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    n_lazurite

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    Xに載せてるやつを此方にも(初出2025/1/5)
    ご都合時空の裂浪。ふよちゃんの朝支度をするレッちゃんの話。

    ##裂浪
    ##ご都合時空

    朝支度の話 朝。寝起き半覚醒な浪巫謠の姿を見て、裂魔弦は仕方ないなぁと思う――ではなく、むしろこれぞ好機とばかりに相棒の身支度を手伝い始めた。
     寝間着を着替えさせて帯を締め、髪を整えて三つ編みに。装飾をひとつひとつ丁寧に付けさせ、最後に水晶の冠を髪に飾りつければ完成。普段と違わぬ『浪巫謠』の姿へと仕立て上げた裂魔弦は満足げに顔を綻ばせて「出来た!」と声を上げた。
     瞬間、はっと我に返るように、巫謠の翡翠に理性の色が灯った。そうしていつの間にかすっかり身支度が済んでいる己の有り様に気づき、言葉なく驚愕を示す。僅かに丸くなった双眸に気分を良くした裂魔弦は、どうだとばかりに胸を張った。
    「手足があるってのは便利なもんだよなぁ。世話を焼きたい時にいくらでも手が出せるんだからよ。どうした浪、驚いたか? 伊達にお前さんと長年一緒に過ごしてきたんじゃないぜ。普段のお前の装いくらいなら、着させ方もすっかり覚えてるってもんだ。ま、見るのと実践するのとじゃ当然勝手は違うが、初めての仕事にしちゃ上出来だろう?」
     問えば、未だ困惑が解けない表情のまま、こくん、と縦に振られる首。そのどこか稚い所作に悪戯心が湧いた裂魔弦は、にまりと意地悪く口角を釣り上げて、巫謠の耳元に顔を寄せた。
    「もちろん、脱がし方だって完璧だぶふっ!!」
     最後まで言い終える前に口許目掛けて容赦なく飛んできた張り手に言葉を遮られる。琵琶の時のような折檻は出来ないとはいえ、余計なことを口走るお饒舌りへの巫謠の制裁は人型相手でも健在なのだ。むしろ、人体相手の方がやり方として物理的な威力が大きい分、普通に痛い。琵琶であれ人であれ、もう少し旅の道連れを大切に扱ってほしいものである。裂ちゃん悲しい。
     などと心の内で泣き真似などしていると、不意に目の前へ何かが差し出された。ずいっと眼前に晒されたのは巫謠の左手で。一見普段と変わりないその指先に何か違和感を覚えて、あ、と一拍遅れて気づく。
     普段ならば紅の色を乗せているはずの左手の爪は、今はまっさらな素の肌色のままだ。
     とはいえ、流石に爪紅を上手に塗りつけるような技術は裂魔弦にはない。人型を自ら繰るようになって浅い年月の中、我ながら小器用な方だとは自負しているが、正直これに関しては自信などない。
     どうしたものかと主人に窺いを立てる犬のように巫謠を見遣れば、感情の揺らぎを乗せない凪いだ翡翠の色に見つめ返されるだけだった。言葉は無くとも、状況から答えは言わずと知れる。そもそも、長年を共に過ごした聆牙裂魔弦には、おしゃべりな己とは真逆に、口よりも多くを語る眼差しの言わんとするところなど当然のように理解ってしまう。つまり結局は、お前が塗れ、ということだ。
    「……失敗しても怒んない?」
     おそるおそる差し出された左手を取り、最終確認をとる。じ、と真っ直ぐに裂魔弦を見つめる翡翠の下で、真一文に結ばれていた唇がゆるやかに綻んだ。
    「怒らない」
     だから、
    「――全部、お前が仕上げてくれ」
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    n_lazurite

    DONE魔界暮らしの裂浪小話。
    ふよが日に日に冷たくなっていく気がして不安な裂ちゃんに、ならお前が温めてって添い寝要求するふよの話。ふよの執着が重いので注意。

    いつか絶対一線越える気満々ですやん(
    その熱で息づく為に「――酒でも飲めばあったかくなんのかね」
     言葉だけ取れば冗談じみたことを、如何にも真剣な表情かおと声で言うものだから、率直に言って巫謠は呆れた。
     ちゃぷりと水の揺れる音がして、素足を浸した桶の中の湯が朱い掌にすくわれる。それが足首の辺りから丁寧にかけられていく度に、忘れかけた温みが足先から身体の奥へと伝わっていく。それを何度も繰り返されて、両の足はもう十分すぎるほどに温められていると思うのに、裂魔弦は未だ納得がいかないようだった。珍しく難しい顔をしたまま、日に焼けにくい白い足をじ、と注視している。
     もういい、という意思を込めて、つま先を僅かに蹴り上げる。ぱしゃり、と小さく跳ねたお湯のひと粒が裂魔弦の頬に当たった。それを気に留めた様子はなく、けれど巫謠の言わんとするところを的確に察した碧の眼差しが、不服そうに細められる。そのまま暫く無言で見つめ合えば、やがて諦めたように裂魔弦は桶から巫謠の両足を引き上げさせ、間近に置いていた手拭いでぱたぱたと滴る水気を拭っていった。
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