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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。こどもの日とGWの両方を詰め込んだ話です。鯉のぼりの有名な公園にピクニックに行く話。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    こどもの日 四月も半分ほどが過ぎると、世間は連休に浮かれ始める。テレビは有名なレジャースポットを紹介し、スーパーにはピクニックやバーベキューのような屋外イベントのグッズが並ぶのだ。賞金暮らしの僕とは違い、世間の人々にとって大型連休はお祭りらしい。テレビでインタビューを受けた人たちは、浮かれた様子で予定を答えていた。
     世間がお祭り騒ぎでも、僕にとってはいつもの日常だ。ルチアーノと共にデュエルを仕掛けたり、任務の手伝いをして過ごすのである。唯一のイベントはこどもの日だが、彼は祝われることを好まない。長い時を生きる彼にとって、こどもの日のお祝いは不釣り合いなことなのだろう。
     そんなことを考えていると、テレビでは次のコーナーが始まった。大型連休の特集として、おすすめのレジャースポットを紹介しているのだ。それは有名な遊園地や博物館から始まり、開設したばかりの施設や穴場の公園などへと移っていく。
     ぼんやりと映像を眺めていると、気になる光景が流れ始めた。芝生の生えた広場の中を、無数の鯉のぼりが泳いでいるのだ。それは親子三匹だったり、夫婦だったり子供だけだったり多種多様だ。草木を揺らす風に煽られて、鯉のぼりはそよそよと左右に揺れている。こどもの日の相応しいその光景は、圧巻の一言だった。
     テレビによると、鯉のぼりが並んでいるのはシティの外れにある公園らしい。だだっ広い芝生と少しの遊具だけが並んだその公園は、毎年こどもの日が近づくと鯉のぼりを飾るのだという。その数はシティの発展と共に徐々に増え、今では二十近くが並ぶ大所帯になったのだそうだ。
     ニュースが終わると、僕は公園の位置を調べた。ここからは少し離れているが、Dホイールに乗れば行けない距離ではない。ちょっとしたピクニックに最適だと思った。
    「ねえ、ルチアーノ」
     その夜、僕はルチアーノに声をかけた。退屈そうにテレビを見ていた彼が、そのままの表情で僕を見る。興味無さげな顔付きを眺めながら、さりげない調子で本題を告げた。
    「今年のこどもの日は、ピクニックに出かけない?」
    「ピクニック?」
     返ってくるのは、呆れたような声色である。何を言い出すんだとでも言いたげな様子だった。
    「そう、ピクニック。シティの外れに、鯉のぼりが有名な公園があるんだ。こどもの日だし、せっかくだから行ってみない?」
    「わざわざ、こんな人の多い時期にか? 別の日にしようぜ」
    「こういうのは、当日に行くからいいんだよ。こどもの日が終わったら、鯉のぼりは片付けられちゃうでしょ」
    「季節のイベントってやつか。人間ってのは限定が好きだよな」
     半ば呆れつつも、ルチアーノは僕の提案を聞いてくれる。ここまで来れば、後はもう一押しだ。
    「ただの公園だから、そこまで人はいないと思うよ。ね、一緒に行こう」
    「仕方ないな。君は、一度言い出したら聞かないもんな。その代わり、デザートにはぶどうを用意しておけよ」
     渋々といった様子を醸し出しながら、ルチアーノは了承の言葉を返す。何だかんだ言っても、最終的にはついてきてくれるのだ。彼がここまでほだされてくれたことに、嬉しさを感じてしまった。

     当日は、絶好の行楽日和だった。ぽかぽかと温かい青空の下を、お弁当を下げたDホイールで走っていく。後ろにはルチアーノが座っていて、僕の腰に腕を回していた。一時間ほど走り続けて、ようやく目的地へとたどり着く。
     公園の場所はすぐに分かった。入り口に近づく前から、風に揺れる鯉のぼりの群れが、住宅地の上空を泳いでいたのである。テレビで見たのと全く同じ光景が、僕たちの目の前に広がっていた。近くのパーキングにDホイールを止めると、お弁当の鞄を手に取る。
    「じゃあ、行こうか」
     空いている手でルチアーノの手を握ると、公園の入り口へと歩き出す。住宅地を通る大通りを抜けると、大きな門が見えてきた。
     公園の中は、それなりに賑わっているようだった。だだっ広い芝生の上を、小学生くらいの子供たちが駆け抜けている。走っている子もいれば、ボール遊びをしている子や乗り物に乗っている子もいた。そんな彼らを見守るように、上空を鯉のぼりが泳いでいる。
    「結構賑わってるんだな。人がいないなんて嘘じゃないか」
