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    しぷら

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    しぷら

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    夏の王キボ
    付き合ってないけど…、なふたり
    ホラーを目指した…つもり

    育成~ハピ時空

    #王キボ

    手招く怪蝉達の声が木々のあちこちから響き渡る
    日に焼かれた草花からかおる香ばしい夏の匂い
    もう日が暮れるというのに夏の夜はじっとりと発汗機能を備えたロボットのボクの首筋にも汗を伝わせる
    聞こえてくる、賑やかな祭囃子
    今夜は希望ヶ峰学園で夏祭りが開催されている
    いつもの制服ではなくて、色とりどりの浴衣に身を包んだ生徒達の姿がとても華やかで、趣を感じます
    一緒にお祭りをまわると約束したクラスメイトの皆さんを待つボクも、浴衣をボディに纏っていた
    キミの瞳に合わせてみたんだと博士に見繕ってもらった、淡紫の桔梗の花模様が施された、薄浅葱色の浴衣です
    ふっふっふ~!日本の趣が分かるロボットなんて、そうそう居ませんよ!
    我ながらとても似合っていると思うのですが
    これなら普段馬鹿にしている彼だって、
    「あり~?輪投げの景品がこんなとこ佇んでちゃ駄目でしょ?」
    ひょっこりと"彼"が現れる
    …得意になった矢先、思い切り出鼻をくじかれてしまいました…
    いつもしているスカーフと同じ、白黒の市松模様をした浴衣姿の王馬クン
    「ボクをモノ扱いしないでください!それより、どぉですか?!今日のボクは!
    いつもよりキマっているでしょう?!」
    両腕を広げて見せつけてやります!
    「あぁ!単3から単4電池に変えたんだね!」
    「透視能力でもあるのですかキミは?!ってそうではなくて!!そもそも、ボクは電池なんて、」
    「そんなの良いからさ~全員集合の前にちょっと見て回ろうよ!」
    そ、そんなのって……ぅう゛…折角博士に着付けを手伝って頂いたのに…

    強引に王馬クンがボクの手を引っ張って到着した先は射的屋だった
    勝手に連れてきたくせに、ロボはレーザーで反則するから駄目だなんて口を尖らせる王馬クン
    こうなったら、そんなもの搭載されていなくてもボクだって景品を手に入れられると見せてやりますよ!!!……と挑戦してみたものの、ボクの弾は「ノーコンロボ!!」と王馬クンに笑われるばかりで、1発も当たらなくて…ぅぅう
    その横で王馬クンは次々とお菓子の箱や袋を撃ち落としていく
    そんな彼を横目にふと、
    彼の首筋に汗が光っているのを目にする
    普段スカーフで隠れているために覗く首筋が新鮮に感じられて
    それに玩具のライフルを構える、少しだけ日焼けした腕は華奢に一見見える体格に反し、ガッシリと逞しい
    首から伝う汗が開けた胸元へ滑り落ち、提灯の灯りを受け輝いている
    う゛…悔しいけれど、カッコイイと認めざるを得ませんね……
    「な~にジロジロ見てんの?いよいよビームでも出しちゃう?」
    ボクの視線に気づいた王馬クンに悪戯ぽい笑顔を向けられる
    「そんな物騒な機能付けていませんよ!」
    否定するボクに突然、すき焼きキャラメルの箱が投げられた
    「はいよ、景品 キー坊欲しかったんでしょ?」
    「…食べ物なんて欲しがると思いますか?」
    恨みがましく、ちょっと彼を睨んでやります
    「だよねー!食べられないって事"ちゃっかり"忘れてたよ!」
    彼はそう言うとカラカラ笑いながらキャラメルの箱を奪って、代わりにシャチのぬいぐるみをボクに押し付けた
    「ぁ、あの、これ」
    「ん?ロボにはお似合いでしょ」
    キャラメルひとつ口に放って
    彼が笑いかける
    ボクの頭を軽くポン、と撫でながら
    …その途端、急にそのぬいぐるみが愛おしく感じられて、ボクは受け取る事にした
    ヤッチーくん、とタグに書かれたぬいぐるみは腹部を押すと、シャチを模した鳴き声を発したり喋りかけてくるよう出来ているらしい
    試しに1度押してみると、キュー!!と高く鳴いた
    なるほど、造りは単調で超高校級の素晴らしいボクに比べれば劣りますが…なかなか可愛らしいですね

    キュー!こんにちは!
    何かお困りですか!?
    キュキュ!ヤッチーくんです!






