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    ワンドロライ『年の瀬』

    【年の瀬、フォーリングダウン】

    仕事でカウントダウンライブをする、というのが常になっている年の瀬だ。準備に追われ、スタッフも増員して、今年はそこそこ大きい箱でやる予定でいる。冬場は音楽業界のかきいれ時でもあるのでネズの周りは毎年慌ただしい。ホップからの連絡も、返せたり返せなかったりしていた。たまに自宅に帰って、死んだように眠り、マリィに呆れた様子で起こされ、食事をする。そしてシャワーを浴びてまた仕事、というのが風物詩だった。

    今日はシュートシティにある放送局で打ち合わせだった。そのままアーマーガアタクシーでスパイクタウンの近くまで送って貰うつもりだったが、局を出てすぐのロータリーでネズを待っていたアーマーガアは、タクシーの箱を下げていなかった。
    「……どうしたんですか」
    「マリィに予定聞いた。ダメだったか?」
    「……ダメじゃねえですけど、撮られますよ」
    「それはオレは嫌じゃないから」
    「そうですか」
    ネズさんのスマホにも連絡したけど、どうせ埋もれてるんだろうなって思ってた、とホップは眼鏡の奥でにやりと笑う。そんな悪い笑い方、誰がおまえに教えたのだろうと思ったけれど、多分ネズ自身だ。
    久しぶりに顔を見た。送ってく間だけでも一緒にいたくて、なんて恥ずかしげもなく言い放つのでネズは一瞬たじろぐ。昔から性格も言い回しもストレートだが、今日は特にそうだ。暫く放置してしまったからホップも言いたいことが多くあるのかもしれない。
    「箱、無いと寒いんですけど」
    「そう言うと思って、ネズさんのマフラーと、あとストールも借りてきた」
    「そういうことじゃねぇんですよ」
    渡されたマフラーと、厚手のストールを巻いて、髪を内側に収められるように試行錯誤しているのをホップは手伝ってくれる。手を動かしている間ふたりの間に沈黙が落ちたが、ホップの方からそれは破られた。
    「貴方に逢いたいからだよ」
    「……へえ」
    言うね、と見上げると金色の星がふたつ。きらきら光るそれに見下ろされるのは悪くない。
    「それなら、別におれを家まで送り届けなくてもいいんじゃないですか?」
    「……?」
    帰って寝たいんじゃないのか、という顔をするホップに、おまえはやっぱり子どもだね、と言うと漸くネズの意図に気付いたのか、首の下から徐々に赤くなって、言葉を失くす。

    「ロンド・ロゼとは言いませんよ、あすこはいつも満室だし」
    別におまえが寂しくなければおれはこのまま帰るだけですけど、そう言うと、ホップは逡巡してからネズの手をぎゅっと握った。汗だくの掌に思わず吹き出すが、手を触られただけなのに自分の身体がざわりと大きく揺れるので、動揺したのを悟られないように少し気を引き締める。触れた部分から熱が広がって行く間、ホップはロトムに小声で指示を出しながら、ホテルイオニアの空室情報を確認しているようだった。
    「……ちょっと待ってて」
    「ご自由に」
    腹が減っていたが、どうやらこれは夕食は明日の朝になるらしい。

    ***

    部屋は暖房が効いていた。寒いキルクスタウンでは当たり前の事だが、ネズはそれをありがたがる余裕も無かった。ホップに腕をぐいぐいと引かれて部屋に飛び込み、キングサイズのベッドにふたりして倒れ込んでからは殆ど勢いで服を脱がし合う。シャワーも浴びていないし、飯もまだだし、準備なんてしているわけもなく、体をくっつけあって只管に唇を押しつけ、舌で相手の輪郭をなぞる。膨らんだ場所をぐりぐりと押し付けあい、暴いて、噛み付いて、食い破って、最後は濡れた音が聞こえた。ねずさん、と舌足らずな声が上から降ってくる。瞼を上げるとホップの泣きそうな顔がネズを見ていた。何泣いてるんです、と言いたかったけれど舌が絡んで言葉にならず、指先で頬を撫でてやるだけで終わる。逢いたかっただの、好きだだのと沢山の言葉が洪水となってネズを襲い、遠くへと押し流す。二人して一度昇り詰めてから、もう一度唇を押し付けあってベッドに落ちた。

    「……ネズさん、大丈夫?」
    「大丈夫そうに見えますか」
    「ごめん、本当ごめん」
    「いや、嫌なら帰ってますから」
    ベッドに沈んでいたところから、気怠い身体を叱咤して起こす。その間に、ネズの三倍の速度で起き上がったホップは慌ててルームサービスを注文していた。飯は軽めで良いです、スープかなにかあったかいものが欲しい、と注文をつけたネズは、草臥れた体を引きずって風呂へと足を向ける。それだのに、胸の内は随分満たされているのが面白い。摩耗していた心臓のどこかを、ただしいもので満たした満足感が強くある。自分に足りないものがなんなのか、わかっているつもりでいたが実際に体感すると理解が違う。
    「ネズさん、お風呂の前にご飯食べるでしょ」
    「湯船は後にしますけど、おまえもシャワーくらい浴びなよ」
    「……たしかに……」
    二人の吐き出したもので、お互いにめちゃくちゃだ。服も靴もカバンも乱雑に床に散らばっているので、ホップはそれを掻き集めて部屋の奥のソファーの周りに片付けて行く。パンツ一枚で動き回る彼の姿はだいぶ滑稽だが少しも嫌な感じは無く、とりあえず先に入れと促されてネズはシャワールームへ引っ込んだ。

    (飯、食えるかな……)
    身体全体を温める水滴を浴びながら、ネズは満たされた心の内側のひだをゆっくりと確かめる。割合、食欲は旺盛な方だが、食べたいと思った時以外はそれほど食事を必要としないたちなのだ。

    「おれも、だいぶ単純だね」
    あいつのことをうるさく言えないな、と人知れずネズが笑っている頃、噂をされたホップはルームサービスの到着を待ちながら、大きなくしゃみをひとつ放つことになった。
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