あなたの香りは 恋人とふたり、寝支度を済ませて、あとは眠るだけとなった夜はあまりにも幸せだ――おれとユウリは、そんな贅沢な時間を過ごしていた。
リビングのソファーで何気ない会話を楽しむおれたちの足元でマッカチンはゆったりとくつろぎ、ユウリは明日の荷物の準備をしている。そんな愛弟子を見て、たまらずにちくりと心が痛んだ。
「……ユウリ、ごめんね」
「え? 何が?」
「最近、なかなか一緒に練習できなくて。明日も取材が入ってるから、リンクに行けるの、夕方くらいになりそうなんだ」
コーチと選手の2足わらじ、覚悟していたことではあったけど、ユウリも辛いのではないだろうか――そう思いながら告げた言葉に、少しだけ不思議そうにアーモンド色の瞳を瞬かせたユウリは、あまりにもあっさりと言い放ったのだ。
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