    おいで



    「え?」
    ヤッチーくんじゃない
    高い機械音と異なりその声は静かに、重く響いてきた
    …何故だか、ヘッドフォンではなく頭に直接聞こえてきたような……
    振り向くとお面屋の屋台に
    ポツンと小さな少年
    提灯の暗がりの中で、1人佇んでいる
    薄汚れた着物に、狐のお面を被って
    丸くくり抜かれた面の黒い目が一直線にボクを捕らえて、手を招く


    おいで


    おいで


    ボクを呼んでいる……
    鮮やかな祭りの色が、くらりと朧ぐ
    ボクのヘッドフォンから音が消えて
    少年の声だけが、響く──
    …ボクになにか、用ですか……?


    おいで


    ……行かないと、…

    ふらりと足が、そちらへ吸い寄せられる──…

    「キー坊?」
    視界いっぱいに紫が広がって、ハッと我に返った
    祭りの賑やかな音がヘッドフォンに戻ってくる
    「暑さでオンボロ電子頭脳が更にイッちゃった?」
    ひらひら目の前で手の平を振り馬鹿にする王馬クン
    「ボクは最新型ですよ!失礼ですね!今そこに、」
    お面屋の方へもう1度顔を向けたけれどあの少年は居なくなっていた
    「あれ…」
    「おっ!百田ちゃん達やぁっと来た!にししっチリトリロボのお守りをオレひとりに任せたお礼に、焼きそば奢ってもらおっと!」
    王馬クンに引っ張られ、ボクも後に続く
    それにしても…あの子はどこであんな面を手に入れたのでしょう…
    アニメのキャラクターやモノクマのお面が様々に並ぶ中、あのお店にはひとつも狐の面など無かったのに……



    「ほらキー坊さっさと行った行った!
    スーパーボールすくい対決、ビリはお前だったんだからなー!」
    「ば、罰があるだなんて聞いてませんよ!」
    「そりゃそうでしょ今オレが決めたからねー早く1番を勝ち取ったオレにご褒美ジュース買ってきてよ、プァンタって事忘れるなよな、ビリロボ!」
    「ぅぐぐ…ズルばかりしていたくせに…!」
    「おらさっさとしないと、廃品回収行きだよ?」
    言い出したら王馬クンは聞かないので従うしかありません…
    幸い大っ嫌いな自販機まで行かなくてもジュース屋で彼の好物を見つけました
    紙コップに注いでもらったジュース
    早く戻らないと、次はどんな悪態を受けるか


    おいで


    「…あ」
    こんなにも大勢の人が騒いでいるのに
    はっきりと聞こえてきた、呼び声
    声のした方へ目を向ける
    あの狐面の少年が灯りを避けるように校舎の影に立っている


    おいで


    「…ボク……ですか?」
    小首を傾げる
    少年は、こっくり小さく頷いて
    数歩後ろへ歩いていく
    「……まって…」
    少年が振り返る


    おいで


    手招いてボクを呼ぶ
    暗がりの中へ入り込んでしまう少年
    「…まって、ください……」
    ボクの手から紙コップが滑り落ちる
    ぱしゃん、と乾いた音が地面に木霊したけれど
    ボクが気に止めることはなかった
    暗闇へ消えていく少年を追いかけなければ──……




