それから数日後。なんと、俺に好機がやってくる。数日ほど出張に行くアイツの代わりに、俺が浅羽悠真の髄液の採取を行うことになったのだ。あれを告げられた時は嬉しくてつい小さくガッツポーズをしてしまった。
まあ、それはそうとして。今俺はそのために悠真の病室(正確に言えば病室ではないが)に向かっていた。スライド式の清潔そうな白いドアを開ければ、中にはやっぱり俺のお気に入りの浅羽悠真がいた。すると悠真はすぐに振り向き、
「あ!今日は遅かったね、ししょ.........」
と言って、俺の顔を見上げると、いつものアイツではなく俺であることに気づいてか見るからにがっかりしたような顔をした。俺はずっと接点はなかったにしろ君のことが好きだったのにそんな様子の彼に少しだけイライラしたが、。俺は腐っても大人なのだ。平静を保ちにっこり笑って話しかける。
「.........ごめんね、悠真くん。いつもの彼は今日から出張で休みなんだ。だから俺が変わりに首に注射をするから。よろしくね」
「あ、ごめんなさい、僕こそ間違えちゃって....コレ、邪魔でよく見えないんだ、扉の方」
そう言って彼は自分の真横の点滴を指さした。点滴の管を辿ればそれは彼の細い腕に行き着いていて、血管が小さいだろうから指すのが大変そうだな、なんて思った。
「首に注射、する時間なんだよね?」
そう言って彼は自ら首に巻かれている被験者識別のためのタグのようなものを外し、日に焼けていない真っ白な首を晒した。ほくろ1つなくて、すべすべで綺麗に見えて、俺は思わず少しの間だけ見つめてしまった。
「あっ…そうそう、協力ありがとう。....じゃあ、始めるね」
我に返ってとりあえず、針を刺すために首元を消毒液で拭った。ぽつぽつと深く開いている針穴が痛々しい。この穴はまだ赤いからきっと3日前とかに刺したんだろう。こっちの穴は、もうほとんど治りかけてるから多分結構前。そんなことを考えつつ、髄液を取るための機械から針をとり、首に突き刺した。
「い.........っ」
刺された痛みからか、顔を顰めて少しだけ彼は身じろいだ。身じろぐだけなのか、こいつは噂に聞くとおり。他のガキは嫌で泣き出すやつだって居るのに。様子を見ていると、痛みに慣れてきたのかいくらか落ち着いていた。しかし、縋るように布団を少しだけ握りしめてはいたが。やはりこの子は可愛い。
「.........はい、終わったよ、お疲れ様。大丈夫かな?」
普通の針と比べたら何回りも大きい針を引き抜き、首にタグをまきつける。ちらり、と悠真くんの様子を見ると彼の目には少しだけ涙が滲んでいた。今すぐにでもまだ零れていないそれを舐めとってしまいたかったけど、辞めた。流石に。