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    slow006

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    slow006

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    第17回 菅受けワンドロワンライ、「嘘・ハプニング」及菅で参加させていただきました。麦茶カランができたので満足ですが、時間が色々足りなかった。もうちょっと細かい描写入れたかった。

    嘘つきジージーと蝉が鳴く。夏休み真っ只中の小学生がはしゃぐ声が聞こえる。生温い風がそよりと部屋を抜けて窓辺に吊るした風鈴が揺れる。外の明かりに頼った室内は薄暗く、窓一面に広がる青色はまるで額に収まった絵画のようだった。外は雲ひとつない青空で、まさにレジャー日和。今遊ばずして、いつ遊ぶ。夏の陽気に誘われて外へ繰り出すぞ!とはならず、及川と菅原は勉強会を開いていた。夏休みと言えど受験生。部活がない日は勉強だ。及川の部屋に折り畳みのテーブルを広げ、それぞれの得意教科を教え合っていた。参考書を共有しやすいようにL字に座り、黙々と勉強。つい先ほどまでは。

    「ごめん、パーカー踏んで滑った」
    「や、大丈夫」

    今は、及川が菅原を押し倒し、すっぽり菅原を覆っている。きっかけは「麦茶、おかわり持ってくるね」と及川が立ち上がったこと。その足元には菅原を迎えに行く際に来ていたUVカットパーカーがあった。すべすべした素材のUVカットパーカーは滑りやすい。おまけに畳の上だと摩擦も少ない。つるりと滑ってすってんころりん。そばにいた菅原を巻き込んで、という具合である。幸いにも、及川が咄嗟に床に手をついたため菅原を押し潰すことはなかった。自分の下にいる菅原も、見る限りどこかを強く打った様子はなさそうだった。大事な時期に怪我をしたりさせたりするのは困る。及川はホッと胸を撫で下ろし、もう一度菅原のほうに目を向けた。

    色素の薄い柔らかそうな髪が畳に散らばっている。及川の下にある身体は、スポーツをやっているだけあってしっかり筋肉がついているが、それでも及川よりは細く薄かった。こくりと動いた喉をつい目で追ってしまって、沸々と沸き上がる衝動をぐっと抑え込む。とりあえず、どかなきゃ。足元を確認し、身体を起こそうとすると、じっと及川を見つめるアーモンド型の少し吊った目に気がついた。真っ直ぐ及川を見据える視線にぎくりと身体が動かなくなる。

    「なぁ、」

    動きを止めた及川に菅原が声をかける。その声にはほんの少し揺らぎがあって、菅原が緊張しているのがわかった。

    「今さ、俺のこと、どうにかしたいって思った?」

    及川と菅原が務めるセッターというポジションはチームの司令塔だ。試合の状況はもちろん、相手の動き、チームメイトのその日のコンディション、さまざまなことを考えてトスを上げる。ゆえに、観察力に長けている。詰まるところ、及川の衝動も、菅原の緊張も、互いに伝わっていた。気が付くと心臓が早鐘のように打っていた。するり、菅原の手が伸びて及川の頬に触れる。菅原の手も及川の頬も境界がわからなくなりそうなくらい熱い。せっかく飲み込んだ衝動が再び迫り上がってくる。もっと触れたい。抱きしめたい。キスしたい。直接肌に触れてみたい。それは目の前の菅原も同じのようで、いつのまにか両腕が及川の首に巻き付いている。

    「俺、今、スガちゃんのこと……」

    衝動が破裂しそうなくらい大きくなったとき、カランと涼しげな音が響いた。突然の音に二人の身体が跳ねる。音の方向は机の上。氷だけ残ったコップが汗をかいている。氷が溶けたのだ。

    及川は菅原の腕を解いて身体を起こし「本当にごめんね」と謝ってから、麦茶のおかわりを取りに部屋を出て行った。寝転んだままの菅原は「おー」と気のない返事をして、行く場がなくなった手で顔を覆った・

    「嘘つき」
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    Replies from the creator

    slow006

    DONEリプorマロ来たセリフで短編書くで、リクエストしてもらいました!
    思い出を全部大事に抱えているのは、及川の方だと思っている。
    ねぇ、こうちゃんいつのまにか眠っていたようだった。
    日曜の昼下がり、暖かな春の空気に包まれて菅原はすっかり眠くなってしまった。ぼんやりとした頭と気怠い身体に逆らうことなく、居間にあるソファーに深く腰掛け、微睡むこと早一時間。せっかくの休日が……と、のろのろ身体を起こすが、左手だけ自由が利かず、立ち上がるまでには至れない。仕方がないかと半開きになったベランダへと続くガラス扉のほうを見る。すると、網戸越しにベランダの手すりの上をするりと通るかたまりが見え、菅原は二十代の頃に暮らしていたアパートを思い出した。同じようにベランダの手すりの上を滑るかたまり。斑ら模様を歪ませながら手すりの上を器用に歩くのは、菅原の住むアパートの、二軒先の戸建てで飼われている猫だった。さぞ良いものを食べているようで、外を出歩いているのにも拘らず毛並みが良く、水晶玉のような瞳はきらきらと輝いていたのを覚えている。いつだって仏頂面をしているその猫はどこか及川の幼馴染である岩泉を彷彿とさせるため、菅原は勝手に「岩泉」と呼んでいた。それに対し、及川は「スガちゃんさあ、よく見て!岩ちゃんはもっと愛嬌ある顔してるし!」と遺憾の意を示したが、菅原がそれを受け入れることはなかった。そもそもこの猫が家人に「ミーコ」と呼ばれていることを知っている。それでも、菅原にはもう岩泉にしか見えないので「岩泉」なのだ。
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    slow006

    DONEリプorマロ来たセリフで短編書くで、リクエストしてもらいました!
    弱っている及川さん良いよねと思いつつ、こんな弱り方するか?と己の解釈と戦っている……。想定していたシチュじゃなかったら申し訳ない……。
    何も云わないで薄暗い玄関にいた。春からの新生活に向けて引っ越したばかりの部屋は物が少なく、未開封の段ボールがそこらかしこに鎮座している。引っ越した、と言ってもまだ準備段階。ここに住んでいるわけではなく、住環境を整えている真っ最中だ。照明もまともに機能しているのは部屋のなかだけ。玄関は用意していた電球ではワット数が合わず、そのままになっている。

    三月も終わりに差し掛かった頃、菅原のもとに一件のメッセージが届く。「これから会えない?」とただ一言。差出人は及川徹。半年ほど前から菅原と交際をしている、要は恋人である。恋人といっても付き合い始めた時期が悪い。部活だ受験だと慌ただしく互い違いになることもしばしば。そもそも通う学校が違う。きちんとしたデートは指で数える程度。なんとか隙間を見つけては逢瀬を重ねていたが、それでもやっぱり恋人というには時間が足りない気がしていた。そして、この春から二人は離れ離れになる。菅原は地元の大学へ進学。及川は単身、アルゼンチンに行くという。どうやら知己の人物を師事してとのことだが、よもや誰が予想できただろうか。それを初めて耳にしたとき、菅原は「そっか」とただ一言だけ返した。完全なるキャパシティオーバーで受け止めるのがやっとだった。
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