眼球(とある章)閉店間際、最後の客が帰り閉め作業に入ろうかという時、店のベルが鳴った。
「いらっしゃい」
反射的に応えると、
「まだやっとるか?」
暗がりから男が言う。
「ああ、かまわねぇよ。寒いだろう。早く中入りな。」
「おおきに」
物腰柔らかな口調とは一点、ライトに照らされた男は恰幅が良く、坊主にモッズコート姿と威圧感を感じさせた。
「何にするかい?」
「・・・」
「まぁ、ゆっくり決めてくれよ。できるものなら何でも作るぜ。」
そうして食器を片付けようとシンクへ向かおうとする背中に言葉が投げかけられる。
「真島はどこや」
「・・・」
「どこや」
「・・・」
「どこやと聞いとるんや!答えんかい!」
男はカウンター越しに俺の肩を引き振り向かせると、そのまま胸ぐらを掴んだ。踵が軽く浮く。
長い入院生活や加齢によって筋肉は落ちたものの平均よりも体躯はある方だと思っていた。
男が店に入ってきた時から体格の良さは認めていたが、これは思った以上だ。本気を出せば男の1人や2人持ち上げるくらい容易いのだろう。
「お前、兄弟をどこにやったんや!!」
唾が顔にかかる。鼓膜が揺れる。
久しぶりだな。こういう状況は。少し高揚する自分にどこまで行ってもヤクザ者なのだなと殆呆れる。
「しらねぇな」
「知らん訳があるか!」
背後の棚に思い切り突き飛ばされる。ウィスキーのボトルやグラスが落ちて割れ、けたたましい音が鳴る。グラスの破片で切った傷口にアルコールが鋭く染みた。