俺はスキップしてダンスしたい下心をなんとか抑え、クールでかっこよい表情をキメて決戦の地へ足を運ぶ。
さぁ、完璧にエスコートしてやるぜ!惚れろよスーちゃん!!!
と、思ったのだが…
お化け屋敷の入り口の雰囲気がいつもと違い、見たことない立看板が目の前にあった。
「…なんだこれ?
え、
…メガ暗黒病院にリニューアル???????」
「へぇ〜以前のお化け屋敷よりも3倍怖いって書いてあるよ。
懐中電灯借りるタイプのお化け屋敷なんだね。こういうの初めてだし…ケンタッキーと一緒だから凄く楽しみ♪」
「えっ…あっ、お、おう!任せろ!」
嘘だろ〜〜〜〜!?!?!?!?
俺の心に嵐が巻き起こる。
冷や汗がこめかみを伝い、生唾を飲み込む。
先週より3倍怖いだと!?
…どうしよう、10回気絶したのに…
ハッいやいや何を弱気になってんだよ!
100周もして怖いもの耐性がついた俺には何も恐れる事なんてない。
華麗に強欲()にスーちゃんの心をゲットするんだ!
スーちゃんと一緒にチケットを買い、俺は気合を入れいざ決戦の場へと足を踏み入れたのだった…
「はぎゃ〜〜〜〜っ!!!!!」
「大丈夫、ケンタッキー?」
「ひゃ、ひゃひっ、ら、らいじょぶ!!!」
さ、3倍どころじゃね〜〜〜〜っ!!!!!
内部に足を踏み入れた瞬間から違かった。
地面はどういった仕組みなのかぐにゃぐにゃしてうまく歩くないし、何とも不快で汗ばむような生暖かい風が吹く。
更にはどこからかカリカリと引っ掻くような音、啜り泣くようで苦しそうな呻き声が俺たちを迎えてくれた。
何かイヤなものに見られているような気もするのだが、その方向に懐中電灯を向けても闇が広がるだけだ。
というかこの懐中電灯の光が頼りね〜んだよ〜〜〜っ!!!
もっとこう…グワっとバキッとジャキっとつけや!
「ど、どこだ!どこにいる!?!?出て来い!!畜生、ぶっ殺してやる!!!」
俺は懐中電灯を振り回すように周囲を照らす。
しかしやはり何もないし誰もいない。
「ケンタッキー落ち着いて!」
「ハッ!」
暗闇の中でも愛らしさ爆発の声に諭され、俺は正気を取り戻す。
その際、しなやかな指が俺の手を掴んでギュッと握られた。
あっ、手…繋いじゃった(ポッ)。
「ご、ごめんスーちゃん…も、もう大丈夫だ…」
「良かった、いつものケンタッキーだね。
暗いからびっくりしちゃった?
…あ、そうだ。
離れちゃったらイヤだし、暫く…手、繋いでおこうか」
「お、おおおおう!!!!」
暗闇でも分かるスーちゃんの細くて綺麗な指が俺の汗ばんだ指にきゅっと絡みつく…え、えっちだ…
お化け屋敷はさっさと飛び出したいが、この状態はウェルカムだし一生続いて欲しい。
初めての手を繋いだ記念に写真も撮りたいな。
あわよくば寮に帰るまでこのままでいたい。
「可愛いなぁ、ケンタッキーは」
「………
…えっ、ごめん!ちょっと聞こえなかったんだけど今何ていった?」
意識が不埒な方向に行ってしまっていた為、ちゃんと聞こえず慌てて聞き直す。
クソやっちまった…妄想なんていつでも出来るから後だ、後!
「ふふっ、一緒だと心強いなって思ったの」
「!!!!!そ、そうかーっ!そうだよなー!!!よっし、じゃあスーちゃんは俺の後ろにいてくれ!絶対に守るからな!」
へにゃと筋肉が緩み、とうとう浮かれる気持ちが抑えきれなくなった。
しかしこれは男冥利につきるし、仕方ないものだろう!
俺はスーちゃんの指をしっかり掴み直し、意気揚々と歩き出した。
いつでも出てきやがれ、顔見馴染みのお化けたち。
今日の俺は先週と違って手強いからな!
「今度は最初から誘ってくれなきゃダメだよ。
僕は可愛いケンタッキーの表情は一番近くで見ていたいんだから」
お化けに出くわし絶叫した俺に、スーちゃんのその言葉はまたしても届かないのだった。