     園内を一瞥すると、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせた。彼は同世代の子供が苦手だから、この環境は好きではないのだろう。少し苦笑いしながらも、彼の手を引いて先へと進む。鯉のぼりの真下にはベンチが並んでいて、近くには自販機が置かれていた。
    「全くいないとは言ってないでしょ。ゴールデンウィークなんだから、それなりにはいるよ」
    「こんな中で飯を食いたいなんて、人間って言うのは物好きだよな。絶対に静かなところで食べた方が旨いだろ」
    「賑やかなところで食べるのが、ピクニックの醍醐味なんだよ。非日常を感じられるでしょ」
    「また非日常かよ。毎回毎回そんなことを言って、よく飽きないよな」
     軽口を交わしながら園内を横切ると、木陰のベンチを選んで腰を下ろす。ずっと運転してきたから、身体は疲労で強ばっていた。大きく伸びをしてから、取り出したお弁当箱を二人の間に広げる。
     一段目には、おにぎりや冷凍食品が入っていた。隅に添えられた歪な玉子は、僕が早起きして焼いたものだ。二段目に入っているのは、こどもの日らしくちまきと柏餅である。一回り小さな箱には、フルーツが詰められていた。
    「じゃあ、早速食べようか」
     ウエットティッシュで手を拭くと、僕はおにぎりに手を伸ばした。外側を包んでいたラップを剥がし、大きな口でかぶり付く。中に入っているのは、たっぷりの塩鮭だ。お腹が空いていたこともあって、すぐに平らげてしまった。
    「もう食べるのかよ。鯉のぼりは見ないのか?」
    「後で見ればいいでしょ。今は腹ごしらえだよ」
     唐揚げを摘まむ僕を見て、ルチアーノは呆れたように息をつく。音を立てて割り箸を割ると、カレー味の惣菜に手を伸ばした。
    「端午の節句って言うのは、男の子の成長を祝うものなんだよな」
     しばらく箸を動かした後に、ルチアーノはそんなことを呟いた。いつものような笑みや呆れを含まない、真面目な語調をしている。真面目な話をされているのだと思って、僕も真面目な声で答える。
    「そうだね。子供の成長と、一族の繁栄を願う年中行事だ」
    「なら、僕が君の成長を祝ってもいいんだよな。君はまだ子供で、保護者の庇護が必要な存在なんだから」
    「え?」
     予想もしなかった言葉に、僕はぽかんと口を開けてしまった。間抜け面を浮かべる僕を見て、ルチアーノが楽しそうに笑い声を上げる。
    「だって、そうだろ。君はまだ未成年だ。結婚するにも契約を取るにも、保護者の許可が必要になる。こどもの日を祝われる資格は、十二分にあるんじゃないか?」
     楽しそうに笑いながら、ルチアーノは言葉を続けた。さっきの真面目なオーラは、もうどこにも見えなかった。突飛なことを言われているが、彼が口にすると説得力のあることに感じられる。一理あるような気がして、大きく首を傾げてしまった。
    「そうかな……?」
    「そうだよ。君は子供だ」
     断言するように告げてから、ルチアーノはきひひと笑う。機嫌が良くなったのか、フルーツを摘まんで口に放り込んだ。嬉しそうにぶどうを口に運ぶ姿は、発言に似合わず子供らしい。彼にも、こどもの日のお祝いは相応しいだろう。
    「じゃあ、お互いにお祝いだね。乾杯しようか」
     鞄の中に手を突っ込むと、持ってきたジュースを引っ張り出す。プラスチックのコップに注ぐと、片方をルチアーノに渡した。
    「なんでそうなるんだよ。僕は君よりも歳上なんだぞ」
     ぶつぶつと文句を言いながらも、ルチアーノはコップを受け取ってくれる。お互いにコップを手に取ると、中身を溢さないように触れ合った。
    「こどもの日のお祝いに、乾杯」
    「……乾杯」
     僕の言葉に答えるように、ルチアーノも小さな声を返してくれる。こどもの日を祝われることについては、去年よりも素直になってくれたようだ。彼の些細な変化が、僕にとっては嬉しかった。

     食事を終えると、少し園内を散策した。ルチアーノは子供の遊びが好きではないから、人の集まる芝生には近づかない。当てもなく鯉のぼりの周囲を歩くと、すぐにDホイールの元へ帰ることにした。元来た道を歩きながら、ルチアーノがぶつぶつと呟く。
    「結局、外で飯を食っただけかよ。何が面白いんだか」
    「たまにはいいでしょ。非日常だよ」
    「こんなことよりも、僕の任務の方が非日常だろ。君は変なやつだよ」
    「そうかもね」
     言葉を交わしながらだと、移動時間もあっという間だ。Dホイールに鞄を下げると、機体に乗ってエンジンをかける。僕が準備をしているうちに、ルチアーノが慣れた様子で乗ってきた。
     腕が回されたことを確認してから、僕はDホイールを発進する。夏の気配を含んだ温かい風が、そっと僕たちの頬を撫でた。
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