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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチがアポリアの記憶の影響でクラシックに詳しかったら、という幻覚テキストです。

    ##TF主ルチ

    クラシック 食事を終えると、使い終わった食器を流しに運んだ。蛇口を捻り、流れ出したお湯で表面をすすぐ。こびりついていた油やソースが、水圧に押されて流しへと消えていく。スポンジに洗剤をつけると、残った汚れやぬめりをこそぎ落とした。
     手を動かしていると、どこからか音楽が聞こえてきた。フルオーケストラで演奏されている、クラシックのCDか何かのようだ。どこかで聞き覚えがある気がするけど、どこで聞いたか分からないメロディーだった。
     リビングに視線を向けて、音の発生源に気がついた。つけっぱなしになっていたテレビの中で、音楽系のクイズ番組が放送されているのだ。季節の変わり目になると、テレビ放送は単発の特番が増えていく。今放送されている番組も、そのうちのひとつらしい。
     クイズの仕組みはシンプルだ。クラシックの有名なフレーズを流して、出演者が早押しで答えるというものである。出題される曲もCMソングやテレビで使われるものばかりで、聞きなれないものはひとつもない。それでも、出演者たちはタイトルが分からずに四苦八苦していた。
     テレビから流れる音楽を聴きながら、僕も首を傾げてしまう。一般的な年頃の男の子がそうであるように、僕もクラシックには疎いのだ。それが何かのCMに使われていたことは分かるが、タイトルが何かは分からない。流れるお湯を止めると、テレビの前に近づいた。
     その曲は、チャイコフスキーの曲らしかった。僕にはよく分からないが、バレエなどに使われるようである。僕にはCMのイメージしか無かったのだが。
    「なんだ? クラシックか? 君は、こんなのに興味があるんだな」
     僕がテレビとにらめっこしていると、ルチアーノが部屋に入ってきた。お風呂から上がったばかりだから、髪はぐるぐるとタオルで覆っている。左手にはドライヤーを抱えていた。
    「興味があるわけじゃないけど、気になるから見てたんだよ。クラシックの曲って、聞いたことはあってもタイトルが分からないから」
     そんなことを言っていると、次のクイズが出題された。さっきの曲と同じように、どこかで聞いたことのある音楽である。やっぱりというべきか、タイトルまでは分からなかった。
    「パッヘルベルのカノンだな」
     僕が頭を悩ませていると、隣でルチアーノが呟いた。正解を確信しているような、自信満々な声である。一度では聞き取れなくて、僕は間抜けな声を上げてしまった。
    「え?」
    「曲のタイトルだよ。有名なんだから、これくらい分かるだろ」
    「……」
     問い詰めるように言われ、僕は何も言えなくなってしまった。そんなもの、僕が知っているわけがないのだ。僕は、自他共に認めるデュエルマニアなのだから。
    「分からないのかよ。少しは勉強したらどうだ?」
     呆れを隠さない顔で、ルチアーノは僕に言う。彼の表情をみる限り、これは呆れられて当然のことなのだろう。
     テレビの中の芸能人も、このタイトルは知っていたようである。一人が解答し、他の出演者が納得した様子で声を上げている。本気で分からなかったのは、僕だけだったみたいだ。
    「君だけが分かってないみたいだな。恥ずかしくないのか?」
     ルチアーノのじっとりした視線が、隣から僕を突き刺す。さすがに恥ずかしかったから、黙って視線を逸らした。
     そうこうしているうちに、テレビでは次の問題が出題されている。今度もCMでよく使われるような、定番の楽曲だった。 
    「これは、アイネ・クライネ・ナハトムジークだよ。君には分からないだろうけどね」
     小馬鹿にするような声色で、ルチアーノが解答を呟いた。馬鹿にされてるのは確実なのだが、自分の無知が原因なのだから文句は言えない。羞恥心を感じつつも、黙ってテレビを見つめた。
     またしても、ルチアーノの解答は当たっていた。クラシックなんて興味無さそうなのに、不思議なものである。それとも、クラシック音楽の知識は、権力者の教養として必須科目なのだろうか。
     次の曲は、僕にも馴染みがあるものだった。かつて学生だった子供たちなら、必ず聞いたことのある曲だ。小学校の運動会で流れる、有名なあの曲である。アップテンポなリズムと軽快なメロディーは、今でも僕の身体に染み付いていた。
    「これは分かるだろ。有名だからな」
     僕の方を見ると、ルチアーノはにやりと笑う。さすがの僕でも、これくらいは答えられると思ったのだろう。僕もこれくらいは答えたかったから、必死に記憶を遡った。
    「えっと、運動会の曲だよね。どんなタイトルだっけ……?」
     口ごもる僕を見て、ルチアーノはさらに呆れたようだった。じっとりとした視線を向けると、投げやりな声で言う。
    「天国と地獄だよ。正確には、舞台の序曲なんだけどな」
     彼の言葉を聞いて、僕は納得に手を叩く。そういえば、この曲はこんな名前だった。何度も聞いているのに、すっかり忘れてしまっていたのだ。
    「まあ、タイトルくらいは知ってたみたいだし、許してやるよ」
     妙な上から目線で、ルチアーノは僕に言葉を吐く。偉そうな態度だが、僕には咎めることができなかった。何度も言うが、今回に至っては僕の無知が原因なのだから。

