Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 415

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。寝起きのキスは雑菌が~という話を見て、ルチはこれを口実に断ってきそうだなと思った、という話。

    ##TF主ルチ

    寝起きのキス その日は、珍しく自分から目を覚ました。そっと周囲を見渡すと、部屋はまだ薄暗い。壁にかけられた時計の針は、午前六時を指していた。
     僕は、静かに寝返りを打った。できるだけ音を立てないように体勢を変えて、目の前のルチアーノに視線を向ける。彼は、まだすやすやと寝息を立てていた。起こさないように顔を近づけると、その寝顔を観察する。
     ルチアーノは、穏やかな表情をしていた。枕に対して俯せの姿勢を取るように、布団の中から顔を出している。触覚のような前髪が乱れて、鼻の上に垂れていた。長い髪は扇のように広がり、背中や胸元を覆っている。頬はぷっくりと丸くて、柔らかく閉じられた目蓋には、控えめに睫毛が添えられていた。
     彼が呼吸をする度に、小さな肩が上下に揺れる。人ではない存在であるにも関わらず、彼は人間のように呼吸をするのだ。鼻から吐き出される吐息は、静かに赤い髪を揺らす。触れたくなる衝動を抑えながら、静かにその様子を観察した。
     こうして見ていると、彼は年頃の男の子そのものだ。本当は強大な力を持つ神の代行者だなんて、説明されても信じられないだろう。僕だって、未だに信じられなくなる時があるのだ。この天使のような男の子が、冷酷な仕草で人を殺めるなんて。
     そんなことを考えていたら、不意に彼が目を開いた。目と鼻の先にある僕の顔を見て、驚いたように目を開く。いそいそと身体を後ろに下げると、僕から距離を取った。
    「おはよう、ルチアーノ」
     声をかけると、彼は不機嫌そうに眉を動かす。それと同じくらい目を細めると、冷めきった声で言った。
    「なんだよ、朝っぱらから寝込みを襲う気か?」
    「違うよ!」
     とんでもない誤解をかけられて、僕は慌てて否定した。寝込みを襲うなんて、パートナーとしてあるまじきことだ。そんなことをしそうだと思われるほど、僕は信用が無いのだろうか。
    「じゃあ、なんだよ」
    「綺麗だなって、思って」
    「はあ?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは甲高い声で疑問を露にする。目は糸のように細められていて、綺麗な顔が台無しになっていた。
     しかし、そんな姿も、僕にとっては愛おしいものだ。少し生意気な態度と、容姿に似合わない大人びた表情も、甲高く耳を突き刺す声も、かわいくて仕方ない。今も、彼を抱き締めたい衝動を抑えているくらいだ。
    「ねぇ、キス、してもいい?」
     尋ねると、彼は不快そうに首を振った。僕の口元に視線を向けると、じっとりと湿った声で語る。
    「嫌だよ。寝起きの人間の口は、雑菌で溢れてるそうじゃないか。そんな汚い口で、僕の装甲を汚すつもりかい?」
     聞き慣れない口実だった。予想外の言葉に、少しだけ気圧されてしまう。そもそも、彼は何度となく僕と口付けを交わしているのだ。それは食後だったこともあったし、夜中の寝起きだったこともある。どんな状況であっても、彼は雑菌なんて気にしていなかった。
     つまり、これは拒否の意思表示なのだ。今は僕の要求には応じないと、彼は伝えているのである。しかし、こんな遠回しな断り方をするのなら、僕にも考えがあった。
    「じゃあ、歯を磨いてくるよ。そうすれば、口の中の雑菌はなくなるでしょ」
    「そこまでしてしたいのかよ。変なやつだな」
     呆れるルチアーノを横目に、僕は洗面所へと向かった。寝起きのふわふわした頭のまま、歯ブラシを手に取って水に濡らす。ぼんやりしていたせいで、蛇口に手の甲をぶつけてしまった。
     痛みに耐えながらも、歯みがき粉をつけて口の中を磨く。ルチアーノに揚げ足を取られないように、隅々まで綺麗にした。軽く口の中をゆすぐと、香味材が口いっぱいに広がってさっぱりした気分になった。
     ついでに顔を洗ってから、ルチアーノの待つ部屋へと戻る。ベッドの上へと視線を向けると、彼は普段着姿で隅に腰かけていた。子供とは思えないくらいの貫禄を出しながら、豪快に足を組んでいる。すっかり、いつもの調子に戻っていた。
    「戻ったな。で、キスはするのかよ」
     にやにやと笑みを浮かべながら、ルチアーノは僕に問いかける。その姿を見ていたら、さっきまでの甘い気持ちもしぼんでしまった。歯みがき粉で口を涼やかにしてしまったのも良くなかったのかもしれない。はっきりと目が覚めてしまったせいで、キスという気分ではなくなってしまったのだ。
    「やっぱり、いいかな。なんか、キスって感じじゃなくなっちゃったし」
     言葉を選ぶように答えながら、僕は彼の隣に腰を下ろした。変な足の組み方をしてるから、そこには少し距離ができる。今の僕の心を表しているみたいで、なんだか複雑な気分になった。
    「なんだよ。そこまでしたのに、結局やめるのか? こっちはそのつもりで待ってたのにさ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは言葉を重ねる。そのからかうような語調は、あまり待っていた感じはなかった。全てを見通しているような瞳に、僅かな違和感を感じてしまう。
    「もしかして、こうなるって分かってて歯を磨かせたの?」
     尋ねると、彼はにやりと口角を上げた。きひひと笑い声を上げると、楽しそうに言葉を発する。
    「さあ、どうだかな」
     完全に、からかっている声だった。結局のところ、僕はルチアーノの手のひらの上で転がされているだけなのだ。なんだか悔しくなって、背中からその身体を抱き締める。
    「なんだよ。そういうことはしないんじゃなかったのか?」
     声に笑みを含んだまま、ルチアーノは僕の腕に手を当てた。柔らかな温もりが、僕の手に直接伝わってくる。幼い子供特有の、燃えるような体温だった。
    「キスはしないけど、ぎゅっとはしたいよ」
     そう答えながら、僕は彼の背中に顔を埋める。からかわれてばかりなのは、やっぱり悔しかったのだ。僕だって男の子だし、一応、そういう面でのプライドはある。遊ばれてばかりでは納得できないのだ。
    「そうかよ。まあ、好きにしな」
     余裕綽々な態度のまま、ルチアーノは僕の腕を撫でる。その手つきに大人びた気配を感じて、余計に悔しくなってしまった。やっぱり、僕はルチアーノには敵わないのかもしれない。軽く唇を噛みながら、彼の温かい背中に顔を埋めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞👏💖💞💞💗
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works