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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチはいたずらでお玉とフライパンの目覚ましをやりそうだなと思ったという幻覚です。

    ##TF主ルチ

    目覚まし 微睡みの中で、僕はごろんと寝返りを打った。両目を柔らかく閉ざしたままで、布団の温もりを堪能する。部屋に差し込む暖かい日差しも、余計に僕の眠気を誘った。布団を口元まで引き上げると、全身が多幸感に包まれる。
     春は、二度寝の季節だ。春眠暁を覚えずなどと言うように、この時期はすごく眠たくなる。微睡みに身を委ねると、もうここから出たくなくなってしまうのだ。うとうとと船を漕ぎながら、僕は夢と現実の境目を漂った。
     しばらくすると、誰かに身体を揺らされた。僕を起こしに来る相手なんて、心当たりは一人しかいない。振動に身を委ねながらも惰眠を貪っていると、彼は耳元で囁いた。
    「おい、起きろよ。今日も練習するんだろ」
     甲高い声が、僕の耳に入り込んでくる。すっかり聞き慣れてしまった、幼い男の子の声だ。アンドロイド故に僕よりも早起きな彼は、毎日のように僕を起こしに来る。いつの間にか、これが毎朝の日課になっていた。
    「あと五分…………」
     だらしのない声で答えて、僕は布団を引き上げる。僕がすんなり起きられないのも、毎朝の風物詩だった。ぶつぶつと小言を言いながらも、彼は目が覚めるまで起こしてくれるのだ。
     しかし、今日はいつもと様子が違った。僕の返事を聞いた彼は、素直に身体から手を離したのだ。ベッドの上から降りると、呆れたような声で言う。
    「仕方ないな。少しだけだぞ」
     意識の奥で、足音が遠ざかっていくのを感じた。静かになった部屋の中で、再び微睡みに意識を預ける。眠りと覚醒の間は、妙にふわふわとした感触だ。途切れそうで途切れない意識の奥で、時計の針や機械の稼働音が微かに聞こえた。
     うとうとと船を漕いでいたら、いつしか眠ってしまったようだった。辛うじて周囲の音は聞こえているが、意識は全く別の世界を漂う。光だけを映し出す空間の中で、僕は幸せを感じていた。
     しばらくすると、再び足音が聞こえてきた。体重の軽い子供特有の、パタパタとした足音だ。彼が来たということは、もうすぐ眠りから引き戻されるのだろう。ふわふわとした意識で考えていると、耳元で轟音が轟いた。

    ──ガチャン……!
     
     至近距離で鳴らされた大音声に、僕はその場で飛び上がった。心臓をバクバクと鳴らしながら、慌てて身体を起こす。下手をしたら、心臓が止まったんじゃないかと思ったくらいだ。寝惚けた顔で周囲を見渡すと、そこにはにやにやと笑うルチアーノの姿があった。
    「おはよう、寝坊助さん」
     彼は、両手に見慣れないアイテムを握っていた。右手には大きなフライパン、左手には汁物を掬うために使うお玉である。服装はいつもと変わらないイリアステルスタイルだから、料理をしていたようには見えない。僕が唖然としていると、彼はお玉でフライパンを打ち付けた。

    ──ガチャン……!

     さっきよりも控えめな金属音が、再び部屋の中に木霊する。耳を貫く不快な音に、僕は思わず顔をしかめた。こんな音を立てられたら、嫌でも目が覚めてしまう。抗議の視線を向けると、ルチアーノは楽しそうにきひひと笑った。
    「目が覚めたか? 覚めてないなら、もっと叩いてやってもいいんだぜ」
    「覚めたよ。覚めたから、お玉はやめて」
     朦朧とした意識で答えると、ルチアーノはおとなしく両手を下ろした。変な目の覚め方をしたから、まだ頭はぼんやりしている。足元がふわふわとしていて、上手く頭が回らなかった。
    「それにしても、どうしてフライパンとお玉なの? 起こすなら、もっと別の手段があるでしょ」
     なんとか質問を捻り出すと、ルチアーノはケラケラと笑った。楽しそうに目を細めながら、からかうような語調で言う。
    「どうしてって、人間の文化では、子供を起こす時にフライパンを叩くんだろ。君は文化を好んでるみたいだから、わざわざやってやったんだぜ」
     まるで僕のためみたいな物言いだが、口元はにやりと歪んでいる。要するに、文化を口実に僕をからかいたかったようだ。本人は楽しそうにしているが、僕には迷惑極まりない。
    「文化って、そんなの漫画やアニメだけでしょ。びっくりして、心臓が止まるかと思ったんだから」
     左胸を押さえながら、僕は大きく深呼吸をする。だいぶ収まってはいるが、まだ心臓がドキドキしていた。身体は強ばっているし、頭もあまり回らない。毎日こんな起こし方をされたら、絶対に身が持たないだろう。
    「なんだよ。せっかく起こしてやったのに、文句ばかり言ってさ。どう起こしてほしかったんだ?」
    「普通のでいいんだよ。身体を揺らすとか、肩を叩くとか」
     僕が言うと、彼は不満そうに唇を尖らせた。顔を上げると、じっとりとした瞳で僕を見る。
    「そんなこと言ってるけど、君は普通に起こしても起きないじゃないか。誰だよ、あと五分とか言ってた伸ばしてた奴は」
    「うう……」
     そこまで言われたら、僕には返す言葉がなかった。彼の言う通り、僕はものすごく目覚めが悪いのだ。ついさっきだって、二度寝の時間を要求したばかりである。
     言葉に詰まる僕を見て、ルチアーノは甲高い笑い声を上げる。僕の弱みを握っていることが、嬉しくて仕方ないようだ。にやにやと笑いながら、尊大な態度で僕を見る。
    「僕も鬼じゃないからね。少しは温情をやるよ。一度で起きたら、身体を揺らすだけで許してやる。その代わり二度寝したりしたら、フライパンでガシャンだからな」
     ケラケラと笑い声を上げながら、ルチアーノはフライパンを見せつける。そんなことを言われたら、黙って従うしかなかった。毎日フライパンを叩かれたら、僕の心臓は弱ってしまう。嫌だと言ったところで、聞いてくれるルチアーノではないだろう。
     明日からは、二度寝の楽しみはお預けだ。名残惜しさを感じながらも、僕は静かに頷いた。
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