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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんに情を移したことで神に咎められるルチと、そんな神に逆らうつもりでいるTF主くんの話。シリアスです。

    ##TF主ルチ

    感化 薄暗い部屋の中で、僕は端末のモニターを見つめた。そこには、人の姿を模した創造主の姿が映っている。顔を覆う金属の仮面に、身体と一体化した巨大なDホイールは、僕たちの真の姿と同じものだ。静かに言葉を待っている神に、僕は近況を報告する。
    「サーキットの構築は、想定通りに進んでいます。この様子であれば、WRGP当日にはアーククレイドルを転送できるでしょう。僕があの青年とチームを組むことは、ホセにも了承を得ています。プラシドは何をしているか分かりませんが、悪い方向には転ばないでしょう」
     大まかに前置きをしてから、詳細の報告に移っていく。神から投げ掛けられる質問に、言葉を選んで答えていった。報告の基本は、私情を挟まないことだ。感情を表さないように気を付けながら、神の求める答えを探していく。
    「以上が、本日の報告になります」
     結びの言葉を告げると、神は重々しく頷いた。一度言葉を引っ込め、何かを思案するように黙り込む。しばらくすると、重みのある声でこう告げた。
    「ひとつ伺いたいのですが」
     その言葉で、僕の身体に緊張が走った。報告内容に、何か漏れがあったのだろうか。動揺を押し殺しながら、平静を装って言葉を吐く。
    「なんでしょう」
    「タッグパートナーには、人間の男を選んだと聞きました。彼に、どれほどの利用価値があるのですか?」
     返ってきた言葉に、ひっそりと胸を撫で下ろす。どうやら、神が知りたいのはパートナーの青年のことだったらしい。穆に対する咎めの言葉ではなかったのだ。
    「彼は、かなり利用価値のある男です。デュエルの腕は人並み以上ですし、僕の任務についてくる体力もあります。詳しいことを説明しなくても、組織について深入りもしません。タッグパートナーとしては、模範的な人間でしょう」
     思い付くままに言葉を並べると、神は僅かに空気を強ばらせた。仮面の下の瞳を険しくすると、重々しい声色で言う。
    「貴方は、彼に感化されているのですか」
     その言葉に、僕は心臓が凍りつきそうになった。神は、僕に忠告をしているのだ。人に情を移すことは、僕たちの絶対的なタブーなのだから。
    ──人間に、感化されてはいけません
     神の重苦しい声が、脳内メモリから掘り起こされる。最後にこの言葉を聞いたのは、僕がタッグパートナーの青年の存在を報告したときだ。その時から、神は気にかけていたのだろう。僕が青年に情を移し、神の手から離れてしまうことを。
    「彼は、ただの協力者です。情を移すようなことはありません」
     淡々と答えるが、動揺を隠せているとは思えなかった。僕が彼にどのような感情を抱いているかは、神もお見通しのはずだ。わざわざ言葉にしているのは、僕に対する脅しなのだ。
    「それなら構いません。貴方が彼に感化されてしまったら、どちらかを始末することになっていたかもしれませんから」
     僕に言い聞かせるように、神は恐ろしい言葉を重ねる。それは、代行者の本分を忘れぬようにという、神からのお告げなのだろう。僕にとって、それほど恐ろしい言葉はなかった。
     やり取りを終えると、僕は静かに通信を切る。手が震えているのは、恐怖を感じているからだろうか。ただでさえ大人を恐れるこの身体は、神の言葉にはさらに弱くなる。告げられた言葉は、じわじわと僕の心を侵食した。

