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    しぷら

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    しぷら

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    ダラダラっとした長いだけの王キボ

    空がお天気屋な季節失敗した
    失敗した
    失敗した!!!

    舌打ちを混じえ、泥水を跳ねさせながら青年は雨の中を駆ける
    ザアザア降りしきる雨粒が体や顔を鞭のように打ち付けていく
    今の自分の心境を嘲笑う、おあつらえ向きの悪天候だと青年は苦笑する
    駆け込んだ学園
    学生寮の2階へ、地面を大きく蹴って、ひらりずぶ濡れのマントが翻る
    (なんでココに来ちゃったかな)
    自室ではなく、その隣の部屋を無意識に目指してしまった自分を顧みて、自虐的笑みを零す
    「たっだいま〜〜!!キー坊!!」
    大きく窓を開け放つ

    飾られたジェリービーンズ、水やりのされたガジュマルの植木鉢、使われないベッドにはシャチのぬいぐるみ
    清潔に整えられた室内 けれど部屋主は居ない
    静かな部屋に開けっ放しの窓から入り込んだ大粒の雨が床を濡らし、その音だけが虚しく耳に反響する
    期待した声が出迎えてくれない部屋
    期待?なにを?
    「居ないんだ、キー坊」
    だから何
    マントをもう1度翻して、王馬小吉は窓から部屋を後にした
    雨の強さは変わらないのにどこか胸の奥まで濡れた心地がする
    落胆なんて、するわけない
    濡れ鼠になりながら、雨の中へ消えようとした矢先
    「王馬クン!!」
    聞き慣れた声に振り返る
    水色の傘をさしたロボットの姿
    片方の手にもう1本傘を引っかけて
    「黒いマントが見えたと思ったらやっぱりキミだったんですね!土砂降りの中、何をしているんですか?ほら!傘!!」
    雨に打たれる自分を見かけ迎えに来てくれたということか
    (なんだ、入れ違ったって事……?)
    ふわり、王馬の胸に宿る温度
    「ぶぇっきしょーーぃ!!!」
    「……高校生らしからぬクシャミですね」
    「キー坊がさっさと傘に変形してくれないせいだからな!
    あーぁ、機械人形と相合傘なんて色気が無いなあ」
    王馬は差し出された傘を無視し、キーボが差す傘の中へ入り込んだ
    「わざわざボクの傘に入る必要がありますか?キミの分にもう1本持ってきたのに」
    「いーからホラホラ、早く寮まで行こうよ」
    「理解不能です…」
    狭い傘の中、ふたりは肩を寄せ合わせて寮へと戻る

    自室の前に辿り着いても王馬はそこへ入る事なく、キーボの部屋へするりと上がり込んだ
    「ちょっと!キミの部屋は隣でしょう?」
    「硬い事言わないでよ ロボがカチコチに硬いのは当たり前だけど」
    「それは差別で、…わあぁあ!?部屋が水浸しに?!」
    開いた窓からの大粒の雨がキーボの部屋のカーペットをぐしょ濡れにしていた
    「あちゃー さっき部屋を"間違え"ちゃってさ、ゎっぷ」
    王馬のお喋りが塞がれる
    キーボがふかふかのタオルで顔や髪を拭いてくれていた
    「キミと言う人は!!もう!!
    雨の中捨て犬みたいに泥だらけで何をしていたんですか?まったくぅ…
    とにかくびしょ濡れのままでは風邪を引いてしまいますから、お風呂にでも入っててください!」
    「人間はオイルで髪洗わないんだけど?」
    「ちゃんとシャンプーが有ります!!!」
    「キー坊も一緒に入る?」
    突然の提案にキーボは顔を赤くする
    「は!?な、なにを言って…?!」
    「ば~か お風呂のお供にはアヒルの玩具が定番だっての」
    「ボクを玩具と同一視しないでください!!」
    怒るキーボに促され、王馬は浴室へ押し込まれた

    𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸


    ちゃぷん
    熱いお湯がはられた浴槽
    室内の構図は同じだけれどココはキーボの部屋なんだと不思議な居心地がする
    「キー坊」
    舌先で名前を転ばせば
    浴室の扉越しにヒョコヒョコ動くアンテナが映る
    たったそれだけで王馬の胸は満たされる
    キーボの部屋
    キーボが居る、部屋
    「はい、どうしました?」
    浴槽のドアから王馬の返事はない
    「…王馬クン?開けますよ…?」
    のぼせてしまったのかと心配し覗かせたキーボの顔面に、
    ビュッ
    「ああぁっつう?!」
    王馬の指鉄砲
    「にししっ命中〜覗きなんてエッチだなあキー坊は」
    「違いますよ!〜っっもう!!
    本当にロクな事をしませんねキミは!!」
    キーボのプリプリ怒る声と王馬のはしゃぎ声が浴室内にこだまする

    𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸𓂃𓈒𓏸


    お風呂あがり、王馬はキーボの前に大人しく座り、彼の口から発せられるドライヤーを受けていた
    「生ぬる〜い 市販のドライヤーがどれだけ高性能かって改めて知れる貴重な体験をありがとうねー?おまけに激遅過ぎて、乾く頃にはおじいちゃんになっちゃうよ 歳を取らないロボには些細な事かもしんないけどさー
    そもそもガソリンくっさい口からドライヤーってなに?拷問?」
    「折角乾かしてあげてるというのに、マシンガンロボット差別はやめてください!!」
    「話したらドライヤー止まっちゃうだろー」
    「う……キミから差別的発言をされても言い返せないなんて……ッ」
    悔しそうにキーボはドライヤーを再開する
    そよ風のごとく柔らかな温風が湿った紫の髪を優しく撫でる
    ちゃんと乾かさなければと丁寧に、
    時々タオルで髪を拭いてくれながらキーボが健気に髪を整えてくれる
    後ろを向けた、表情の悟られない状態で居ることに感謝して
    髪を乾かされている間王馬はずっと微笑んでいた
    「ところで王馬クン、今日はどうかしましたか?
    DICEの活動でしばらく留守にすると言っていましたけれど…戻りが早いのでは?」
    「言った傍から口聞いちゃうなんて、物覚えの悪いロボだね」
    「すみません…でもどこかキミが落ち込んでいたように見えたもので…雨のせいでしょうか?
    もしかして、…DICEの活動が上手くいかなかったのですか?」
    1番突かれて欲しくない話題を1番振って欲しくない人物に聞かれるとは
    そしてそれを悟られる程今の自分は"嘘つき"の肩書きが消息するまでに弱っているという事か
    王馬の顔から笑みが消える
    今このロボットの口から発せられるのは心地好い温風だけで良い
    「順調に決まってるでしょ〜?
    この大雨だからね、キー坊が錆ついてないか気にして帰ってきてあげたんだから感謝しろよな」
    「ムッ、ボクの防水機能を侮られては困ります!」
    順調なんて、嘘だ
    活動の途中でミスを犯し、DICEを敵視する反対勢力に追われる事になってしまった
    致命的失敗 迂闊な自分への苛立ちと落胆のまま、超高校級のロボットの部屋に足が無意識に向いてしまったことなど、ひねくれた嘘つきのプライドが素直に口にする事を決して許さなかった
    「ちょっと待っていてくださいね」
    ふと思いついたようにキーボはドライヤーもそこそこに、部屋に備わった簡易キッチンへ向かってしまう
    しばらくして
    「どうぞ!」
    得意気に両手で差し出された、マグカップ
    ほのかな甘いにおいの湯気を立ち込める飲み物は紫色
    「…なにこれ?」
    「キミの好きなプァンタをあたためてみました!!落ち込んだ時には温かい飲み物が良いと聞きましたので!どぉですか?!」
    ドヤ!!、と胸を張るキーボ
    「うわあありがとう!!加熱したせいで炭酸が抜けて、ただの香料の甘みがいやに強められたドリンク提供してくるなんて!
    飲み食いしないロボの考える事には敵わないなーー!!」
    「えっえっ…ああ、あたためてはいけなかったのですか?!」
    「どこの世界に炭酸抜いてプァンタの旨みを消し飛ばしちゃう奴が居るんだよ
    これじゃあったかいぶどうジュースじゃん
    大体さーそれで出すならホットミルクが定番じゃない?」
    「う…この部屋にはプァンタしか有りませんから…」
    キーボの言葉を聞いた王馬の口が止まる
    その様に、失言に気付いたキーボも口を閉ざす…気まずそうに目線を泳がせながら
    「……なんで?」
    飲食の出来ないキーボが食べ物を部屋に備える必要はない
    その中でわざわざ、自分の好物だけが、この部屋に存在していた理由
    王馬の口元は緩んだ
    「ねーなんで?なんでガソリンしか摂取しない鉄の部屋にプァンタしかないのキー坊?」
    言い淀むキーボの頬がほのかに赤く色付く
    「そ、そ、それは………も、もう!!ドライヤーの途中ですよ!!後ろ向いてください!!」
    苦し紛れにキーボは無理矢理ドライヤーを再開させた
    「にししっ不思議だなーねーなんでキー坊?ねーったら、ねーー?」
    「ドライヤー中に話すなと言ったのはキミですよ!!」
    顔を赤くしてキーボは話を逸らしてしまう
    (その反応で今は勘弁してやるかな)
    口の緩みはそのままに、王馬は従う
    ホットプァンタと化したドリンクをチビチビ飲みながら、そよぐ温風に王馬は髪を預けた
    揃えば騒音と謳われるふたりが言葉を交わさない静かな、珍しい時間がゆったりと流れる
    見渡せば自分が学園を離れる前と変わらない、超高校級のロボットの部屋
    触れる部屋主の金属の指に王馬は安堵を覚える
    うとうと、重くなる瞼
    「王馬クン、眠いのですか?」
    「寝ないロボには分かんない感覚だろうけどね〜」
    王馬はキーボにもたれかかった
    「でしたら、ベッドの方に」
    「金属質な脚は硬いなあ」
    コロリ、キーボの脚へ王馬は寝転がり、膝枕を頂戴する
    「ち、ちょっとぉ…」
    「あーぁ…流石は鉄材質 カチコチに硬いね」
