私とワルツを「ねぇ、見て。月が綺麗よ」
浴室から寝室に向かう廊下の窓から見えたものだから、考える前に言葉が零れた。
ハッとして半歩後ろを歩く彼を振り返ったら、いつも伏せがちな目を珍しく見開いていた。
「あの、違うの。ううん、違うってこともないんだけど……」
「……わかってるよ」
また、目を伏せてしまった。
わかってる。何がわかってると言うのだろう。私の気持ち。彼の気持ち。本当の、心の奥底の、臆病な私たちが言えない気持ち。
「ほら、こんな月明かりの下で踊ったりなんかしたら、素敵じゃない?」
でも言及なんかできなくて、わざとらしく笑って、ワンピースの裾なんか摘んでみたりした。
「あぁ……君に似合うだろうね」
「私だけ踊らせるつもり?」
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