いずれは形にしたい願掛けを込めて

1.現パロあびいぶ
(子役からのキャリアウン十年、歌手業兼用のベテラン俳優×人気舞台のオーディションに応募して見事合格、新進気鋭の人気俳優)

「伊武さん、良かったらコレ貰って下さい」
「？……これは」
「俺のコンサートのチケットです」
「どうして俺に？」
「貴方が来てくれたら嬉しいから」
「いや、しかし…」

俺のその誘いにたじろぐ伊武さんは俺を前にどんどんと後退りする。その反応にも構わず、無理やり距離を詰めた俺は撮影の時の様に伊武さんの腰を強く抱いて引き寄せた。これには撮影が終わっても慣れないらしい。
固まってる隙を狙って、着ていた黒のジャケットのポッケに俺のチケットを捩じ込んだ。この人には強行に近い動きを見せた方がいいらしい。あの時のようにぎこちなく固まった身体を更に引き寄せ、俺より高い位置にある顔。少しだけ背伸びをして、唇を耳元に寄せて囁いた。

「絶対来て。俺、貴方が居たらめちゃくちゃ頑張れる」

言いたいことだけ告げると俺は距離を取り、そのままあの人に背を向けた。
来てくれるかは半信半疑。これは賭けだ。ダメなら他の策を練らないと。まだだ、もっともっとあの人の中で俺の存在を色濃くしとかないと、そうでないと思い出してくれない。