    言い返そうとしたキーボだったが、王馬が腰に抱き着いてきてキー坊、キー坊としきりに自分を呼ぶ
    普段の彼とは違う、自分に甘えるような仕草に、胸に芽生えた新たな感情に促されて
    そっと紫の髪を撫でた
    「…なんのつもり?」
    王馬が顔を上げる
    「王馬クン、今日は本当にどうしたのですか?
    何故でしょう…いつものキミらしくないと感じます
    やはりなにかあったのではないですか」
    心配そうな顔でキーボは王馬の顔を伺う
    「……仮に、だとしたら何?
    弱ってる人間の姿見てメシウマってこと?
    ご飯なんて食べれないくせして、お前の心は金属の身体に劣らず冷たいね〜」
    「いちいちロボット差別を含めないと会話出来ないんですか?!
    なんですか!心配してあげてると言うのに」
    「うるさいな〜 察しの通りオレってばおネムなんだから、排気ガス撒き散らしてないで、黙ってれば?」
    「う…理不尽です…
    ひとつ訂正させてもらいますが、ボクは排気ガスなんて発しませんからね!」
    口調は強くありながら、
    柔らかな髪をそっと撫でてくれる金属の指を感じて、ロボット知れず、総統はにんまり微笑む
    再び騒がしいふたりが一言も交わさない時間が訪れるも、1分も経たないうちに
    「ねーなんでお喋りやめちゃったの?」
    王馬の方が先に口を開いた
    「……黙ってろと言ったのは誰なんですか…
    眠れませんか?それならボクが子守唄を、」
    「すぴ〜すぴ〜」
    「わざとらしい嘘の寝息を立てないでください!!」
    「にしし、そのまま明日の天気でも占いでも良いから喋っててよ そーいう機能無かったっけ?」
    「…付いてませんよ…しかしそれで眠れるのですか?やはり身体を休めるのならばベッドで」
    急に王馬は起き上がり目線をキーボに合わせる
    ニタリとした、キーボに嫌な予感を起こさせる笑顔で
    「ベッドベッドって、随分積極的なロボだなあ」
    「…は?」
    キーボが問うより早く、王馬渾身の力でベッドへとキーボは転がされてしまう
    「わあっ!?ちょっと!危ないじゃないで、」
    クッションがロボットの重さに軋み、続いてもう1度、乗り上げてきた王馬の体重で軋む
    「ガソリンくっさい布団だね」
    にじり寄る王馬に体制を整えるより先にキーボはベッドに押し付けられてしまう
    覆い被さる形でキーボは王馬に見下ろされる
    「あ、な、なに……を」
    2本の指がやわらかくアンテナを弄ぶ
    「自分から誘っておいて、素知らぬ振りなんて悪い子だなあ」
    「っあ…」
    ピクン、反応を示す機械の身体
    王馬がゆっくりとした手つきでキーボの腰を撫でていた
    もう一方の手でキーボの銀の髪を優しく梳く
    その手が頬へ降りてきてヘッドフォンの裏側を掻き、次には首元を擽られキーボから力が抜けていく
    ふんわりと王馬から香るシャンプーのほのかなにおいが、近い
    「ぁっあっ…なにか…恥ずかし…んゃっ…」
    腰を愛撫していた指がするりとキーボの太腿へ滑り落ちる
    そのまま、キーボの最も恥ずかしい箇所へと指が這わされて__
    金属の白い頬に赤が差す
    「ど、どこ触って…!へ、へんな事するなら訴え──!!」
    しかしキーボの言葉はくちびるに添えられた人差し指で制されてしまう
    悪戯を企む子どものようで、けれど青年の色気を秘めた王馬の表情がそこにはあった
    「し──…、だよキー坊」
    「んっん……んぅ…ふぁ……」
    くちゅ……っ
    王馬の指が口内に差し込まれキーボの舌を扱う
    ちゅくっちゅくっ…、と舌を可愛がられるのに気を取られている隙に、
    脚に添えられた王馬の反対の手が、キーボの恥ずかしい場所へと滑り落ちていく─…
    「んゅっ…ま、まって…くださ…、やぁ…」
    思わずぎゅっと目を瞑り
    次の刺激に備えるキーボのヘッドフォンに聞こえてきたのは
    「あははははムッツリロボ!なに期待しちゃったの?!嘘だよー!」
    大きな笑い声
    状況に追いつかないポカンとしたキーボを王馬は突然、思い切り抱き締めた
    「な、ななな、な!び、ビックリするじゃないですか!!」
    「丁度抱き枕が欲しかったとこなんだよね
    硬い膝枕よりかは使えるかな」
    「ボクの心を弄ばないでください!!」
    抱き締めたキーボの胸元に王馬は頭を擦り寄せる
    乾かしたばかりのやわらかな紫の髪が、硬い金属の胸をくすぐる
    「…王馬クン…」
    芽生えた淡い感情に任せキーボは再び王馬の髪を撫でる
    慈しむように
    「……キー坊」
    紫と水色、お互いの瞳が合う
    するとおもむろに王馬は上体を起こした
    その顔に、先程の無邪気な表情はない
    真っ直ぐキーボを見詰める深い葡萄色の眼差し
    王馬の顔がキーボへと近づいてくる
    近付く紫の瞳が視界に広がって
    ピントが合わない
    吐息が触れる距離
    首に両腕が回される
    「おう、ま……ク」
    「おやすみ、キー坊」
    くちびるにロボットにはない人の感触を得たと同時に、キーボの視界はブラックアウト
    首の後ろの緊急停止を、王馬が押していた__……



