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    ka2chahan

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    リンゼルSS「そらいろ」続きの話。キスシーンで力尽きたので続きはありません

    「…やっぱり」
     厩舎の裏のリンゴの木。木のそばには澄んだ水をたたえる池がある。そよそよとした風がリンゴの木を揺らしている。
     その木の下に。
    「リンク」
     食べ終えたリンゴを数個散らかして無防備に寝転がって、帽子を顔の上に置いている。話しかけてくれるなという意思表示なのか、誰だかわからないようにしているのか。こんな綺麗な金色の髪、顔を隠したところで一目でわかるのに…とゼルダはリンクの帽子を手に取った。
    (まつ毛…長いな)
     寝顔を見るとまるで少女のようで。無造作に切られた前髪が風でふわりとなびいている。無意識に耳がぴくぴくと動き、その度に輪っか状のピアスがチラチラと陽の光を反射する。気に入っているのか、単に無頓着なのか、近衛服の時もピアスは外さない。服装と合っていないのでは?と聞いてみたことがあるが、そうですか…とだけ答えてそれ以上何も返してはくれなかった。
     一日中外にいることが多いのに、あまり日に焼けていない。日に焼けるのではなく赤くなるのですよ、といつだったかとても暑い日に言っていた。そういう、彼の些細なことを知れることがゼルダは嬉しかった。
     彼は宮廷内ではほとんど人と喋らない。己の素性を明かそうとしない。色んな噂は流れているけれど、それを肯定するでもなく否定するでもなく、彼は表情を崩さず聞き流していた。本当は言いたいことや反論したいことがたくさんあるはずなのに、言葉にすることを彼は諦めていた。今日もおそらく、言いたいことを上手く紡ぐことが出来なくて、一人ここにやってきたのだろう。
    (また壁を殴ってなければいいのですけど)
     人前では模範たれと努めている割に、リンクは決して素行が良いわけではない。優等生に見せているだけで、その近衛服をひとたび脱げば年相応のやんちゃな少年を覗かせる。イライラしていると物を蹴ることもあるし、自分の手が痛いだけとわかっているくせに時には拳で壁を殴る。いくら苛立ちを抑え込むためとはいえ、自分の体を傷付けるのはやめてほしいとゼルダは諌めたことがあるが、怪我をすることは慣れているので…と斜め上の答えが返ってきた。そういうわけで諫めたのではないのだが、理解してくれなさそうなのでそれ以上言うのをゼルダは諦めている。
     このまま寝かせてあげようかしら、と城内へ引き返そうとした時、がさりと草が擦れる音がした。振り返ると、リンクが眠そうに体を起こしている。
    「…起きましたか」
    「ん……」
     寝ぼけているのか生返事で、声の主が己の仕える姫だとはわかっていなさそうだった。「リンク」と名を呼ぶと、ようやく気がついたのか「姫様?!」と上体を思い切り跳ねさせた。
    「…すみません」
    「寝ていてもよかったのですよ?」
     ふふ、と笑うと罰が悪そうな顔をしてリンクがゼルダを見上げてくる。その顔が叱られた仔犬のようで可愛らしい。普段キリッとした眉を頼りなげに曲げて、目線をゼルダと合わせようとしてくれない。きっと今、どう答えればいいのか考えているのだろう。言葉で返す必要などないのに、どうにか言葉に言葉で返そうとするリンクがいじらしい。いきなり抱きしめてくれても構わないのに…と普段突然抱きついてくる彼の仕草を思い出していると、言葉をするのを諦めたのか抱きしめられた。
     やはり、仔犬のようで可愛らしい。
    「どうしましたか?今日は」
    「……」
    「いつものことでしょうけど」
    「…はい」
     リンクがぎゅうと抱きしめてくる。大剣も易々と扱う彼の腕力は、華奢な体に反して相当強い。しかしここで痛いと言ってしまうと、泣きそうな顔で腕を解かれてしまう。力加減が出来ない不器用ささえも愛おしいのに、そんな姿を彼自身が許さない。
    (もっと器用に生きたらいいのに)
     欠点を補って余るほどの才があるのだから、もっとうまく使えばいいのに。そんなに謙虚にならずに、もっと偉そうにしても誰も咎めないのに。彼にとって生きづらいこの世界を、生きやすくする術は彼自身が持っているはずなのに。
     気がつけば、ゼルダは無意識に彼の頭を撫でていた。リンクが困った顔でゼルダを見つめる。やめて欲しいのか、このまま撫でられたいのか、どちらなのかはゼルダにはわからない。
    「よく耐えましたね」
    「…反応すれば更に言われますから」
     ぼそぼそとリンクが喋りだす。一人だけ頑張れば頑張るほどに嫌味を言われる、だけど頑張らなければ頑張らないでどのみち言われる、どうせ何をやってもやっかみと文句を言われるのだし、やらないわけにはいかないし、…とまるで親しい友達相手に話すかのように口調を崩して、リンクが喋り続ける。ひとしきり喋り終えて短くため息をつくと、ゼルダの方を真っ直ぐに向き直った。
    「キスしていいですか」
    「…え?」
     今までの愚痴とキスに何の関係があるのだろう。ゼルダはリンクの思考を読み取ろうと彼の目を見つめた。青く水のような色をした瞳に自分の顔が映っている。この驚いた顔をリンクにも見られているのだと思うと急に恥ずかしくなった。
    「突然ですね」
    「前に許可なくしたら怒ったじゃないですか。だから聞きました」
    「ああ…」
     この場所と同じ場所で。何の前触れもなくいきなりキスをされたので、いきなりしないでくださいとやんわり嗜めた。誰が見ているかもわからない場所で姫と近衛騎士が口付けし合うなど、宮廷人達の口さがない噂の餌食になるだけだ。だから嗜めたのに、リンクにその意図は伝わってなかったらしい。
    「してはいけないというわけではなくてですね…」
    「なら、していいんですか?」
    「そりゃあ、いいですけど──…っ」
     言葉が終わるか終わらないかでリンクが口を重ねてくる。そう急かなくてもいいのに、本当に彼は待ての出来ない仔犬と同じだ。
    「姫様」
    「リンク、やめ…」
    「やめません。いいって言ったのは姫様です」
     二度、三度と唇にリンクの唇が触れる。三度目の後、ゼルダの舌に甘いリンゴの味が広がった。
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