「親父、あっ真島さん。こちら新幹線のチケットです」
「おおきに。にしてもお前は呼び方慣れんの〜今度カタギの前で親父言うたら承知せんからな!」
「へぃ、すいやせん。おやっ、あっ…」
どうしても慣れない。数十年も親父と呼んできたのだ。舌に音が染みついている。すぐに慣れろと言う方が難しいのだ。
「はぁ〜〜もう行き。なんかあればチャット飛ばしてくれや。」
「へぃ!失礼します!」
毎度怒られるけど、「親父」と呼ばれる度に親父は嬉しそうにするのがわかる。俺のたった1人の親なら、俺は子なのだと絆を実感できる瞬間だ。
今までこの組は建設会社を経たこともあり、カタギとして生きる事を余儀なくされてきた。ほぼブラックだったけど。
でも今はそうはいかない。暴対法改定に加え、暴排条例が引かれている。ヤクザだと言うだけで捕まる。ヤクザの子という言うだけで保育園にも断られる。
この警備会社で何かマイナスのイメージがついてしまえば、さらに元同業者を苦しめてしまう。堂島さんや渡瀬さんをはじめ、親父や冴島の叔父貴たちもかなり神経を張っている状況だ。
今まで手広くシノギを行ってきた真島組は、この会社でも重宝されていると感じる。そのせいか親父もだいぶあちこちを飛び回る忙しい生活を送っている。
神室町にいた頃は、親父に軽口叩いてぶん殴られたり追いかけ回されたりした。サボってふらつく親父の代わりに嶋野の親父や六代目に何度も謝り倒したっけ…
元々親父は真面目な性分だけど、その頃が嘘みたいに仕事に励んでいる。当時が決して良かったわけではないけど、あのネオン街を飲み込んだようなギラギラした眼光が見られないのかと思うと残念だな。親父も歳を取ったのかなと少し寂しい気持ちが心を過った。
長く独り身の親父だが、冴島さんも(桐生さんも)いる。あと、東京出張の際に必ず会う人がいるらしい。正確には横浜だけど。波瀾万丈な日々を送ってきた親父にとって、今が人生で1番落ち着いた時間なのだろう。
「兄貴!ここの人員配置なんですが…」
「南さん、「兄貴」はちょっと…」
「あっ、すいやせん、西田さん」
「よし。んで、どれどれ…」
うーん、こりゃまだまだ大変そうです。親父。