    「G線上のアリア」

    「野ばら、だな」

    「花のワルツ」

    「これは……」

     その後も、ルチアーノは次々と解答を述べていく。出題数が増える度に内容も難しくなっているのだが、少しも詰まる様子は見せない。どんな曲が流れても、淡々と解答を呟くだけだった。
    「ルチアーノって、クラシックに詳しいんだね。びっくりしたよ」
     番組も終盤に近づいた頃に、僕はそんなことを呟いた。普段のルチアーノは、あまり芸術に興味が無さそうな様子をしているのだ。クラシックに対してだけ豊富な知識を語るのが、なんだか不思議に思えた。
    「まあな。クラシックには、いろいろあったから」
     答える声に違和感を感じて、僕はルチアーノを見つめてしまう。その声には、普段の彼からは感じない憂いが含まれていたのだ。黙ったまま言葉を待っていると、彼は小さな声で話し始めた。
    「クラシックは、アポリアが好きだったんだよ。そうは言っても、この姿の時じゃなくて、もっと成長してからの話なんだけどな。それでも、僕の記憶には、クラシックのメロディーが染み付いてるんだ」
    「そうだったんだ……」
     なんだか、思っていたよりも重い話のようだった。簡単に話を振ってしまったことに、言い様のない罪悪感が迫ってくる。
     そんな僕の気持ちに気づいたのか、ルチアーノは気丈に顔を上げる。口角を上げて僕を見ると、飄々とした態度でこう言った。
    「そんな顔するなよ。アポリアは僕のオリジナルだけど、僕自身じゃないんだ。悲しいなんて思わないぜ」
     それが強がりであることを、僕は過去の経験で理解していた。それでも強気に振る舞うのは、僕に謝られたくないからだろう。それが分かるから、僕も知らんぷりしてやり過ごすことにする。
     ルチアーノの記憶の中には、アポリアの記憶が紛れているのだ。それはつまり、僕の愛した相手の何割かが、アポリアという人間でできているということである。そうなれば、僕の好きな相手はルチアーノと言えるのだろうか。……考えると混乱しそうになる。
     アポリア。その人間のことを、僕は少しも知らないのだ。これまでは知らなくてもいいと思っていたけれど、今はそんなに単純なことではないと思い始めている。ルチアーノのことを知るためには、アポリアのことを知らないといけないのだから。
     彼は、一体どんな人間なのだろう。一生合うことのないであろう相手が、気になって仕方なかった。
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