    「んもぅ!あのポンコツどこ行ったんだよお、オレの喉干からびさせる気ィ?!」
    「クックック…いい風が吹いてきたネ…」
    いやに生温い風がオレのくせっ毛を撫で付けた
    「夜の帳が降りてくる、紫と橙をした夏の暁…どこか妖しげな祭囃子…ククッ…こんな夜はひょっこり、うつしよに在らざる者が現れても可笑しくはないネ…」
    うわあ出た出た、真宮寺ちゃんのエセオカルト!!って喉まで出かかった言葉をオレは飲み込んだ
    ポンコツの名がその口から転び出たからね
    「時にキーボくんだけど、民俗学的観点から見ても、興味深いと最近思い直したヨ…気をつけた方が良いかもネ…古来より人を模した人形へ取り憑く悪霊の話は数多存在するけれど、キーボくんは似て非なるもの…ロボットという造り物の身体に彼としての魂が備わっているキーボくんは、魂の拠り所を失った彷徨える者たちからすれば、とても興味をそそられる存在だからネ…
    ………おや、そう言えばまだ戻らないみたいだけど…」
    「あの鉄人形に心や魂が入ってるわけないじゃーん!!それって真宮寺ちゃん渾身のギャグ?たは〜!!笑った笑った!嘘だけど
    あっ!フルーツ飴屋が有る!オレぶどう飴にしよ〜っと!」
    神経を抜き取りそうなほど鋭い眼差しを構える真宮寺ちゃんから逃げるように、オレは飴屋へ駆け出した




    「まってください…まって…」
    どこまで…行くんでしょう……
    少年を追って、深い深い森の奥…
    日が傾いて、辺りが暗くなる……
    木々の緑が黒へと色を変えていく…


    おいで


    少年はどんどん奥へと行ってしまう…
    追いつかなければ……待って……置いていかないで……
    ふらりふらり、覚束無いボクの足取り
    瞬きひとつの間に少年は森深くへと進んでしまう……
    日が暮れていく………
    周りは見る見る暗くなる……


    おいで


    おいで


    オイデ、




    キューーー!!

    ………あの鳴き声は………
    ゆっくり、音のした方を見渡す
    傍らの茂みに転がる、シャチのぬいぐるみ…
    見覚えがあります…
    あのぬいぐるみ……あれは確か、彼が……
    「…おうまクン……、?」
    口から零れた名前
    その瞬間、頭の霧が晴れたようにボクの思考が急にクリアになる
    「ぁ、ヤッチーくんが…」
    地面に落としてしまった時にお腹が押されたのでしょうか
    ヤッチーくんを拾い上げ、視線を上げたボクは視界一面に広がる黒1色に竦み上がる
    「…ココ、どこなんですか……?!」
    校庭中に飾り付けられた提灯の灯りもはしゃぐ生徒の声も何1つと無い鬱蒼とした森
    ヘッドフォンを塞ぎたい程に鳴いていた蝉も、夏の夜虫の声1匹さえしない
    冷気が首を撫でる
    うだるような肌に張り付く、夏の蒸し暑さはどこにもない───
    可笑しい
    だって、
    希望ヶ峰学園に森なんてない────


    あの少年が森の木立からこちらを凝視している
    身動きひとつする事なく
    「ココは何処ですか…?」
    少年は答えてくれない
    ただ、じっ……とボクを見詰めている
    その背後に闇が広がっている


    ちょうだい


    「え…ヤッチーくんを、ですか…?」
    無意識にぬいぐるみを抱く腕の力を強めていた
    駄目です だってこれは彼が、ボクにくれた物なんですから……


    ちょうだい


    再度直接頭に聞こえてくる声
    少年の、狐面の暗い目はヤッチーくんではなく、
    ボクに向けられている


    ちょうだい


    繰り返される催促
    冷たい夜風にアンテナが寒気立つ
    ドクンドクンとコアが脈打つ
    ボクは声を発せれなくなっていた
    何故、発声機能に支障を来たしたわけでもないのに─…


    少年が再び手招きを繰り返す
    無機質な面の黒い目がボクを見据える
    全身が冷えきって震えが走る…
    この感情は学習しています………
    これは、"恐怖"─……


    ちょうだい



    ちょうだい


    足が立ち竦む
    ──動けない


    少年はもう手招きをしない
    金縛りに陥ったボクの方へ滑るように近付いてくる
    足音もなく
    少年から視線を外す事が出来ない
    黒い目が近付いて来る
    その闇に飲み込まれてしまう
    ゆっくりと少年がボクへ手を伸ばす
    声さえ挙げる事の出来ないボクは、胸の中のヤッチーくんを思わず抱き締めた
    暗がりの中で青白く浮かび上がる白い手がもう間もなく、触れる

