しくじった。
『トリオン露出過多』
機械音声のアナウンスが走る。
辛うじて銃口は向けたまま、相打ちで倒した相手が先にベイルアウトし空に打ち上げられた。
(二宮さん、すみません)
脚を削られ、バランスを崩し地面に倒れたおれは残り僅かなトリオンが切れるまで為す術もなく内部通信に頼る。
このラウンドは確実に点を稼ぎたかった。辻ちゃんは結果を残して退場し、残り二宮さんだけであと1部隊2名と戦う羽目になるなんて。
二宮さんは強い。強いけど完璧じゃない。それはおれが1番よくわかっていた事じゃないか。他の誰よりも、あの人の隣に立って見ていたこのおれが。
もっと上手くやれたはずだ。あまりの歯痒さに自分が許せない。
(謝るな。よくやった、犬飼)
脳内に響く言葉に目を見開く。負の感情に支配された頭が晴れるような、天上の声。
顔にヒビが入る音がする。構うものか。悔しさと嬉しさで爆発しそうな感情が抑えきれない。
「っ……行け、二宮さん行け!」
空を見上げ、遠くのけたたましい破壊音に向かって叫ぶ。
『ベイルアウト』そこでぷつりと音が止んだ。
仮想空間から戻ったまま、マットレスから立ち上がる気になれず二宮さんから賜った言葉を頭の中で反芻する。耳で聞く普段の会話とは違い内部通信の脳に直接響く音は、ひときわ心を強く揺さぶられた。
なんて単純!たった、たった一言なのにそれが今、おれのすべてになる。
「犬飼先輩なにやってるんですか。まだ対戦は続いてます」
「ごめん、今行く」
慌ててモニターの前に向かったところで、相手が二宮さんに蜂の巣にされ、試合終了が告げられる。
「やりましたね」
「うん」
返答もそこそこにベイルアウトルームへ戻る。
早く二宮さんの顔が見たい。自分の失態をもういちど謝罪し、そして勝利したおれの隊長を称賛したい。
今はまだ、従順な部下の顔をするから。
「お疲れ様です、二宮さん」
あなたの名前に込めた欲望にどうか気がつかないで。
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某ダ(戦闘機の出る映画)のセリフを言ってもらいたくて書いてはみたものの、過去一度しか観てなく不安なのでワンクッション