     青年の家に辿り着いても、心を覆う恐怖は消えなかった。神の言葉が脳裏を反復して、口数が少なくなってしまう。僕が青年に情を移したら、彼か僕のどちらかが始末されてしまうのだ。自分か相手が酷い目に遭うかもしれないと思ったら、距離を詰めることなどできない。
     僕の異変は、青年にも伝わったようだった。僕に視線を向けると、困ったように眉をハの字にする。しばらく見て見ぬふりをしていたが、思いきった様子で尋ねた。
    「ルチアーノ? どうかしたの?」
    「別に、なんでもないぜ」
     問いを投げられても、僕には突き返すことしかできない。下手な言葉を返したら、神に始末されてしまうかもしれないのだ。言葉にすることはないものの、神は僕たちを監視しているのだから。
     僕に否定され、青年もこれ以上の深入りはできなかったようだ。おとなしく言葉を引っ込めると、何事もなかったように片付けを始める。風呂を済ませ、長い夜を迎えると、僕たちは背中合わせで布団に入った。
     静かになると、やはり考えてしまう。僕たちが、神に忠告を受けていることだ。こんなにも恐れているということは、僕は感化され始めているのだろう。この青年に情を移して、彼や自分自身に危害が加わることを恐れている。
     一度自覚してしまったら、止めることはできなかった。自身の地位を守るには、彼との関係を解くしかない。同じ時間を過ごしてしまったら、僕はさらに彼を求めてしまうのだ。そうなったら、神は僕たちを放っておかない。
     考えた末に、僕はひとつの結論に辿り着いた。自分の身を守るには、この選択しかないと思ったのだ。大きく息を吸うと、覚悟を決めて言葉を吐き出す。
    「今日を最後に、僕たちのタッグは解散しよう」
     僕の言葉を聞いて、青年は僅かに身じろぎをした。重苦しい沈黙が、僕たちの間を埋め尽くす。気まずさを感じ始めた頃に、彼が口を開いた。
    「どうして? どうして、そんなことを言うの?」
     返ってきたのは、純粋な疑問の言葉だった。ショックを受けているのか、その声は僅かに震えている。
    「人間を僕の協力者にするのは、無理があると思ったんだ。頭脳のスペックも違うし、身体だって脆くて、すぐに壊れる。そんな身体でWRGPに挑むなんて、無茶にもほどがあるだろ」
     考えてきた返答を、僕は淡々と口にする。彼に納得してもらえるように、もっともらしく聞こえる言葉を選んだ。こうして口にしながらも、心の中では別のことを願ってしまう。
    「…………嘘でしょ」
     長い沈黙の後に、青年は小さな声を発した。人間の耳では聞き逃しそうなほどの、小さくて震える声だった。僕が黙っていると、彼はもう少し大きな声で言う。
    「人間だから戦えないなんて、本当は思ってないんでしょ。シグナーだって人間なんだから、僕にできないわけがないよ。それに、ルチアーノは、昨日まで楽しそうに計画を立ててたでしょ。どうして、急に突き放すようなことを言うの?」
     その声が悲しみに震えていて、胸が締め付けられるように痛んだ。押さえようとしていた感情が、次から次へと溢れだしてしまう。瞳から涙が溢れて、気がついたら言葉を発していた。
    「僕だって、君を離したくはないよ。でも、僕が君に心を許したら、神が君を始末するかもしれないんだ。君を失うなんて、僕には耐えられない」
     僕の声も、青年と同じくらい震えていた。僕の後ろで、青年が寝返りを打つ気配がする。後ろから伸びた温かい腕が、僕の身体を包み込んだ。
    「僕だって、ルチアーノと同じ気持ちだよ。ルチアーノを失うなんて耐えられない。もし、離れるくらいなら、僕が神様と戦うよ」
     僕の耳元で、彼は恐ろしい言葉を告げる。神への宣戦布告をするなんて、とんでもない命知らずだ。相手は創造主であり、全知全能の存在である。人間が歯向かったところで、勝ち目なんてないだろうに。
    「君は、神に逆らうつもりなのか? 全知全能の存在に、武器を向けるって言うのか? そんなことしたら、本当に命が無くなるぞ!」
    「ルチアーノのために死ぬのなら、僕にとっては本望だよ。ルチアーノと離れて生きるくらいなら、命をかけた方がずっといい」
     脅すような言葉を吐いても、彼は怖じ気づくことなく答える。本当に愚かな人間だ。僕と共に生きるために、命を危険に晒そうとするなんて。
    「分かったよ。君は、一度言い出したら聞かないもんな」
     涙目で呆れの言葉を返しながらも、僕は少し安心していた。本当は、彼が解散を受け入れることが怖かったのだ。彼が引き止めてくれなかったら、僕はまたひとりぼっちになってしまっていた。せっかく手にいれた温もりを、全て失うところだったのだ。
     僕は、既に彼無しでは生きられないのだ。こうなったら、地獄の底まで引きずってやる。例え神に逆らうことになったとしても、決して離してはやらないのだ。
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