    悟ってしまう
    きっともう、帰れない
    彼に、2度と会えない……


    ちょうだい


    ちょうだい







    寄越セ。





    「キー坊」
    ふわり手に宿る、あたたかさ
    振り返れば、彼が居た
    「……王馬クン…」
    握られた片手からじわりと温もりがボクを巡り
    その途端、蘇る夏虫の鳴き声、気怠い暑さ
    「もー!!お使いも出来ないのかよ!地図機能付いてる?こんなとこにプァンタが売ってるとでも思っちゃった?」
    「こんなとこ、て……」
    もう1度辺りを見渡せば
    ボクが居るのは森では無かった
    ここは、墓地だ──
    ボクは小さく古びた、墓石の前に立っていた
    「…享年から見るに子どものお墓だね」
    「…………。」
    墓石を見詰め立ち尽くすボクは不意に手を引っ張られてバランスを崩しかける
    「王馬クン、い、痛い…です」
    キツく手を繋いだまま、墓地の出口へと彼に連れられる
    絶対離さない、というように強く結ばれる手
    「ボクを捜しに来てくれたのですか…?」
    汗が滲む彼の肌 小刻みに上下する肩
    蒸し暑い中、探し回ってくれたのでしょうか…ボクを……
    「ロボのくせに自意識過剰だね〜 美味しそうな屋台の匂いを辿ってきただけだよ?」
    こんな学園から離れた所までですかという問は彼に込み上げて来た感謝と愛おしさに包まれて
    ボクは言葉を飲み込んだ
    これが空気を読む…という事でしょうか
    「ねー早く行こうよ
    オレまだぶどう飴も唐揚げも、ベビーカステラも食べてないんだからな!」
    「…まだ食べる気ですか?」
    「当たり前じゃーーん!屋台全制覇がお祭りの基本だろ?
    キー坊だって折角カッコ良くキメてきた浴衣、こんなとこで埋めとく気は無いでしょ?」
    「…え」
    今なんて
    ボクの手を引く王馬クンの顔はこちらから見れないけど、ヘッドフォンに録音された言葉でボクの胸がときめきを覚える

    おいで

    またあの声が聞こえる
    けれど、にしし、と、嬉しそうな隣で聞こえる笑い声にその声は包み消されてしまった──



    ✩.*˚


    ミンミンと蝉が鳴く
    残暑はまだまだ厳しいですね
    鉄の装甲をしたボクのボディは照りつける太陽の下、じりじりと焼けるようで、暑いです
    ボクはあの小さな墓石の前に来ていた
    弔いの作法は博士に先日、習いました
    えぇと確か…桶に汲んだ水を杓で墓石にかけて
    お線香を立てる…でしたよね
    一通り済ませ、目を閉じて手を合わせる
    ヒヤリ
    「うわあ?!!」
    急に首元を襲った冷たさに飛び上がった
    「あはははは!ビビり!」
    「王馬クン?!何故ここに?!!」
    「うん?オレってば幽霊だから、墓地に居ても可笑しくないでしょ」
    またそんな嘘をついて…と答えになっていない彼を苦々しく見つめていると
    ボクの首へ当てた、冷えた缶ジュースを墓石の横へ供える王馬クン
    「………付き合ってくださって、ありがとうございます…」
    「オレが好きでやってるだけで別にキー坊のためじゃないんだけどなー」
    そういう事にしておきましょう
    ボクの手をあの時の様に取って、王馬クンは歩き出す
    …不思議とボクはそれに抵抗したい気持ちはなく、指を絡め返していて
    そんな自分に驚きつつも、胸の高鳴りに従った
    「にしてもあっちぃねー…キー坊の頭がこれ以上ショートしないうちに早いとこプール行こうよ!あぁ錆ちゃうか」
    「ムッ、ボクの防水機能を侮ってもらっては困ります!バタ足だって出来るようになったんですから!……浮き輪が有れば、ですけど」
    「よぉし、ウォータースライダーにキー坊流して遊ぼっと!!」
    「そんな危険な流しそうめんならぬロボはやめてください!!」
    彼に手を引かれて走り出す


    ちりん


    背後の墓石から聞こえた鈴の音
    まるで感謝を告げるように
    あの少年の声にも似たその音は、清く夏空に澄み渡って、消える…



    抜けるような青空にどこまでも白い入道雲が映える、そんな夏の日のことだった
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