杪夏 今年の夏は例年にない猛暑になりそうです、熱中症にご注意ください、と朝のニュースで報道されていたのを思い出す。たしかに異様な暑さだ、と二宮は実感する。本部の中は空調が効いていて涼しい。汗が流れる不快感がないだけで随分と楽だ。人気のないランク戦ブースを通り抜けて作戦室に向かう。日中は人の多い場所だけにその静けさが少し不気味だ。自分の足音が耳元でやけに大きく反響している。
「二宮? どうしたこんな時間に」
呼び止められた声の方向を向こうとしたとき、一瞬、ぐらりと脳内が揺れた。平衡感覚が狂って地面がどこかわからなくなるように錯覚する。一度ゆっくりと瞬きをすると幾分かましになった気がした。やがて地震の揺れが収まるように、視界が元に戻っていく。目の前にいる太刀川に気づかれないように小さく息を吐いた。
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