    「どういう状況か説明いただけますよね」
    車内でふくれっ面のロボット
    その隣には黒い例のマントを羽織り満足気な王馬の姿
    あの後、次にキーボが再起動し、開眼した時には白い団員服を纏ったDICE集団に囲まれた、見知らぬ大型車内だった
    総統ぜんとしてふんぞり返っている王馬をキーボは睨みつける
    「いやあ、だってキー坊って録音と録画機能無駄に付けてるでしょ?
    敵の多いオレの秘密をネジの抜けた頭でポロッとバラしちゃうかもしれないし、回収しとくべきだよねー」
    「回収だなんて、物扱いはやめてくださいと何度も──!」
    「だってキー坊は人じゃないでしょ?」
    「さ、差別です…!今度こそ訴訟しますからね!」
    後部座席のふたりの口論を聞きながら
    総統は相変わらず素直じゃない、と団員達はこっそり顔を見合わせる
    対抗勢力に追われていた身だ
    王馬が転がり込んだ先の、キーボにいつ危機が降り注ぐか分からない
    行動を共にしていた方が王馬としても安心出来る
    コロリ、と王馬はキーボの膝に寝転がり、腰に抱き着いた
    嬉しそうな笑顔にキーボの胸はむず痒いような、昨晩と同じくすぐったさを覚える
    「い、いきなりなんですか?!ち、近いです!」
    「しょうがないじゃん 急ハンドルでバランス崩しちゃったんだからさー」
    ……この道は直線コースだ、と団員達は仮面に隠れて笑う
    「ほ、ほら危ないですから!シートベルトをきちんとしてください!」
    キーボの膝でくつろぐ王馬は起き上がる気配もない
    王馬に密着され恥じらうキーボは顔を染めながら縮こまる
    その様に総統様は随分と満足気
    「ねー喉乾いちゃった なんか買おうよ」
    コンビニ寄ります、何にしますかと聞く団員に王馬はにっこりと、
    「ホットプァンタ、有る?」
    団員達は不思議そうに顔を見合せた

    雨上がりの空に虹が架かる、今日の天気は晴天
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    💜💙💖💖💘
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