小さい悪魔「ますたー……ますたー、どうかこちらを見てください」
「ん……?」
深夜。耳慣れない囁きに目を覚ます。
ゆっくりと身を起こして隣を見ても、誰もいないけれど……。
「ますたー、こちらです」
促されて視線を下げていく。
すると、白い布を掻き抱いた困り顔の少年が立っていた。
その容姿に息を呑む。
「せんせ、い……?」
「はい」
くりくりとした萌葱色の瞳が悲しげに伏せられる。
どうやら恋人に何かが起こって、身体が小さくなってしまったらしい。
誰の仕業かはわからないけれど……今やそう珍しい現象でもない、のかも?
「先生以外は……」
「どうやら、私だけのようで」
抱えているダボダボの布は、彼に合わせて変化してくれなかった服だったようだ。
本人からしたら呑気な思考だろうけれど、とても可愛い。
「と、とりあえず……ダヴィンチちゃんのとこ行こっか」
彼女……いや、彼ならば、何か解決策を導いてくれるかもしれない。
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「ひゃっ……! か、わいい~っ!」
「喜んでいただけて何より」
「当然よ、自信作だもの」
小さな給仕がちょこんと立っている。
解けてしまっていた髪の毛をいつもの形に結い直し、今の自身のサイズに合ったお仕着せを纏っていた。
ダヴィンチちゃんとメディアが共同開発していたらしく、なんとこの可愛らしさで礼装でもあるそうだ。
「まあ、これに構いっきりで原因究明はまだなんだけど……とりあえず調べがつくまで、彼を預かってくれるかい? マスターの側にいた方が、何かと都合がいいだろうし」
「もちろん!」
引き取りたくてうずうずしていたのだ。
一も二もなく頷いて、小さな恋人を抱えてマイルームへと駆け出した。
もう眠気など吹き飛んでいる。
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「あ~ん! 可愛い~!! よしよ~し」
「ますたー……」
小さなボーイさんをぎゅうぅと抱きしめる。
半ば呆れたような声も気に留めず、小さなその子に頬擦りした。
もちもちすべすべの肌に唇を押し当てれば、恋人は仕方がないとでもいいたげに眉尻を下げた。
「はは……どれ、少し試してみましょうか」
「え」
小さな指で顎を掬われる。
じっと見つめられて頬が熱くなった。
どうしたんだろう。身体までポカポカするような……。
「ふむ、さすがダヴィンチ殿。うまく機能している」
「ふぇ……?」
力が抜けていく。ベッドにへたり込んだ私を見下ろし、ケイローンはにこりと笑った。
「魅力というのは便利ですね、この礼装でできること……たくさん試してみましょう」
「え? え?」
魅力、ガンド、防御力ダウン……か。なんて、不穏な言葉が聞こえた。
幼い見た目に惑わされて口付けたのは、どうやら危険な選択だったみたい。
……今頃気づいても遅いけれど。