赤を散らす 白い首筋に唇を這わすと、生まれたままの姿の少女はきゃたきゃたと笑った。
どうやらくすぐったいらしく、身を捩る仕草が愛らしくて、薄い皮膚への口づけを繰り返す。
情事の後。甘やかな時間。
服も着ないで戯れ合うこの瞬間は、魔力供給という言葉を使うことをやめた二人の安らぎだった。
「……あむ」
不意に小首を傾げた立香は、小さな口を開けてこちらの肩口に歯を立てた。驚いて目を瞬かせているうちに唇は離れる。
彼女は、うっすらとついた噛み痕を満足げに見つめていた。
「っ、どうしたのですか?」
「えへへ、なんとなく……」
クリクリした蜂蜜色の瞳は、悪びれる様子もなく煌めく。
ちゅう、と音を立てて肌に吸い付き、鬱血の痕を残そうと努力する少女をしばし見つめた。
うまくつかないと笑ったその子の、赤い髪をそっと撫でる。
「私の印! 先生は、私につけたいと思わない……?」
「ふむ、確かに魅力を感じますね」
この時だけは自分のものである少女が、みんなのマスターである時間にも私の印を纏っていると思うと……心のどこか、目を逸らしている部分が安堵する。
無邪気にこちらを見上げる立香は、自らの白い肌に迫る危機に気づかない。
「んっ……ぁ、うまくつけれた?」
「ええ、見えますか?」
鎖骨の少し下に、キスの痕をつけた。
自らの素肌を彩る赤色を見て、少女はなぜか嬉しそうに笑う。
「じょうず……私のは、すぐ消えちゃいそう」
「いくらでもつけ直してください。私は貴女のものですから」
パッと表情を輝かせた立香は、ちゅ、ちゅ、と愛らしく私の喉元に唇を押し付けた。
小鳥が啄ばむような触れ合いが心地よい。
「私のせんせ……」
「はい、貴女だけのものです」
言い含めるように繰り返した。
こうすることで、彼女が自分だけのものにならないかと期待している。
私は貴女のものだから、貴女も私だけのものになってほしいと……。そんな意図、悟られはしないのだろうけれど。
うっとりとした瞳で擦り寄ってくる少女を見ていると、キスマーク一つでは足りないような気持ちになった。
「……」
「ん……あ、これとかどうかな? ちょっと赤くなった」
キスマーク作りに夢中になっている彼女へ、ただ笑みを向けた。
きょとんとした可愛い顔をするから、こちらの笑みは深くなるばかり。
「私も、痕を残しても?」
「あ、うん! いいよ……」
ポッと頬を赤らめた立香は、両手を広げてその身を明け渡した。
何で無防備で、愚かなことだろう。
お言葉に甘えてと、白い肌に口付ける。そして口を開けて、いくつもの赤を作ることにのめり込んだ。
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「う、わぁ……」
早朝。全裸で姿見を見つめる。
夥しいくらいの噛み痕、キスの痕、彼の印。
噛んだ痕の方が多いだろうか。随分と好き勝手された……。
「服で隠れるかな……うぅ、お尻まで噛まれてる」
柔らかいところは全部噛まれた。そうでないところにはキスを注がれた。
こんな身体、彼以外に見られたら恥ずかしくて死んでしまう。
「私以外に、見せることなどないでしょう?」
「ひゃっ!」
心を読んだみたいに、恋人が背後で囁いた。
薄いキスマークと歯形を纏い、鏡の中の私を満足げに見つめている。
愚かにも、彼の視線を奪った自らの写しに微かに嫉妬していた。