シュウとコンビニに行くとき、プリンを買っているのをよく見る。プリンが好きなのかと聞けば、大好き、と返ってきた。それから、俺は買い物に行ったときはプリンを買うことが多くなった。
「シュウ!見て、新作見つけたんだ!冷やしといて後で一緒に食べよう!」
「わ、ほんとだ!ありがとう、かぼちゃプリンは食べたことないかも。楽しみだね」
冷凍庫へと連れて行かれるプリンを目で追っているシュウを横目に、ルカは口角が上がった。
にこにこしながらかぼちゃプリンを食べるシュウを眺める。夕食後のデザートとしてソファーで肩を並べてスプーンを口に運ぶと、甘い滑らかな食感に、鼻に抜けるかぼちゃの香り。プロのなせる技にルカは感嘆した。
「美味しかった〜!ルカ、ありがと。ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
プリンのカップとスプーン二つを握って、キッチンへ立つとシュウは歯磨きをしながらルカの横で食器を洗うのを眺めていた。
この後、皆でゲームを予定しているシュウを部屋へ返すと、ルカは改めて両方の袖をたくし上げた。
「よし、」
買い出しの時に買ってきていた材料をキッチンへ広げていく。ここ数日、ネットに載っている記事を読み込んだり、たくさんの種類の動画を見た。きっとうまくいく。
ルカは冷凍庫で冷やされていた卵を軽く台に打ち付けると、中身をボウルへと流し入れた。
砂糖水を煮詰めて、茶色のどろどろした液体にお湯を少し注ぐと、勢い良く蒸発した音がした。同時にきつい匂いが鼻をつく。
「うわッ!!」
顔を背けてしばらくかき混ぜていると、見知った液体になり、匂いもカラメルそのものになった。
「ダメだ……」
お店に並ぶプリンとは違い、気泡がたくさん入ってしまっている。まだ熱いままのプリンにスプーンを差し込むと、表面だけでなく中身にまでぷつぷつした気泡が見えた。これじゃあ舌触りが悪くなる。スマホでもう一度作り方を確認して、次こそは、と新たに卵を割った。
翌朝、起きて一番に冷凍庫へと向かう。昨夜二度目のプリンの出来映えの確認の為である。冷やされて程よく固まったプリンをスプーンで掬って確認すると、一度目よりは気泡がへっているものの、完全に無くなってはいなかった。
「やっぱり…」
デザートを作るのが難しいと分かってはいても、二度目はあれだけ慎重に進めていたのにも関わらずやはり失敗してしまった。味はいけてると思う。多分。練習していたらコツが掴めるはずだと信じて、回数を重ねるため、シュウが起きてこないうちに三度目のプリン作りが始まった。
「ルカ!冷蔵庫にプリン入ってる!でもこれ…」
「あー…それは食べない方がいいかも」
「ルカのプリン?」
「いや〜…シュウにあげるつもりで作ったんだけど、あんまり上手くできなくて、」
瞬間、見開いた瞳は光を取り込んで輝いた。
「やっぱり!手作りだ。食べたいなぁ?」
「んー…シュウがいいなら…」
「やった!」
ランチ後のデザートだと少しだけはしゃいでいるシュウがプリンを片手にテーブルに着く。スプーンをプリンカップの底まで差し込み、カラメルと一緒にすくい取られシュウの口内に収まった。
「ん、美味しい。…ルカも食べてみて」
再びプリンをすくったスプーンが向けられる。小さな気泡がところどころある断面を見て、やっぱり、と少し落ち込んでからそれを受け入れた。レシピ通りに作った一、二回目が少し水っぽかったから牛乳を気持ち減らしてみたのだが、それが良かったのか舌触りの良い滑らかなプリンが生まれていた。
「あれ、気泡が入ってるのに…?」
「ね、美味しいでしょ。この苦めのカラメルが美味しさ際立たせてるよね、お店のって苦くないじゃん?」
楽しそうにプリンを褒めているシュウは気を遣って声を出している様子はない。本当にシュウのお眼鏡にかなったのかも、とシュウに近づき顔色を伺った。
「ほんとに美味しい…?」
「え?美味しいじゃん、どうしたの?」
スプーンを持って不思議そうに見上げるシュウに、思わず口元が緩む。良かった、と小さく溢すとプリンカップにスプーンを置いたシュウが身体ごとこちらを向いた。
「ルカ、まだ言ってなかった。…プリン作ってくれてありがと、嬉しいよ」
蕩けるような、少し恥ずかしそうな笑みを見て、口角が上がったのは仕方ない。腕の中にシュウを収めて、甘い唇を一口食べる。
「嬉しいのは、俺の方だから!」